契約愛人17(会×古)
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●第7章-3~ &size(10){(会長モノローグ)};~ ~ 日が落ちて間もない、こんな時間に古泉が帰宅することは珍しい。~ 正確には帰ってきた、ではなく帰されてきた、わけなんだが。部屋に入るといつものように隣の部屋で着替えを済ませて戻ってきてテーブルに腰掛ける。少しだけでも緊張が解けたのか腕をついてテーブルに顔を伏せてしまった。~ 「なんか飲むか?」~ 「いえ……」~ 「ふうん」~ 俺は冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出そうとし、しかしやめて、うんと苦いホットコーヒーを作って、古泉の向かいに腰掛けた。~ 何か声をかけるべきだろうか。うまく思い当たらん。~ もう一度立ち上がり、たっぷり砂糖を入れたホットミルクなんぞ作ってみて、古泉の前に置く。~ 「飲め。乳くさいおまえにぴったりだ」~ 「……誰が乳くさいんですか」~ 顔を上げて、古泉は眉尻を下げた。そして笑顔を取り戻して見せた。~ 「そうだ会長。こないだ買われたゲームいかがでしたか?」~ 「そこそこだな。教えてやろうか?」~ 「是非よかったら」~ 笑顔が零れた。作り笑顔の不自然さに気づかない振りをして、俺は隣の部屋に向かった。古泉もすぐに続く。……が、俺たちはそこでまずいもんを見つけちまった。~ 昨日の夜二人でそこで何をしていたか。~ 裸で抱きあい、お互いのものを擦りあった場所だ。いやだいやだ、と言いながらも、快感に流されて古泉はさんざんよい声で喘いでくれた。……その残滓を拭い取ったティッシュの山が床にまだいくつか転がっていた。~ ……なんて気まずい。~ 俺は無言でそれを拾う。古泉も拾って、それぞれゴミ箱に放った。苦笑もどきが浮かぶがとても相手の顔を見られない。黙ってゲーム機を起動させ、その場所に背を向けるようにして胡坐をかいた。~ 隣にまた黙って古泉が腰掛ける。~ シューティングゲームの説明を始めると古泉は黙って頷いて聞き、コントローラーを渡すと真剣な表情で始めた。~ 俺はそれを隣で見守る。だが割とレベルの高いゲームだ。初プレイの古泉の機体は一台、また一台と次々と消えていく。珍しく軽い苛立ちのようなものを表情に浮かべ、古泉はコントローラーを操っていた。~ 結局すぐに画面にはゲームオーバーの文字が表示され、肩を落として苦笑してみせるやつに、俺も苦笑で返しつつ、見本を見せてやろうか、なんて話しかけた時だ。一瞬、古泉の視線が俺を通り過ぎて、テーブルの上に置いたままの携帯電話に注がれたことに気づいてしまった。~ すぐに視線は俺に戻ってきて、古泉は微笑して告げた。~ 「では、お願いできますか?」~ 「気が変わった。もう一回やってみろ」~ 「……え、……ええ」~ コントローラーを押し付けられた古泉は困ったように視線を落とした。もうゲームへの興味は失ってしまったようだ。~ それでも渋々、スタートボタンを押そうとするやつの手を留め、俺は古泉を強引に引き寄せて抱きしめた。~ 「……わっ、何するんですかっ」~ 「何もしない」~ そう答えて、より強く腕に閉じ込める。~ もうなんか痛々しくて見てられないっつーの。気をつかって優しくしてやろうとか色々思うわけだが、結局これしか思いつかない俺が嫌になる。~ 座ったまま無理やり引き寄せた古泉の腰に手を回し、より自分に近づける。~ 「……会長……あの」~ 「……言っておくが変な気を起こしたわけじゃないぞ」~ 気をつかうのが面倒なだけだ。~ 「はぁ……」~ 気の抜けた返事が返ってきた。しかも気づいちまった。俺に抱きしめられながら肩越しに古泉はまたテーブルの上の携帯電話を見つめていた。ったく、忌々しい。~ 「……病院から電話がかかってくるのを待っているのか?」~ 「……!」~ 古泉は驚いた様子で顔を上げた。