僕らのアンインストール(古泉消滅ネタ・救いなし)
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*僕らのアンインストール [#ibd03276]
~
背筋に独特の嫌な感覚を覚えて飛び起きた。~
限界まで瞠った目に映るのは真っ暗な天井。~
聞こえるのは自分の激しい動悸と食いしばった歯の間から漏...
身を起して眺める暗い室内は、カーテン越しの街灯の微かな...
窓に透かした手のひらも、逆光に黒く塗りつぶされて、まる...
「嫌だ……」~
じっとりと湿ったベッドから、僕はまるでバネ仕掛けで弾か...
スイッチを叩き割る勢いで点けた蛍光灯の薄っぺらな白けた...
全てが嘘くさく作り物じみて見える。なんだか舞台演劇のカ...
それは妄想に過ぎなかったけれど、実際にこの風景は、そし...
この部屋のベッドも、クローゼットの中の衣服も、買い集め...
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、消えたくない、俺は消えたくない……!」~
――消えてしまうんだったら、その前に全部壊れてしまえ!~
言葉にならない声を上げて、滅茶苦茶に腕を振り回す。机の...
隣家から薄い壁を叩く音がしたが、知ったことじゃない。ど...
あるいは僕じゃない誰かがここに住んでいることになって、...
「……怖い、嫌だ、消えるのは嫌だ……嫌なんだ…――…、助けて……助...
滅茶苦茶に物が散乱した床に投げ出した足を両腕で抱え込み...
~ ――僕は、実際そう遠くない未来にこの世から削除されること...
~
きっかけは、ちょっとした違和感。~
いや、ちょっとしたどころではないな。なにしろ気がついた...
いくらなんでもそんなはずはなかったと思う。~
そんな人数では、中学時代、砂嵐のように荒れていた涼宮ハ...
今の、安定した彼女の精神状態にはちょうど見合った……ある...
少し前から疑念は湧いていた。けれど何一つ証拠はなかった...
でも、それではおかしい。~
この疑念は僕個人や能力者の間だけではなく、『機関』の上...
しかし、『機関』の研究者やお偉方の間でも意見は割れた。~
曰く、僕らの記憶や記録の方が書き変わっていて、やはり最...
曰く、僕ら能力者は閉鎖空間の規模に合わせて徐々にこの世...
曰く、確かに能力者は消えているが、能力とその能力を持っ...
……等々。
結論は割合に早く出た。~
僕が、長門さんに頼んで情報統合思念体の持つデータベース...
~
~
~
「……特殊次元断層進入能力保有者の人数の減少は、発生時から...
長門さんだけでなく、喜緑さんに確認を取ってもらっても、...
7名分の、氏名、その他一切の属性情報、履歴の消失。本来...
けれどそのデータ消失の日時は、僕の記憶にも『機関』の記...
絶望だった。少なくとも地上にいる我々人間には何も感知で...
信じたくなかった。耳を塞いで、聞かなかったことにしてし...
「……そう、ですか…」~
だけど僕はそうしなかった。~
この情報は『機関』に持ち帰り、分析と検討の材料にするべ...
「……そう。でも原因は不明。ごめんなさい」~
「いえ、いいんです……。むしろ、感謝しています」~
「わたしもあなたの消滅は望まない。……でも無力。わたしたち...
ぱちんと音を立てそうにひとつ瞬きして、長門さんは目を伏...
「済みません、余計なご心配をおかけして。ああ、このことは...
「……いい」~
頭を下げた去り際に、長門さんが僕を呼び止めた。~
「古泉一樹。……この情報は、あなたの消滅を回避する上で何の...
「何でしょうか?」~
立ち止まって振り返った耳に届いた言葉は、僕の胸を突いた。~
「わたしという個人は、あなたを失いたくない、忘れたくない...
嬉しかった。長門さんが僕を忘れたくないと思ってくれたこ...
「……長門さん、」~
抑えていた感情が、奔流となって溢れ出しそうだった。膝が...
長門さんは厳密には人間ではないが、それでも充分女性と呼...
「せめて……せめてあなただけでも、もしも僕が消えたら、忘れ...
「……確約はできない。でも、そうしたいと思う。……とても強く」~
「それで充分です。ありがとうございます」~
僕が、僕らが消えない方法は依然見つからなかったけれど、...
~
~
僕の持ち帰ったこの情報は、『機関』を、ことに僕ら能力者...
消えた人間は、最早存在すらしなかったことになる。遺され...
これ以上の犠牲は避けたい。では、何故僕らは消えるのか、...
けれどこれも議論百出、何一つ確証のない仮説だけが、山の...
曰く、本来能力者のような非現実的な存在はあの瞬間に力を...
曰く、涼宮ハルヒの力の強弱が問題ではなく、問題は彼女が...
曰く、情報統合思念体による情報操作。~
仮説はいくらでも出た。けれど反証もすぐに出る。今あげた...
最悪なのは、どういうプロフィールを持った人物がどういう...
~
~
……だから僕は消えてしまう不安でこうして気が狂いそうな夜...
たとえ平穏な教室や部室の当たり前の光景を見ている時、そ...
少しだけ、彼に身体的に接触する頻度を上げてしまうのは止...
彼に触れていると、彼と話していると、僕は生きていると思...
今のこの話はできないけれど、今まではトラブルが起きるた...
随分愚痴も聞いて貰った。当たり前の高校生のような顔で付...
だから彼がいれば、僕は昼を乗り切ることができた。~
だけど独りの夜はダメだった。~
灯りを消してベッドに入っても、そうそう眠れない。ようや...
灯りをつけてテレビをつけていても、考えることは自分の消...
彼も僕を忘れて涼宮さんたちと楽しく団活を続けるんだろう...
