*≪キョンと古泉? 入院≫ [#r6b1afef] ~ 入院なんて何年ぶりだろう。この無機質なベッドにお世話になるのは、小学生だか幼稚園だかの頃に盲腸の手術をしたとき以来だ。 ~ これまでたいした病気にもかからず体が資本で生きてきた俺だが、ここ最近、自称神やら未来人やらに振り回された所為だろう。風邪をこじらせて入院するハメになってしまった。 ~ 皆さん、ちょっとした風邪だとて侮ってはいけませんよ。俺も最初は鼻風邪でした。 ~ まぁ今は、すっかり元気とは言わないものの、九割方回復している。明日には退院する予定だ。 ~ そんな俺を冷やかしに、ハルヒがご親切にSOS団を引きつれて病室にやってきた。見舞い品か、チョコやらなんやらお菓子もいっぱい持って。朝っぱらからやけに元気だ。相部屋の小島さん、騒々しくてごめんなさい。 ~ 古泉もいつもの胡散臭い笑顔で安心した。ある意味、風邪をこじらせた一番の原因はこいつだ。俺をいつも振り回しやがって。 ~ ~ くだらない話をさんざんしたあと、ハルヒたちはどやどやと帰っていった。古泉も一緒に。 ~ あいつのことだから、一人だけ残るとか言いだすんじゃないかと内心期待した俺は、寝込んでる間に脳細胞が三分の一くらいに減ったんじゃないだろうか。 ~ 4人を見送ったあと、疲労感に襲われた俺はベッドに潜り込んで眠った。 ~ 入院生活のいいところは日の高い内から眠れるということか。 ~ ~ 目覚めるともう日が傾きかけていた。病室が夕焼け色に染まっている。 ~ いったい何時間寝ていたのか気になって隣においてある時計を見ようとしたら、胡散臭い笑顔が見えた。 ~ ~ 「あぁ、起きましたか」 ~ 「起きて悪いか。いつからここにいるんだお前は」 ~ まさか変なことはしていないだろうな、と言いながらも内心は嬉しかった。やっぱり俺を気にしてくれているのか、と。 ~ 「涼宮さんたちと別れてからいったん家に帰って。それからずっとですね。あなたの寝顔は可愛かったですよ。犯そうかと思っちゃいました」 ~ 何をさらっと変態発言してるんだお前は……寝込みを襲われてたまるか。少し頬を赤らめてしまったが、夕日がカバーしてくれた。ナイスアシスト。 ~ 変態発言をした本物の変態は、何食わぬ顔で目を元のようにデスクのうえに落とす。 ~ 「それはいいとして、何やってるんだ?何か作ってるのか?」 ~ 「折り紙です。千羽鶴を作ろうと思って。入院にはつきものでしょう」 ~ 「俺は明日退院するんだがな」 ~ 「まぁ、そういわずに」 ~ そう言って再び手を動かす。 ~ 夕日に照らされたデスクのうえを見ると、きれいな千代紙がたくさん置いてあった。いったん家に帰ったというのもこれを取りに帰ったのか。 ~ だが。 ~ ~ 「……古泉。俺には鶴が一羽も見えないのだが。むしろカブトしか見えん」 ~ 「千羽鶴おろうとしたんですけど鶴の折り方しらないんですよ、実は」 ~ おいおい何を無茶な。鶴の折り方を知らないのに千羽鶴を作ろうなんて! ~ しかも、デスクのうえに置かれたカブトはことごとく何処かひしゃげている。角の部分もばらばら。なんの嫌がらせかと思うほどだ。 ~ 古泉は俺が見ているのにも気付かず、また一心不乱にひしゃげたカブトを折っている。角があわなくて苦心しているみたいだ。逆光で色素の薄い髪が透けている。 ~ そういえばこいつは意外と不器用なんだよな。「不器用なりに精一杯折ってくれている」そう思うとこのぼろぼろのカブトが一気に可愛らしく見えた。健気なやつめ。思わず顔がほころぶ。 ~ ~ 「カブトだけっていうのも淋しいから、俺が鶴のおり方を教えてやろう」 ~ 「おや、あなたは鶴が折れるんですか」 ~ 「四つ繋がった鶴だって折れる。一枚もらうぞ」 ~ 四つ…と驚いている古泉を尻目に、折り紙に折り目をいれていく。こう見えて俺は折り紙は得意なんだぞ。 ~ あっという間に羽をきれいに広げた鶴が完成した。 ~ 横の古泉は感心している。顔が近い。かなり近い。いや、これは教えてるんだから当然なんだろう。 ~ 横顔のきれいな奴はいいよなぁ、なんて思ってしまったのは無かったことにしたい。 ~ ~ 新しい千代紙を取って、次の鶴を折る。古泉も見よう見真似で折りだした。細くて白い指が作業する様子はなんだか見惚れてしまう。でも出来上がるのはブサヅル。 ~ 「できましたよ」 ~ そういってブサヅルを手渡される。やっぱり角はあってないし、ふにゃふにゃだ。俺の作った鶴と並べて二人で苦笑する。 ~ 「他にももう一つだけ折れるんです。自身作ですよ」 ~ そういいながら、きれいな指で赤い千代紙を手に取る。自身作というだけあって、さすがに手際よい。 ~ 今まで俺の見たことない折り方で、どんどんと折っていく。 ~ 形が見えてきたところで思わず俺が口を開こうとすると、こっちをむいていつものスマイルを見せる。 ~ ~ 「ハッピーバレンタインですよ、キョンくん」 ~ ~ ふいに立ち上がり、俺を抱き締めてキスしてきやがった。ハートに折った折り紙が俺の布団のうえに置かれる。あぁ、今日はバレンタインだったか。 ~ 古泉の体温を感じながら、今は小島さんがいなくてよかった、と少しだけ思った。 ~