が、俺が捕まえているので体を起こせない。仕方なく首だけこちらに向けて小さく頷く。~ 「それもありますが……もしかしたら呼び出しが来るかもと思いまして……」~ 「さっきあいつが今日は休めって言ってただろうが」~ 苦い顔をすると、古泉は肩を落とした。~ 「……でもきっと今夜は大変だと思います。連絡があるかもしれない」~ 「おまえなー」~ 俺は呆れ果て、背中を抱いていた手を古泉の後頭部に移して、無理やり埋めさせた。~ 「一日くらいお前がいなくてもなんとかなるだろ、今日はおとなしくしてろ」~ 「……」~ 俺のその言葉が古泉は気に入らなかったのだろう。突然、強引に顔を起こし、両腕で俺の体を押しのけて体を離すと立ち上がった。~ 「……やっぱり……機関に戻ります。……すみません……会長」~ 「何言ってるんだ」~ 俺も立ち上がり、テーブルの上の携帯をつかむと、そのまま今にも飛び出しそうなやつの退路を塞いだ。~ 「どいてください……やっぱり、行かなくちゃ……」~ 古泉は真剣だった。俺に体当たりを決めてでも出て行こうとしていた。だからこちらも真剣になるしかなかった。~ なんでそんなにムキになるのか俺にはわからん。~ どこで何をしてこようとしているのかも知らんよ。~ だけどまあ察するよな。今日の古泉はいつもの古泉と違う。病院で眠っている彼のことが心配で、自分の責任だと思っていて、機関とやらの上役にも責められて、そのせいで普段の冷静さを失っているお前が向かっていっては危険な場所なんだろう、そこは?~ 「行ったらかえって足手まといになるだけなんじゃないのか?」~ 俺を通り抜けようと、隙を探っている古泉に俺は冷たく言い放つ。普段は柔和な表情が、若干険しくなった。~ 「あなたには……関係ありません」~ 「関係ある。あいつに頼まれてるからな」~ 「……お願いです、通してください。僕が、……僕がしっかりしていればこんな事態にはならなかったんです。僕が責任をとらなければいけないんだ。……みんなに任せておくなんてできない」~ 「あのなぁ……」~ 気持ちはわからんでもない。しかしやっぱり、じゃあ行ってこい、とは言ってやれない。~ 「悪いが嫌だ。絶対に通さん」~ 「……殴りますよ」~ 「やれるもんならやってみろ」~ 途端に古泉は拳を振り上げてきた。慌てて左手で交わしたが、さらに古泉は容赦なく俺の脚に蹴りをかます。油断してたかね。一瞬だが左足が滑った。~ 「うわっ」~ 「すみませんっ」~ 俺の横を駆け抜けようとする古泉。させるか。腕を伸ばして足首を掴む。~ 今度は古泉が倒れこむ番だ。俺はその体に馬乗りになって、仰向けにし、両肩を床に押さえつけた。~ 「俺の勝ちだ」~ 「まだです!」~ 叫ぶと同時に、下敷きにしていた足がうねって、俺を蹴り飛ばそうとしやがった。トドメにもう一発肩を強く蹴られて、流石に尻餅をついちまう。その間に再び古泉は立ち上がり、玄関に近づいていく。~ 「させるかっ」~ 痛みをこらえて後を追い、先を行く古泉の腕を後ろから掴んで、力の限り引き倒して、床に投げつけた。~ 「……うっ!!」~ 力の加減なんてできやしない。勢いで入れ違いに玄関に立ち塞がり、肩で息を吐く俺を、床で仰向けに倒れたまま、肩と頭を押さえ古泉は悔しげに見上げた。~ 「……行かせてください……会長」~ 「いやなもんはいやだね」~ 俺は背中ごしに玄関のドアの施錠を確認する。古泉は倒れたまま、打ちつけた左肩を右腕で押さえ黙り込んだ。~ そのままどれくらい睨み合っていただろうね。~ 漸く諦めがついたのか、古泉は起き上がり、手に握った携帯を見つめ、それから俺をもう一度見上げた後、立ち上がって部屋の奥に向かった。~ まさか部屋の窓から出て行くつもりじゃないだろうかと、俺は一瞬あせってその後を追う。~ だが、古泉が向かった先は俺たちの部屋のベッドだった。~ 「……」~ ベッドに腰掛け俯いているやつの隣に腰掛ける。その手にはしっかりと携帯が握られていた。