自分が消えたあとも誰も気付かずみんなが当たり前に日常を...
正直なところ、時々は能力者の仲間たちの消滅のことも考え...
仲間の誰かが死んだなら、もちろん泣くことができる。でき...
仲間の誰かのために命を投げ出すこともたぶんできる。もち...
だけど、これはそれとは事情が違う。~
自分の意志で身を投げ出すのとはまるで違う、ふと気付いた...
いっそ、消える前に自分で死んでしまおうか? それなら僕...
<……わたしという個人は、あなたを失いたくない>~
長門さんの声が耳朶に甦る。~
なるほど、死ねば忘れられはしないかもしれないが、彼らは...
ふいに彼の、苦笑気味に笑う顔が目に浮かんだ。「仕方ねえ...
彼の泣き顔は想像がつかなかった。苦虫を100匹ぐらい口...
それから涼宮さんの真夏の青空のような底抜けの笑顔。朝比...
もう随分見ていない母親の、父親の笑顔。『機関』の仲間た...
みんなの笑顔を僕の死は破壊する…たぶん。有り難いことに、...
でもそういう人たちの笑顔を、本当に壊していいんだろうか?~
かつて僕が自殺を考えていたころに、死ぬなと言ってくれた...
――いや、僕を忘れてしまうのなら……そんなもの消えてしまえ...
――いや、彼らの笑顔を破壊するぐらいなら……僕なんて消えて...
身近な人が非業の死を遂げた時のあの絶望を、悲憤を、多分...
「……畜生…」~
気持ちが定まらない。『機関』に所属する人間として、血を...
でもこんなことは想定外だった。覚悟なんてできるわけがな...
結局は、世界を守りつつ自分たちが消えない方法を考えるし...
~~
――長門さん曰く、データの欠落。消失。~
まるでコンピュータの0と1の連なりで示される記号のよう...
でも僕を待ち受けているものはそれだ。~
いらなくなったアプリケーションやファイルの削除のように...
今までに立てられた数々の仮説や長門さんから与えられた情...
<この世界は、ある存在が見ている夢のようなものなのではな...
この説にどれだけの信憑性があるのかは知らない。そんなも...
だが夢ではなくとも、涼宮ハルヒにとってこの世界は夢程度...
<本来能力者はあの瞬間に力を得たのではなく、あの瞬間にこ...
僕らを振り回す涼宮ハルヒの力、という見地だけでも、彼女...
彼女自身の理性で、充分に彼女は感情を制御できるようにな...
ならば、必要のなくなった存在は削除してしまうのではない...
彼女は僕らの存在を感知していない。彼女の理性を補助する...
彼女の意識の水面下で、僕らはただの「もう必要のないアプ...
冗談じゃない、もしそうなら、僕らはまるで塵か芥みたいな...
「違う、絶対に違う、そうじゃない!」~
そうであってほしくない。信じたくない。これ以上に整合性...
息苦しくなってきたので、僕は溜息をついて床に大の字に伸...
もしこの仮説が正しければ、八方ふさがりだ。納得できても...
まんじりともしないまま、その上別の説も思いつかないまま...
ああ、もう何日まともに眠っていないのか、数える気も起き...
勝手に叱れ、どうせ僕の将来なんて消滅するんだから。~
ヤケを起した僕に殴られないだけでも感謝しろ。~
~
~
それから平穏なひと月が過ぎた。僕ら能力者の内心だけは砂...
その間、涼宮さんは至って安定していたし、不思議な力の発...
彼女が「何か面白いことはないの?」と目をキラキラさせる...
『機関』の敵対組織もここのところはおおよそなりを潜めて...
そして僕らの数も変化なし。名簿や個々人に対する記憶はあ...
とにかく、この時点で僕らの人数は5人、それは間違いがな...
いつ次の閉鎖空間が発生するのか。次に消えるのは誰なのか...
毎朝通学路で犬を散歩させる近所のおばさん。いつもの駅の...
平穏な教室、いつもの授業風景。好きな数学の授業。ノート...
休み時間、笑い合うクラスメイト。~
そういう風景を、僕は抱きしめるように見つめ、目に焼き付...
転校早々SOS団に入団したことや、転入時期の妙なタイミ...
このごく普通の県立高校の、ごく普通に年相応の退屈を持て...
そして一番好きなこの時間。~
いつもの部室、いつものメンバー。涼宮さんは団長と大書さ...
そして僕と彼は差し向かいで……最近ルールを覚えたばかりの...
非常識な空間での非常識なメンバーによる、涙が出るほどに...
僕は幸せだった。~
ずっとこうしていたい。この幸せを守っているのだと、僕な...
最初の混乱と恐怖、そして苦しみ悩みながら、めまぐるしい...
けれど僕は、仲間の誰かは、明日か明後日か、それとも一週...
どうせ消えるのなら、この力に目覚めたばかりのころ、まだ...
なのに、どうして今更。~
「……ねえ、古泉くん。本当に何かあったんじゃないの? すご...
団長席から、涼宮さんが僕に声をかけてきた。~
訝しげに僕を眺める涼宮さんの顔。もう何度目になるだろう...
彼は何も言わない。何度か、二人きりの時間を作っては似た...
「いえ、大丈夫です」~
「……ずっとわたしも気になってたんですよ。どうしちゃったの...
「……本当に大丈夫ですよ」~
「大丈夫じゃないわよ、ずっとここのところ上の空だし、顔色...
今日はやけに食い下がる。いい加減彼女の忍耐が限界を迎え...
毎朝覗く洗面所の鏡の中の僕は、ここのところ本当に酷い有...
ぎらついて落ち窪む目の下のクマや顔色の悪さやこけた頬は...
「いえ、それはちょっと胃炎を患ってしまいまして、それでな...
これは事実だ。このタイミングすら計れない究極のロシアン...
「胃炎? それって悩みがあるんじゃないの? ここはひとつ...
「……大丈夫ですから」~
「ウソよ。ねえ、本当にあたし、古泉くんが心配なのよ」~
涼宮さんが、素早く席を立って来て僕の手を握る。~
ひんやりと柔らかな手のひら。本当に心配そうに僕を覗き込...
あんたが諸悪の根元なんだ、それなのにそんなに優しい顔を...
「……大丈夫だって言ってるだろ!」~
僕は発作的に椅子から立ち上がってその手を振り払っていた。~
「あんたなんかに心配されたくない! ほっといてくれ!!」~
そして彼女を突き飛ばすようにしながら大声で叫び出してし...
「こいずみ、くん…?」~
「こいずみくん…」~
「…………」~
「……古泉?」~
3人の声、4人分の視線。~
しまった。これはまったく僕らしくない、古泉一樹らしくな...
「……あ、いえ、済みません…。本当に、大丈夫です。済みません...
すると、今まで無言だった彼が席を立ち、大股で机を回って...
けれど彼は真剣な顔のまま、やけに優しい声を出した。~
「おい、それのドコが大丈夫だよ? お前がハルヒを怒鳴るな...
「……え? いえ……」~
いっそ怒られた方がマシだった。~
あまりに日頃と違いすぎる言動は、怒りよりも不安や心配を...
「本当に、何でもないんです……でも、そうですね。体調はあま...
これ以上部室にいては、僕は泣き出してしまうかもしれない...
「待ちなさい、古泉くん!」~
「……待てよ!」~
僕は初めて、個人的な事情で涼宮さんの命令に背いて部室を...
そしてその直後、約一ヶ月ぶりにあの不快な感覚が背筋を貫...
閉鎖空間が発生したのだ。それも、学校のグラウンドからい...
明らかに僕のせいだ。~
今度こそ本当に泣きたかった。だけど泣いても仕方がない。~
さっきの彼の心配そうな顔が目に浮かんだ。~
消えたくない、誰でもいいから僕以外の人間が消えればいい...
……でも、消えるかもしれないと彼に告げることもできない。...
僕は閉鎖空間を隔てる障壁の前に辿り着き、そして立ち尽く...
そこで暢気に走り込みをしている陸上部の連中は、まさか自...
僕はそこから目を剥がし、見えない壁の向こうの防球ネット...
あと一歩前に出るだけだ。僕が自分で引き金を引いたのだか...
怖くない。大丈夫だ。神人や閉鎖空間が怖いなんていう感情...
独り肯いて、閉鎖空間を隔てる障壁の向こうへ踏み込もうと...
「古泉!」~
「……なん…」~
間に合わなかった。振り返った僕の足は、彼に押されるよう...
「うわっ……?」~
そして僕の手を鷲づかんだ彼も、一緒に縺れるように閉鎖空...
「……また、えらく近所に出たもんだな。どうも学校が閉鎖空間...
彼は冷え切った色彩の無人のグラウンドを見回しながら、妙...
「……まあ、原因は僕ですからね…」~
「だろうな、もし俺にもハルヒ的変態パワーがあったら間違い...
僕の手を放そうとせず握りしめたまま、彼はそれこそ苦虫を...
「……あはは、済みません」~
「笑い事じゃない」~
彼はひどく真面目な顔を僕の顔に近づけた。これじゃいつも...
彼の手に強く握られた手のひらが、汗ばんでいる気がする。~
「……何があった?」~
低く響く囁き。彼の目が、僕の瞳を射抜くように真っ直ぐに...
「……少し、トラブル続きで疲れていましてね。でも大丈夫です...
僕は目をそらし、笑顔を作り直して嘘をついた。一歩後ずさ...
いつだって僕は嘘と事実と憶測を適度に混ぜながら彼に接し...
「……それでハルヒに八つ当たりか? らしくないな」~
ところが僕はどうやら日頃やりすぎていたらしい。信用なら...
そこで僕は嘘をもう一つ上に重ねて、彼の反論をねじ伏せよ...
「なにしろ連日の睡眠不足でね。寝る間もないんですよ。お陰...
けれど彼は表情一つ変えず、真っ直ぐに僕を睨み続けて、し...
「はぐらかすなよ。……お前がハルヒの命令を無視したのも初め...
睡眠不足は嘘じゃないんだけどな。あなたも充分あなたらし...
「……気付いていますよ。あのままではさらに暴言を吐きそうで...
そう言って首を少し傾げてにこっと微笑むだけに留めておい...
「……お前、やっぱりおかしいぞ。笑えてない。なんだその引き...
どんな時でも笑える自信だけはあったのに、僕はそこまで追...
「そうですか……やはりだいぶ疲れているようです。さっさと終...
ここからはまだ神人を目視することはできない。だから安全...
涼宮さんに、僕が謝っていたと伝えて下さい。そう言いなが...
「……まさか、ここまでお前が隠し通そうとするとはなあ。本当...
「え……?」~
「長門には、ずっと口止めされてたんだがな。仕方ない」~
がくん、と垂直同期が狂ったように視界が揺れた。立ってい...
「……おい、大丈夫か」~
「な、長門さんから、聞いて……? 内密にとお願いしたのに…」~
何故僕の過度の接触をあまり怒らず、ある程度受け入れてく...
「……ああ、全部な。だけどお前の様子が随分前からおかしかっ...
頭が酸欠を起したようにぐらぐらした。~
そんなに、僕の態度はおかしかったですか? 参ったな、体...
「アホか。まあお前の演技は結構なレベルだったとは思うぜ、...