~ まったく……~ どうでもいいことかもしれないが、俺ってなんて面倒見がいいんだろうね、我ながら驚くよ。~ もし古泉がここを飛び出していったところで、多分あの多丸ってやつがなんとかしてくれるだろう。他にもいろいろ仲間もいるようだし、心配しすぎるほど心配しているわけでもないんだ。~ そもそも機関の連中の頼みなんか、俺は、自分の役割以外に聞いてやる筋合いはないんだからな。~ 古泉もそうしたほうが気が晴れるっていうなら行けばいい。~ 普段よりも冷静さは欠いているし、疲れているようにも見える。だけどこいつはそこまで馬鹿じゃないだろ。~ そうわかっちゃいるのに。 それでも目が離せないし、構ってやりたかった。これがもし俺の立場だったなら、ひとりにしてくれ、と思うのかもしれんがね。古泉も放っておいて欲しいなら隣の部屋にこもるくらいのことはできる。それをしないというのは、俺が隣にいても嫌ではないんだろう。~ なんてことを考えつつ、俺たちはまたしばらくお互い黙ったまま時間を過ごす。~ 時計の針が七時を回って、窓の外はすっかり真っ暗になっている。夕食のメニューをまるで考えてなかったことを思い出し、冷蔵庫を確認しようと立ち上がりかけた時だった。~ 腰を浮かせた俺の腕を、古泉が掴んでいた。~ 「ん?」~ 「……あの」~ 震える戸惑いがちな眼差し。何かを言おうとして逡巡している。~ 「なんだ?」~ 腰掛け直して覗き込む。さんざ迷ったという素振りで古泉は俺を見上げ、微かな声で呟いた。~ 「……抱いて、下さい」~ 「はぁ?」~ さすがにそれは耳を疑う。~ だが古泉はうろたえつつも、もう一度俺に囁いた。~ 「抱いて欲しい……って言ったんです……」~ 「何言って」~ 俺の脳内のほうが混乱するわ。しかも告げた本人は俺に体を押し付けてくる。なんだこれ。~ 無碍にするわけにもいかず、俺は古泉に体を向けて腕の中に抱き寄せなおした。それから、おとなしく胸の中に顔をうずめた古泉が何を考えているのか、頭を巡らしながら声をかけた。~ 「おまえなぁ……抱いてって意味わかって言ってるのか?」~ 「……はい」~ 「はいって。……突っ込むぞ」~ 腕の中の体がびくりと硬くなる。だがやつはただますます顔を押し付けて、小さく頷いた。~ ……おい。~ 据え膳? これってもしかして据え膳?~ ま、まあねぇ……、昨日のやつの反応の良さを思えば、次回くらいは俺のを突っ込んでも大丈夫なんじゃないか~?なんて淡い期待は抱いたさ。……しかしだね。~ 「それじゃ、そうしよう」~ 俺は苦笑すると抱きしめたまま、一緒にベッドに倒れこんだ。ついでに掛け布団もはおる。寒いしな。~ それから古泉の手に強く握られたままの携帯を奪って、俺の枕の下に隠した。~ 「あっ……」~ 「これは邪魔だろ」~ 「……え、ええ」~ 緊張で縮こまってる体をさらに抱き寄せて、うんと密着させる。古泉の腕もびくびくしながら俺の背中に回っていた。~ 「会長……?」~ 小さく告げられる声に耳をすませる。~ 「ん?」~ 「いえ……その」~ 「なんだよ」~ 「……抱いて……欲しいんですが」~ 「抱いてるじゃないか、ぎゅっと」~ 腕の力を強めて、さらにぎゅうぎゅうしてやる。胸に顔を埋めてた古泉が呼吸困難になるほどに。~ 肩口からぷはあと顔を上げて、古泉は俺の首筋にごにょごにょと囁いた。~ 「あの……そうじゃ、なくて」~ 「嫌なこと思い出したくないから、気持ちよくして欲しいって?」~ 少しだけ冷たく返すと、古泉ははっと息を飲み、押し黙る。~ 「あのさ、古泉。……ヤケになるな。こんな時にセックスして気持ちよくなれると思ってるのか?」~ 男だからね、敏感な部分に刺激を与えれば一瞬の心地よさは味わえるだろうさ。だけど余韻もへったくれもなく次の瞬間には自己嫌悪が襲ってくる。あの嫌な気分ったら無い。~ 慣れた体ならともかく……古泉相手にそういうのは忌避したいね、俺は。~ 「でも……」~ 「でも、なんだ?」~ 「……僕はあなたにも満足に応えられていない、って思ったんです」~ 「何の話だ?」