彼の声はひどく優しい。優しすぎて体中から力が抜けていく...
「……だけど…だけどあなたにだけは最期まで知られたくなかった...
唇に塩辛い味を感じて、初めて自分が泣いていると気がつい...
「長門もそう言ってた。だからなるべく俺はお前から無理に聞...
座り込んだ僕に合わせて彼も地面に膝をつき、優しく僕の頭...
「済みません。どうせ消えて忘れられてしまうなら、余計な心...
「……そりゃあショックだったし知ってから毎日つらかったさ。...
「違います、確かにあなたに言えば楽になれるとは思いました...
それなら、彼には知られずに笑っていて欲しかっただけだっ...
「馬鹿野郎! 忘れないからな、俺は絶対に忘れてやらん。俺...
…これは夢か?~
撫でられるぐらいならともかく、どうして僕は彼に息が詰ま...
そりゃあ、せいせいするぜと鼻で笑うほど冷酷ではないこと...
だけどこんなにきつく僕を抱きしめて、こんなに必死に忘れ...
嬉しかった。嬉しくて、だけど今更、1時間と経たずに自分...
「……僕だって消えたくない!」~
僕はわき上がる悔しさのままに大声で叫び、それから彼の背...
「……消えたくないです……キョン君」~
初めて、僕は面と向かって彼のあだ名を呼んだ。いつものよ...
「……僕は消えたくない…あなたと一緒にいたい……、だけど、だけ...
身体の震えが止らなくなって、僕はいっそう強く彼にすがり...
~
人間というのは誰かに向けて思い切り感情を解放してしまう...
僕は今回初めて気がついたのだが、完全に前者のタイプの人...
つまり僕は不思議に恐怖も怒りも失っていた。泣きすぎて頭...
「なあ、……ハルヒはきっとお前に消えて欲しくないはずだと思...
二人とも泣き止んだあとも僕の身体を放さないまま、彼が耳...
「……涼宮さんは、」~
思った以上に冷静な声が出た。もう少しはまだ喉に絡んだり...
「僕が超能力者だとはご存じないでしょう、ですから関係ない...
僕個人が彼女にとって大切な副団長で友人という存在だとし...
「じゃあ、全部バラしちまえばいいんじゃないか?」~
僕だってそれを考えなかったわけではない。だが、彼女に超...
「……超能力者が当たり前にいる世界に住みたいですか? いや...
あなたみたいな人には受け入れがたい世界ではないですか?~
「……それでもいい。お前が消えるぐらいだったら、こんな世界...
僕の背に回る腕に力がこもる。~
あれほど現状維持を願っていた彼が、とんでもないことを言...
それほど僕を失いたくないと思ってくれるのは嬉しいし可笑...
僕は彼から身を離して立ち上がり、彼の目を正面から見据え...
いや、少し違うかな。僕は彼のような真面目な顔はしていな...
「……良くありません。この世界の平穏を守るために、僕は何度...
「逆だろ、死んだ奴のことより自分のこと考えろよ! あんな...
彼が、僕の襟首を掴んで乱暴に揺さぶって、何でそんな風に...
「……気にします。僕はそうやって生きてきたんです。そのため...
「ふざけんな!」~
激昂して拳を振るい上げた彼の姿が、僕に迫る彼の拳が、高...
不意打ちを食らった僕は目の前が瞬間的に真っ白になり、次...
頬がずきずきと熱を持って痛む。~
空を見上げる僕の目に、赤く小さな光がモノクロの空を矢の...
深呼吸をひとつする。微笑みを作り直す。そうだ、僕は世界...
「何だってんだ……。そんなの、お前、狂ってる…」~
想像したくもなかった、涙でぐしゃぐしゃに濡れて醜く歪ん...
「ふざけても狂ってもいませんよ。僕はいつでもほどほどに真...
僕は起きあがり、彼の腕を引いて立ち上がった。大丈夫、今...
「……多分不可能だとは思いますが、もし今回僕が消えてしまっ...
呆れかえっているのだろうか、完全に魂が抜けてしまったよ...
こいずみ、と声を伴わずに僕の名を呼ぶ動きをする唇にそっ...
「…さようなら」~
その瞬間の愕然とした彼の顔は、必死に僕の手を掴み直そう...
加速しながら見下ろすのが見慣れた町の風景だったのは、僕...
僕らの通学路を粉砕する小型の、あまり攻撃力もなさそうな...
僕はその周囲を飛び回る4つの赤い光の元へと回り込むよう...
「やあ、済みませんね。お待たせしました」~
ずきずきと熱を持って疼く頬に触れながら、僕はなぜだか、...
もう、何も怖くない。~
どこかで彼が僕の名を叫ぶ声が聞こえたような気がした。~
~
~
――俺は、何だってまた校庭に呆然と突っ立っているんだろう...
どう考えてみても、まだSOS団のアジトとして占拠した文...
……しかしこう考えると俺達の普段の団活は、名前に反してえ...
まあ、とにもかくにもSOS団の活動というのは基本的には...
そりゃあハルヒの思いつきによって、アウトドア派に宗旨替...
となればこれはえらく妙な状況だぜ? 何で俺はこんなとこ...
何らかのハルヒ的な力が働いて俺だけが瞬間移動でもしちま...
なら、部室でいつの間にかウトウトしてしまい、惰眠を貪っ...
通常営業のSOS団にあって、泣くようなことなど何も起き...
放課後も部室で朝比奈さんとのんびりオセロを楽しんでいた...
夢遊病の気はなかったはずだが、それ以外の理由には全く心...
なるべく端から見て異常な奇行に走っていないことを、なる...
「やれやれ、疲れてんのかねえ…」~
俺は頬をブレザーの袖で拭い、首をグルグル回して肩の周囲...
終了行:
*僕らのアンインストール [#ibd03276]
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背筋に独特の嫌な感覚を覚えて飛び起きた。~
限界まで瞠った目に映るのは真っ暗な天井。~
聞こえるのは自分の激しい動悸と食いしばった歯の間から漏...
身を起して眺める暗い室内は、カーテン越しの街灯の微かな...
窓に透かした手のひらも、逆光に黒く塗りつぶされて、まる...
「嫌だ……」~
じっとりと湿ったベッドから、僕はまるでバネ仕掛けで弾か...
スイッチを叩き割る勢いで点けた蛍光灯の薄っぺらな白けた...
全てが嘘くさく作り物じみて見える。なんだか舞台演劇のカ...
それは妄想に過ぎなかったけれど、実際にこの風景は、そし...
この部屋のベッドも、クローゼットの中の衣服も、買い集め...
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、消えたくない、俺は消えたくない……!」~
――消えてしまうんだったら、その前に全部壊れてしまえ!~
言葉にならない声を上げて、滅茶苦茶に腕を振り回す。机の...
隣家から薄い壁を叩く音がしたが、知ったことじゃない。ど...
あるいは僕じゃない誰かがここに住んでいることになって、...
「……怖い、嫌だ、消えるのは嫌だ……嫌なんだ…――…、助けて……助...
滅茶苦茶に物が散乱した床に投げ出した足を両腕で抱え込み...
~ ――僕は、実際そう遠くない未来にこの世から削除されること...
~
きっかけは、ちょっとした違和感。~
いや、ちょっとしたどころではないな。なにしろ気がついた...
いくらなんでもそんなはずはなかったと思う。~
そんな人数では、中学時代、砂嵐のように荒れていた涼宮ハ...
今の、安定した彼女の精神状態にはちょうど見合った……ある...
少し前から疑念は湧いていた。けれど何一つ証拠はなかった...
でも、それではおかしい。~
この疑念は僕個人や能力者の間だけではなく、『機関』の上...
しかし、『機関』の研究者やお偉方の間でも意見は割れた。~
曰く、僕らの記憶や記録の方が書き変わっていて、やはり最...
曰く、僕ら能力者は閉鎖空間の規模に合わせて徐々にこの世...
曰く、確かに能力者は消えているが、能力とその能力を持っ...
……等々。
結論は割合に早く出た。~
僕が、長門さんに頼んで情報統合思念体の持つデータベース...
~
~
~
「……特殊次元断層進入能力保有者の人数の減少は、発生時から...
長門さんだけでなく、喜緑さんに確認を取ってもらっても、...
7名分の、氏名、その他一切の属性情報、履歴の消失。本来...
けれどそのデータ消失の日時は、僕の記憶にも『機関』の記...
絶望だった。少なくとも地上にいる我々人間には何も感知で...
信じたくなかった。耳を塞いで、聞かなかったことにしてし...
「……そう、ですか…」~
だけど僕はそうしなかった。~
この情報は『機関』に持ち帰り、分析と検討の材料にするべ...
「……そう。でも原因は不明。ごめんなさい」~
「いえ、いいんです……。むしろ、感謝しています」~
「わたしもあなたの消滅は望まない。……でも無力。わたしたち...
ぱちんと音を立てそうにひとつ瞬きして、長門さんは目を伏...
「済みません、余計なご心配をおかけして。ああ、このことは...
「……いい」~
頭を下げた去り際に、長門さんが僕を呼び止めた。~
「古泉一樹。……この情報は、あなたの消滅を回避する上で何の...
「何でしょうか?」~
立ち止まって振り返った耳に届いた言葉は、僕の胸を突いた。~
「わたしという個人は、あなたを失いたくない、忘れたくない...
嬉しかった。長門さんが僕を忘れたくないと思ってくれたこ...
「……長門さん、」~
抑えていた感情が、奔流となって溢れ出しそうだった。膝が...
長門さんは厳密には人間ではないが、それでも充分女性と呼...
「せめて……せめてあなただけでも、もしも僕が消えたら、忘れ...
「……確約はできない。でも、そうしたいと思う。……とても強く」~
「それで充分です。ありがとうございます」~
僕が、僕らが消えない方法は依然見つからなかったけれど、...
~
~
僕の持ち帰ったこの情報は、『機関』を、ことに僕ら能力者...
消えた人間は、最早存在すらしなかったことになる。遺され...
これ以上の犠牲は避けたい。では、何故僕らは消えるのか、...
けれどこれも議論百出、何一つ確証のない仮説だけが、山の...
曰く、本来能力者のような非現実的な存在はあの瞬間に力を...
曰く、涼宮ハルヒの力の強弱が問題ではなく、問題は彼女が...
曰く、情報統合思念体による情報操作。~
仮説はいくらでも出た。けれど反証もすぐに出る。今あげた...
最悪なのは、どういうプロフィールを持った人物がどういう...
~
~
……だから僕は消えてしまう不安でこうして気が狂いそうな夜...
たとえ平穏な教室や部室の当たり前の光景を見ている時、そ...
少しだけ、彼に身体的に接触する頻度を上げてしまうのは止...
彼に触れていると、彼と話していると、僕は生きていると思...
今のこの話はできないけれど、今まではトラブルが起きるた...
随分愚痴も聞いて貰った。当たり前の高校生のような顔で付...
だから彼がいれば、僕は昼を乗り切ることができた。~
だけど独りの夜はダメだった。~
灯りを消してベッドに入っても、そうそう眠れない。ようや...
灯りをつけてテレビをつけていても、考えることは自分の消...
彼も僕を忘れて涼宮さんたちと楽しく団活を続けるんだろう...