~ 眉が思わず寄った。何を言いたいかさっぱりわからん。~ 俺の腕の中で息を吐き、淡々と古泉は呟き始めた。~ 「……あの場所にいたのに、僕は彼を守るどころか犯人も見つけられなかった……。そのせいで責められるのは当たり前のことなんです。なのに帰されて……、僕の仲間は今頃必死で戦っているというのにこんなところで……」~ 「……そうか」~ 柔らかな髪を軽く撫でてやる。~ 戦う、なんて物騒だな。しかし……実は世のため人のため正義の味方してます、なんてのもあいつらならやりかねん。~ 「そうだな……今から、行くか?」~ 「……連絡がありません」~ 拗ねた口調が返ってきた。~ 「ああそうか……」~ 携帯が鳴るのを待ってるわけか。飼い慣らされた犬みたいに。~ さっき途中で出て行くのを諦めたのも、俺が立ち塞がっていたからじゃない。向かった先で必要とされないかもしれないと考えたんだろう。なるほどね。~ 滲み出る苦笑を感づかれないように、より深く抱きしめて背中を撫でながら囁く。~ 「ほんとに不器用きわまりないな、お前は」~ 「……」~ さすがにむっとしたのか古泉は黙り込んだ。~ 「まあいいじゃないか、一晩くらい。よくわからんが、あいつが今日のお前は休ませたほうがいい、って判断したんだ。年上の言うことは聞いておくもんだぞ。病院には誰かいるんだろ?」~ 「……機関が手配した病院ですから何かあればすぐに連絡が入ります」~ 「ふぅん。じゃあ、連絡があったら俺が起こしてやるから、もう寝ろ」~ 「寝ろって……」~ 「それじゃさっき言ったみたいに……セックスするか?」~ 「……それは……」~ 返事に戸惑いがあった。困惑は冷静を取り戻した証だ。落ち着いてきたようだ。~ 俺は安堵して、その耳元にそっと口付ける。~ 「冗談だ。俺は別に急いじゃねぇよ。気にすんな」~ 「……はい」~ 素直な同意。そうそう、お前はそうじゃなくっちゃ。~ 抱きしめた腕の中で古泉はそれからもしばらく色々と呟いて、俺はそれに相槌を打ち続けた。~ その声も徐々に少なくなり、やがて寝息しか聞こえなくなった。~ やはり疲れていたのだろう。まあゆっくり眠るのが一番いいさね。~ ~ まったくね。~ 俺は古泉に甘すぎる。~ 眠っている古泉を寝かせなおし、いい加減腹も減っていた俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、カップラーメンで夕食を済ませることにした。食い終わったら、あとで目覚めるかもしれない古泉の為になんか作ろうとは思うが、今の俺の腹が緊急事態だ。~ 冷えたビールを、布団とあいつの体温で温もった体に流し込む。~ 妙に苦かった。~ 顔をしかめながら、ズボンのポケットに入れっぱなしだった自分の携帯を取り出す。~ 新着メールを知らせるマークが出ていた。~ 開くと、見知らぬやつからのメール。差出人は……ほう。~ 『 古泉は大丈夫かな? 』~ なんでやつが俺のメールアドレスを知っているのかはなはだ謎だ。機関に教えた記憶はないんだが。~ っていうか、あいつも古泉に甘すぎないか?~ むかつくから返信はしないでおくことにして、俺は乱暴にそれを閉じ、苦い水をまた一口飲んだ。~ ~ ~ ◆◆◆~ ~ ~ 早朝、爆睡から目覚めた古泉は、朝の6時頃にはもうバタバタと動きはじめて、俺が夜食用に作っておいたチャーハンをレンジにもかけずに冷たいまま食べ終えると、そのままアパートを出て行った。~ 機関に寄って、それから病院の規定面会時間の開始と同時に病院に駆け込むつもりらしい。~ 意識不明の彼の付き添いは他の団員と三交代制と言ってたから、夕方には戻るかと思ったんだが、結局そのままやつは夜まで戻ってこなかった。昨日の分まで機関で働いてくるつもりらしい。~ 夜の10時過ぎになり、また忌々しいやつから連絡があった。~ どこかで頑張りすぎて気絶した古泉を彼はタクシーで搬送してきて、「どうしてもこういう時、頼んでも無いのに無茶するのはなんでだと思う?」