自分が消えたあとも誰も気付かずみんなが当たり前に日常を...
正直なところ、時々は能力者の仲間たちの消滅のことも考え...
仲間の誰かが死んだなら、もちろん泣くことができる。でき...
仲間の誰かのために命を投げ出すこともたぶんできる。もち...
だけど、これはそれとは事情が違う。~
自分の意志で身を投げ出すのとはまるで違う、ふと気付いた...
いっそ、消える前に自分で死んでしまおうか? それなら僕...
<……わたしという個人は、あなたを失いたくない>~
長門さんの声が耳朶に甦る。~
なるほど、死ねば忘れられはしないかもしれないが、彼らは...
ふいに彼の、苦笑気味に笑う顔が目に浮かんだ。「仕方ねえ...
彼の泣き顔は想像がつかなかった。苦虫を100匹ぐらい口...
それから涼宮さんの真夏の青空のような底抜けの笑顔。朝比...
もう随分見ていない母親の、父親の笑顔。『機関』の仲間た...
みんなの笑顔を僕の死は破壊する…たぶん。有り難いことに、...
でもそういう人たちの笑顔を、本当に壊していいんだろうか?~
かつて僕が自殺を考えていたころに、死ぬなと言ってくれた...
――いや、僕を忘れてしまうのなら……そんなもの消えてしまえ...
――いや、彼らの笑顔を破壊するぐらいなら……僕なんて消えて...
身近な人が非業の死を遂げた時のあの絶望を、悲憤を、多分...
「……畜生…」~
気持ちが定まらない。『機関』に所属する人間として、血を...
でもこんなことは想定外だった。覚悟なんてできるわけがな...
結局は、世界を守りつつ自分たちが消えない方法を考えるし...
~~
――長門さん曰く、データの欠落。消失。~
まるでコンピュータの0と1の連なりで示される記号のよう...
でも僕を待ち受けているものはそれだ。~
いらなくなったアプリケーションやファイルの削除のように...
今までに立てられた数々の仮説や長門さんから与えられた情...
<この世界は、ある存在が見ている夢のようなものなのではな...
この説にどれだけの信憑性があるのかは知らない。そんなも...
だが夢ではなくとも、涼宮ハルヒにとってこの世界は夢程度...
<本来能力者はあの瞬間に力を得たのではなく、あの瞬間にこ...
僕らを振り回す涼宮ハルヒの力、という見地だけでも、彼女...
彼女自身の理性で、充分に彼女は感情を制御できるようにな...
ならば、必要のなくなった存在は削除してしまうのではない...
彼女は僕らの存在を感知していない。彼女の理性を補助する...
彼女の意識の水面下で、僕らはただの「もう必要のないアプ...
冗談じゃない、もしそうなら、僕らはまるで塵か芥みたいな...
「違う、絶対に違う、そうじゃない!」~
そうであってほしくない。信じたくない。これ以上に整合性...
息苦しくなってきたので、僕は溜息をついて床に大の字に伸...
もしこの仮説が正しければ、八方ふさがりだ。納得できても...
まんじりともしないまま、その上別の説も思いつかないまま...
ああ、もう何日まともに眠っていないのか、数える気も起き...
勝手に叱れ、どうせ僕の将来なんて消滅するんだから。~
ヤケを起した僕に殴られないだけでも感謝しろ。~
~
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それから平穏なひと月が過ぎた。僕ら能力者の内心だけは砂...
その間、涼宮さんは至って安定していたし、不思議な力の発...
彼女が「何か面白いことはないの?」と目をキラキラさせる...
『機関』の敵対組織もここのところはおおよそなりを潜めて...
そして僕らの数も変化なし。名簿や個々人に対する記憶はあ...
とにかく、この時点で僕らの人数は5人、それは間違いがな...
いつ次の閉鎖空間が発生するのか。次に消えるのは誰なのか...
毎朝通学路で犬を散歩させる近所のおばさん。いつもの駅の...
平穏な教室、いつもの授業風景。好きな数学の授業。ノート...
休み時間、笑い合うクラスメイト。~
そういう風景を、僕は抱きしめるように見つめ、目に焼き付...
転校早々SOS団に入団したことや、転入時期の妙なタイミ...
このごく普通の県立高校の、ごく普通に年相応の退屈を持て...
そして一番好きなこの時間。~
いつもの部室、いつものメンバー。涼宮さんは団長と大書さ...
そして僕と彼は差し向かいで……最近ルールを覚えたばかりの...
非常識な空間での非常識なメンバーによる、涙が出るほどに...
僕は幸せだった。~
ずっとこうしていたい。この幸せを守っているのだと、僕な...
最初の混乱と恐怖、そして苦しみ悩みながら、めまぐるしい...
けれど僕は、仲間の誰かは、明日か明後日か、それとも一週...
どうせ消えるのなら、この力に目覚めたばかりのころ、まだ...
なのに、どうして今更。~
「……ねえ、古泉くん。本当に何かあったんじゃないの? すご...
団長席から、涼宮さんが僕に声をかけてきた。~
訝しげに僕を眺める涼宮さんの顔。もう何度目になるだろう...
彼は何も言わない。何度か、二人きりの時間を作っては似た...
「いえ、大丈夫です」~
「……ずっとわたしも気になってたんですよ。どうしちゃったの...
「……本当に大丈夫ですよ」~
「大丈夫じゃないわよ、ずっとここのところ上の空だし、顔色...
今日はやけに食い下がる。いい加減彼女の忍耐が限界を迎え...
毎朝覗く洗面所の鏡の中の僕は、ここのところ本当に酷い有...
ぎらついて落ち窪む目の下のクマや顔色の悪さやこけた頬は...
「いえ、それはちょっと胃炎を患ってしまいまして、それでな...
これは事実だ。このタイミングすら計れない究極のロシアン...
「胃炎? それって悩みがあるんじゃないの? ここはひとつ...
「……大丈夫ですから」~
「ウソよ。ねえ、本当にあたし、古泉くんが心配なのよ」~
涼宮さんが、素早く席を立って来て僕の手を握る。~
ひんやりと柔らかな手のひら。本当に心配そうに僕を覗き込...
あんたが諸悪の根元なんだ、それなのにそんなに優しい顔を...
「……大丈夫だって言ってるだろ!」~
僕は発作的に椅子から立ち上がってその手を振り払っていた。~
「あんたなんかに心配されたくない! ほっといてくれ!!」~
そして彼女を突き飛ばすようにしながら大声で叫び出してし...
「こいずみ、くん…?」~
「こいずみくん…」~
「…………」~
「……古泉?」~
3人の声、4人分の視線。~
しまった。これはまったく僕らしくない、古泉一樹らしくな...
「……あ、いえ、済みません…。本当に、大丈夫です。済みません...
すると、今まで無言だった彼が席を立ち、大股で机を回って...
けれど彼は真剣な顔のまま、やけに優しい声を出した。~
「おい、それのドコが大丈夫だよ? お前がハルヒを怒鳴るな...
「……え? いえ……」~
いっそ怒られた方がマシだった。~
あまりに日頃と違いすぎる言動は、怒りよりも不安や心配を...
「本当に、何でもないんです……でも、そうですね。体調はあま...
これ以上部室にいては、僕は泣き出してしまうかもしれない...
「待ちなさい、古泉くん!」~
「……待てよ!」~
僕は初めて、個人的な事情で涼宮さんの命令に背いて部室を...
そしてその直後、約一ヶ月ぶりにあの不快な感覚が背筋を貫...
閉鎖空間が発生したのだ。それも、学校のグラウンドからい...
明らかに僕のせいだ。~
今度こそ本当に泣きたかった。だけど泣いても仕方がない。~
さっきの彼の心配そうな顔が目に浮かんだ。~
消えたくない、誰でもいいから僕以外の人間が消えればいい...
……でも、消えるかもしれないと彼に告げることもできない。...
僕は閉鎖空間を隔てる障壁の前に辿り着き、そして立ち尽く...
そこで暢気に走り込みをしている陸上部の連中は、まさか自...
僕はそこから目を剥がし、見えない壁の向こうの防球ネット...
あと一歩前に出るだけだ。僕が自分で引き金を引いたのだか...
怖くない。大丈夫だ。神人や閉鎖空間が怖いなんていう感情...
独り肯いて、閉鎖空間を隔てる障壁の向こうへ踏み込もうと...
「古泉!」~
「……なん…」~
間に合わなかった。振り返った僕の足は、彼に押されるよう...
「うわっ……?」~
そして僕の手を鷲づかんだ彼も、一緒に縺れるように閉鎖空...
「……また、えらく近所に出たもんだな。どうも学校が閉鎖空間...
彼は冷え切った色彩の無人のグラウンドを見回しながら、妙...
「……まあ、原因は僕ですからね…」~
「だろうな、もし俺にもハルヒ的変態パワーがあったら間違い...
僕の手を放そうとせず握りしめたまま、彼はそれこそ苦虫を...
「……あはは、済みません」~
「笑い事じゃない」~
彼はひどく真面目な顔を僕の顔に近づけた。これじゃいつも...
彼の手に強く握られた手のひらが、汗ばんでいる気がする。~
「……何があった?」~
低く響く囁き。彼の目が、僕の瞳を射抜くように真っ直ぐに...
「……少し、トラブル続きで疲れていましてね。でも大丈夫です...
僕は目をそらし、笑顔を作り直して嘘をついた。一歩後ずさ...
いつだって僕は嘘と事実と憶測を適度に混ぜながら彼に接し...
「……それでハルヒに八つ当たりか? らしくないな」~
ところが僕はどうやら日頃やりすぎていたらしい。信用なら...
そこで僕は嘘をもう一つ上に重ねて、彼の反論をねじ伏せよ...
「なにしろ連日の睡眠不足でね。寝る間もないんですよ。お陰...
けれど彼は表情一つ変えず、真っ直ぐに僕を睨み続けて、し...
「はぐらかすなよ。……お前がハルヒの命令を無視したのも初め...
睡眠不足は嘘じゃないんだけどな。あなたも充分あなたらし...
「……気付いていますよ。あのままではさらに暴言を吐きそうで...
そう言って首を少し傾げてにこっと微笑むだけに留めておい...
「……お前、やっぱりおかしいぞ。笑えてない。なんだその引き...
どんな時でも笑える自信だけはあったのに、僕はそこまで追...
「そうですか……やはりだいぶ疲れているようです。さっさと終...
ここからはまだ神人を目視することはできない。だから安全...
涼宮さんに、僕が謝っていたと伝えて下さい。そう言いなが...
「……まさか、ここまでお前が隠し通そうとするとはなあ。本当...
「え……?」~
「長門には、ずっと口止めされてたんだがな。仕方ない」~
がくん、と垂直同期が狂ったように視界が揺れた。立ってい...
「……おい、大丈夫か」~
「な、長門さんから、聞いて……? 内密にとお願いしたのに…」~
何故僕の過度の接触をあまり怒らず、ある程度受け入れてく...
「……ああ、全部な。だけどお前の様子が随分前からおかしかっ...
頭が酸欠を起したようにぐらぐらした。~
そんなに、僕の態度はおかしかったですか? 参ったな、体...
「アホか。まあお前の演技は結構なレベルだったとは思うぜ、...