なんて聞きやがったので、俺は「お前らの教育が悪い」とだけ返してやった。~ 下手をすれば死んでたかもしれない、なんて薄気味悪いことを言うやつから古泉を受け取り、またベッドで寝かせる。~ で、翌日はまた同じことの繰り返し。~ まだマシだったのは、夜中の二時に自分の足で帰ってきたことぐらいだ。~ 「……まだ彼が目覚めないんです……」~ と、古泉は蒼白な表情でフラフラ足を心配して出迎えた俺に訴え、少し眠ったあと、また携帯電話に呼ばれて飛び出して行きやがった。~ 朝になっても戻らず、メールで、直接病院へ行きます、と送ってきた古泉が、俺は相当気になって、はじめてその日の放課後、彼が入院しているという病院へと向かうことにした。~ ~ 北高から運ばれたにしては、少々遠い区画の私立病院。~ 差し入れを持ってきたから降りてこい、と病院の門の外からメールを打つ。~ 病院の中ではメールチェックなど出来ないだろうと時間潰しの喫茶店を探し始めた俺だが、すぐに返事がきた。~ 『今、行きます』~ 門へと再び戻ってきた俺の視界に、病院の玄関から出てくる古泉が映った。~ 久しぶりに見る笑顔を浮かべた古泉は駆け寄って近づいてくると、少々躊躇ったあと、突然俺の胸に軽く顔を当てた。~ 「……目を覚ましたんです、彼が」~ 小さな声で告げられた報告。お前の顔を見た時から分かっていたけどね。~ 「よかったな」~ 俺は古泉の肩に手を置き、顔を起こさせる。こんな往来で抱き寄せるわけにはいかんしな。~ 笑顔を浮かべたやつの目元には、涙がじんわりと浮いてきていた。~ 苦笑してその涙を指で拭い、俺は持参した土産を押し付ける。~ 「……こんなところで泣くな。これ、ケーキだ。何人分かわからんから適当に買ってきたぞ」~ 「え、ええ。……ありがとうございます。まさか会長これ……」~ 「手作りじゃねぇよ、勘違いすんな。途中で買ってきたんだ。ほら、行って来い」~ 懸案事項が片付いたならそれでよし。俺はめそめそしそうな古泉の背中を押して、病院に追い返した。~ 甘やかすのは俺と二人でいる時間だけで十分だろ?~ ~ 名残り惜しそうに数度振り返り、古泉は病院に戻っていった。~ そして、その後姿を見送ってから、もう少し話したかったな、なんて思ったりするわけで。~ ~ 久しぶりに心がほかほかに温まる日だった。~ どうせあいつはすぐには帰宅しないだろうから、わざと遠回りして帰った。~ すっかり街のどこかしこもクリスマス仕様と変化していて。~ 愛を奏でるクリスマスソングに、鈴の音。赤と白のサンタクロース。緑に赤の色彩で彩られ賑わう町並みを眺めて歩くうちに、今もし隣に古泉がいたらなんて考えたりしてね。~ どうしようもなく安定している俺の日々。去年じゃ考えられなかった。~ ……古泉がいてくれたおかげだ。~ ~ 上機嫌が過ぎて、花屋になんぞ立ち寄ってしまった。ポインセチアの鉢植えをひとつ買ったら、まるで花束みたいに綺麗に包装してくれて、持って帰るのが恥ずかしいくらいだがまあいいさ。~ 男同士の飾りっけのない部屋には、この鉢植えだけでも十分華やかだ、きっとよく目立つ。~ 来年の冬には古泉はもういない。~ だから。~ 二人で過ごした季節を忘れぬようにね。~ 俺にだけわかれば十分な、記念の品になりそうだと、ひとり満足しながら、帰宅の途についたのだった。~ ~ ~ [[ →→つづき(契約愛人18)>http://haruhi.kazeki.net/?%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%84%9B%E4%BA%BA%EF%BC%91%EF%BC%98%EF%BC%88%E4%BC%9A%C3%97%E5%8F%A4%EF%BC%89]]~ ~ &size(10){(消失話終了です。こんなに古泉は弱く無いと思うんですが; でも古泉を甘やかすSSなので、見逃してやってください!)};~ - 今か今かとお待ちしておりました!!続きも楽しみにしています!!! -- &new{2007-12-24 (月) 09:27:31}; - 待ってました!消失話も素敵でした・・・これからも楽しみにしてます -- &new{2007-12-24 (月) 14:52:57}; - 会長、会長ありがとう。貴方がいてくれてよかった…!「来年の冬には古泉はもういない」というのが哀し過ぎますが。この二人には是非とも幸せになって欲しいです。 -- &new{2007-12-24 (月) 18:15:53}; - 待ってましたー!今回も楽しませて頂きました! -- &new{2007-12-24 (月) 21:21:18}; #comment
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●第7章-3~ &size(10){(会長モノローグ)};~ ~ 日が落ちて間もない、こんな時間に古泉が帰宅することは珍しい。~ 正確には帰ってきた、ではなく帰されてきた、わけなんだが。部屋に入るといつものように隣の部屋で着替えを済ませて戻ってきてテーブルに腰掛ける。少しだけでも緊張が解けたのか腕をついてテーブルに顔を伏せてしまった。~ 「なんか飲むか?」~ 「いえ……」~ 「ふうん」~ 俺は冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出そうとし、しかしやめて、うんと苦いホットコーヒーを作って、古泉の向かいに腰掛けた。~ 何か声をかけるべきだろうか。うまく思い当たらん。~ もう一度立ち上がり、たっぷり砂糖を入れたホットミルクなんぞ作ってみて、古泉の前に置く。~ 「飲め。乳くさいおまえにぴったりだ」~ 「……誰が乳くさいんですか」~ 顔を上げて、古泉は眉尻を下げた。そして笑顔を取り戻して見せた。~ 「そうだ会長。こないだ買われたゲームいかがでしたか?」~ 「そこそこだな。教えてやろうか?」~ 「是非よかったら」~ 笑顔が零れた。作り笑顔の不自然さに気づかない振りをして、俺は隣の部屋に向かった。古泉もすぐに続く。……が、俺たちはそこでまずいもんを見つけちまった。~ 昨日の夜二人でそこで何をしていたか。~ 裸で抱きあい、お互いのものを擦りあった場所だ。いやだいやだ、と言いながらも、快感に流されて古泉はさんざんよい声で喘いでくれた。……その残滓を拭い取ったティッシュの山が床にまだいくつか転がっていた。~ ……なんて気まずい。~ 俺は無言でそれを拾う。古泉も拾って、それぞれゴミ箱に放った。苦笑もどきが浮かぶがとても相手の顔を見られない。黙ってゲーム機を起動させ、その場所に背を向けるようにして胡坐をかいた。~ 隣にまた黙って古泉が腰掛ける。~ シューティングゲームの説明を始めると古泉は黙って頷いて聞き、コントローラーを渡すと真剣な表情で始めた。~ 俺はそれを隣で見守る。だが割とレベルの高いゲームだ。初プレイの古泉の機体は一台、また一台と次々と消えていく。珍しく軽い苛立ちのようなものを表情に浮かべ、古泉はコントローラーを操っていた。~ 結局すぐに画面にはゲームオーバーの文字が表示され、肩を落として苦笑してみせるやつに、俺も苦笑で返しつつ、見本を見せてやろうか、なんて話しかけた時だ。一瞬、古泉の視線が俺を通り過ぎて、テーブルの上に置いたままの携帯電話に注がれたことに気づいてしまった。~ すぐに視線は俺に戻ってきて、古泉は微笑して告げた。~ 「では、お願いできますか?」~ 「気が変わった。もう一回やってみろ」~ 「……え、……ええ」~ コントローラーを押し付けられた古泉は困ったように視線を落とした。もうゲームへの興味は失ってしまったようだ。~ それでも渋々、スタートボタンを押そうとするやつの手を留め、俺は古泉を強引に引き寄せて抱きしめた。~ 「……わっ、何するんですかっ」~ 「何もしない」~ そう答えて、より強く腕に閉じ込める。