彼の声はひどく優しい。優しすぎて体中から力が抜けていく...
「……だけど…だけどあなたにだけは最期まで知られたくなかった...
唇に塩辛い味を感じて、初めて自分が泣いていると気がつい...
「長門もそう言ってた。だからなるべく俺はお前から無理に聞...
座り込んだ僕に合わせて彼も地面に膝をつき、優しく僕の頭...
「済みません。どうせ消えて忘れられてしまうなら、余計な心...
「……そりゃあショックだったし知ってから毎日つらかったさ。...
「違います、確かにあなたに言えば楽になれるとは思いました...
それなら、彼には知られずに笑っていて欲しかっただけだっ...
「馬鹿野郎! 忘れないからな、俺は絶対に忘れてやらん。俺...
…これは夢か?~
撫でられるぐらいならともかく、どうして僕は彼に息が詰ま...
そりゃあ、せいせいするぜと鼻で笑うほど冷酷ではないこと...
だけどこんなにきつく僕を抱きしめて、こんなに必死に忘れ...
嬉しかった。嬉しくて、だけど今更、1時間と経たずに自分...
「……僕だって消えたくない!」~
僕はわき上がる悔しさのままに大声で叫び、それから彼の背...
「……消えたくないです……キョン君」~
初めて、僕は面と向かって彼のあだ名を呼んだ。いつものよ...
「……僕は消えたくない…あなたと一緒にいたい……、だけど、だけ...
身体の震えが止らなくなって、僕はいっそう強く彼にすがり...
~
人間というのは誰かに向けて思い切り感情を解放してしまう...
僕は今回初めて気がついたのだが、完全に前者のタイプの人...
つまり僕は不思議に恐怖も怒りも失っていた。泣きすぎて頭...
「なあ、……ハルヒはきっとお前に消えて欲しくないはずだと思...
二人とも泣き止んだあとも僕の身体を放さないまま、彼が耳...
「……涼宮さんは、」~
思った以上に冷静な声が出た。もう少しはまだ喉に絡んだり...
「僕が超能力者だとはご存じないでしょう、ですから関係ない...
僕個人が彼女にとって大切な副団長で友人という存在だとし...
「じゃあ、全部バラしちまえばいいんじゃないか?」~
僕だってそれを考えなかったわけではない。だが、彼女に超...
「……超能力者が当たり前にいる世界に住みたいですか? いや...
あなたみたいな人には受け入れがたい世界ではないですか?~
「……それでもいい。お前が消えるぐらいだったら、こんな世界...
僕の背に回る腕に力がこもる。~
あれほど現状維持を願っていた彼が、とんでもないことを言...
それほど僕を失いたくないと思ってくれるのは嬉しいし可笑...
僕は彼から身を離して立ち上がり、彼の目を正面から見据え...
いや、少し違うかな。僕は彼のような真面目な顔はしていな...
「……良くありません。この世界の平穏を守るために、僕は何度...
「逆だろ、死んだ奴のことより自分のこと考えろよ! あんな...
彼が、僕の襟首を掴んで乱暴に揺さぶって、何でそんな風に...
「……気にします。僕はそうやって生きてきたんです。そのため...
「ふざけんな!」~
激昂して拳を振るい上げた彼の姿が、僕に迫る彼の拳が、高...
不意打ちを食らった僕は目の前が瞬間的に真っ白になり、次...
頬がずきずきと熱を持って痛む。~
空を見上げる僕の目に、赤く小さな光がモノクロの空を矢の...
深呼吸をひとつする。微笑みを作り直す。そうだ、僕は世界...
「何だってんだ……。そんなの、お前、狂ってる…」~
想像したくもなかった、涙でぐしゃぐしゃに濡れて醜く歪ん...
「ふざけても狂ってもいませんよ。僕はいつでもほどほどに真...
僕は起きあがり、彼の腕を引いて立ち上がった。大丈夫、今...
「……多分不可能だとは思いますが、もし今回僕が消えてしまっ...
呆れかえっているのだろうか、完全に魂が抜けてしまったよ...
こいずみ、と声を伴わずに僕の名を呼ぶ動きをする唇にそっ...
「…さようなら」~
その瞬間の愕然とした彼の顔は、必死に僕の手を掴み直そう...
加速しながら見下ろすのが見慣れた町の風景だったのは、僕...
僕らの通学路を粉砕する小型の、あまり攻撃力もなさそうな...
僕はその周囲を飛び回る4つの赤い光の元へと回り込むよう...
「やあ、済みませんね。お待たせしました」~
ずきずきと熱を持って疼く頬に触れながら、僕はなぜだか、...
もう、何も怖くない。~
どこかで彼が僕の名を叫ぶ声が聞こえたような気がした。~
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――俺は、何だってまた校庭に呆然と突っ立っているんだろう...
どう考えてみても、まだSOS団のアジトとして占拠した文...
……しかしこう考えると俺達の普段の団活は、名前に反してえ...
まあ、とにもかくにもSOS団の活動というのは基本的には...
そりゃあハルヒの思いつきによって、アウトドア派に宗旨替...
となればこれはえらく妙な状況だぜ? 何で俺はこんなとこ...
何らかのハルヒ的な力が働いて俺だけが瞬間移動でもしちま...
なら、部室でいつの間にかウトウトしてしまい、惰眠を貪っ...
通常営業のSOS団にあって、泣くようなことなど何も起き...
放課後も部室で朝比奈さんとのんびりオセロを楽しんでいた...
夢遊病の気はなかったはずだが、それ以外の理由には全く心...
なるべく端から見て異常な奇行に走っていないことを、なる...
「やれやれ、疲れてんのかねえ…」~
俺は頬をブレザーの袖で拭い、首をグルグル回して肩の周囲...
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