~ もうなんか痛々しくて見てられないっつーの。気をつかって優しくしてやろうとか色々思うわけだが、結局これしか思いつかない俺が嫌になる。~ 座ったまま無理やり引き寄せた古泉の腰に手を回し、より自分に近づける。~ 「……会長……あの」~ 「……言っておくが変な気を起こしたわけじゃないぞ」~ 気をつかうのが面倒なだけだ。~ 「はぁ……」~ 気の抜けた返事が返ってきた。しかも気づいちまった。俺に抱きしめられながら肩越しに古泉はまたテーブルの上の携帯電話を見つめていた。ったく、忌々しい。~ 「……病院から電話がかかってくるのを待っているのか?」~ 「……!」~ 古泉は驚いた様子で顔を上げた。が、俺が捕まえているので体を起こせない。仕方なく首だけこちらに向けて小さく頷く。~ 「それもありますが……もしかしたら呼び出しが来るかもと思いまして……」~ 「さっきあいつが今日は休めって言ってただろうが」~ 苦い顔をすると、古泉は肩を落とした。~ 「……でもきっと今夜は大変だと思います。連絡があるかもしれない」~ 「おまえなー」~ 俺は呆れ果て、背中を抱いていた手を古泉の後頭部に移して、無理やり埋めさせた。~ 「一日くらいお前がいなくてもなんとかなるだろ、今日はおとなしくしてろ」~ 「……」~ 俺のその言葉が古泉は気に入らなかったのだろう。突然、強引に顔を起こし、両腕で俺の体を押しのけて体を離すと立ち上がった。~ 「……やっぱり……機関に戻ります。……すみません……会長」~ 「何言ってるんだ」~ 俺も立ち上がり、テーブルの上の携帯をつかむと、そのまま今にも飛び出しそうなやつの退路を塞いだ。~ 「どいてください……やっぱり、行かなくちゃ……」~ 古泉は真剣だった。俺に体当たりを決めてでも出て行こうとしていた。だからこちらも真剣になるしかなかった。~ なんでそんなにムキになるのか俺にはわからん。~ どこで何をしてこようとしているのかも知らんよ。~ だけどまあ察するよな。今日の古泉はいつもの古泉と違う。病院で眠っている彼のことが心配で、自分の責任だと思っていて、機関とやらの上役にも責められて、そのせいで普段の冷静さを失っているお前が向かっていっては危険な場所なんだろう、そこは?~ 「行ったらかえって足手まといになるだけなんじゃないのか?」~ 俺を通り抜けようと、隙を探っている古泉に俺は冷たく言い放つ。普段は柔和な表情が、若干険しくなった。~ 「あなたには……関係ありません」~ 「関係ある。あいつに頼まれてるからな」~ 「……お願いです、通してください。僕が、……僕がしっかりしていればこんな事態にはならなかったんです。僕が責任をとらなければいけないんだ。……みんなに任せておくなんてできない」~ 「あのなぁ……」~ 気持ちはわからんでもない。しかしやっぱり、じゃあ行ってこい、とは言ってやれない。~ 「悪いが嫌だ。絶対に通さん」~ 「……殴りますよ」~ 「やれるもんならやってみろ」~ 途端に古泉は拳を振り上げてきた。慌てて左手で交わしたが、さらに古泉は容赦なく俺の脚に蹴りをかます。油断してたかね。一瞬だが左足が滑った。~ 「うわっ」~ 「すみませんっ」~ 俺の横を駆け抜けようとする古泉。させるか。腕を伸ばして足首を掴む。~ 今度は古泉が倒れこむ番だ。俺はその体に馬乗りになって、仰向けにし、両肩を床に押さえつけた。~ 「俺の勝ちだ」~ 「まだです!」~ 叫ぶと同時に、下敷きにしていた足がうねって、俺を蹴り飛ばそうとしやがった。トドメにもう一発肩を強く蹴られて、流石に尻餅をついちまう。その間に再び古泉は立ち上がり、玄関に近づいていく。~ 「させるかっ」~ 痛みをこらえて後を追い、先を行く古泉の腕を後ろから掴んで、力の限り引き倒して、床に投げつけた。~ 「……うっ!!」~ 力の加減なんてできやしない。勢いで入れ違いに玄関に立ち塞がり、肩で息を吐く俺を、床で仰向けに倒れたまま、肩と頭を押さえ古泉は悔しげに見上げた。~ 「……行かせてください……会長」~ 「いやなもんはいやだね」~ 俺は背中ごしに玄関のドアの施錠を確認する。古泉は倒れたまま、打ちつけた左肩を右腕で押さえ黙り込んだ。~ そのままどれくらい睨み合っていただろうね。~ 漸く諦めがついたのか、古泉は起き上がり、手に握った携帯を見つめ、それから俺をもう一度見上げた後、立ち上がって部屋の奥に向かった。~ まさか部屋の窓から出て行くつもりじゃないだろうかと、俺は一瞬あせってその後を追う。~ だが、古泉が向かった先は俺たちの部屋のベッドだった。~ 「……」~ ベッドに腰掛け俯いているやつの隣に腰掛ける。その手にはしっかりと携帯が握られていた。~ まったく……~ どうでもいいことかもしれないが、俺ってなんて面倒見がいいんだろうね、我ながら驚くよ。~ もし古泉がここを飛び出していったところで、多分あの多丸ってやつがなんとかしてくれるだろう。他にもいろいろ仲間もいるようだし、心配しすぎるほど心配しているわけでもないんだ。~ そもそも機関の連中の頼みなんか、俺は、自分の役割以外に聞いてやる筋合いはないんだからな。~ 古泉もそうしたほうが気が晴れるっていうなら行けばいい。~ 普段よりも冷静さは欠いているし、疲れているようにも見える。だけどこいつはそこまで馬鹿じゃないだろ。~ そうわかっちゃいるのに。 それでも目が離せないし、構ってやりたかった。これがもし俺の立場だったなら、ひとりにしてくれ、と思うのかもしれんがね。古泉も放っておいて欲しいなら隣の部屋にこもるくらいのことはできる。それをしないというのは、俺が隣にいても嫌ではないんだろう。~ なんてことを考えつつ、俺たちはまたしばらくお互い黙ったまま時間を過ごす。~ 時計の針が七時を回って、窓の外はすっかり真っ暗になっている。夕食のメニューをまるで考えてなかったことを思い出し、冷蔵庫を確認しようと立ち上がりかけた時だった。~ 腰を浮かせた俺の腕を、古泉が掴んでいた。~ 「ん?」~ 「……あの」~ 震える戸惑いがちな眼差し。何かを言おうとして逡巡している。~ 「なんだ?」~ 腰掛け直して覗き込む。さんざ迷ったという素振りで古泉は俺を見上げ、微かな声で呟いた。~ 「……抱いて、下さい」~ 「はぁ?」~ さすがにそれは耳を疑う。~ だが古泉はうろたえつつも、もう一度俺に囁いた。~ 「抱いて欲しい……って言ったんです……」~ 「何言って」~ 俺の脳内のほうが混乱するわ。しかも告げた本人は俺に体を押し付けてくる。なんだこれ。~ 無碍にするわけにもいかず、俺は古泉に体を向けて腕の中に抱き寄せなおした。それから、おとなしく胸の中に顔をうずめた古泉が何を考えているのか、頭を巡らしながら声をかけた。~ 「おまえなぁ……抱いてって意味わかって言ってるのか?」~ 「……はい」~ 「はいって。……突っ込むぞ」~ 腕の中の体がびくりと硬くなる。だがやつはただますます顔を押し付けて、小さく頷いた。~ ……おい。~ 据え膳? これってもしかして据え膳?~ ま、まあねぇ……、昨日のやつの反応の良さを思えば、次回くらいは俺のを突っ込んでも大丈夫なんじゃないか~?なんて淡い期待は抱いたさ。……しかしだね。~ 「それじゃ、そうしよう」~ 俺は苦笑すると抱きしめたまま、一緒にベッドに倒れこんだ。ついでに掛け布団もはおる。寒いしな。~ それから古泉の手に強く握られたままの携帯を奪って、俺の枕の下に隠した。~ 「あっ……」~ 「これは邪魔だろ」~ 「……え、ええ」~ 緊張で縮こまってる体をさらに抱き寄せて、うんと密着させる。古泉の腕もびくびくしながら俺の背中に回っていた。~ 「会長……?」~ 小さく告げられる声に耳をすませる。~ 「ん?」~ 「いえ……その」~ 「なんだよ」~ 「……抱いて……欲しいんですが」~ 「抱いてるじゃないか、ぎゅっと」~ 腕の力を強めて、さらにぎゅうぎゅうしてやる。胸に顔を埋めてた古泉が呼吸困難になるほどに。~ 肩口からぷはあと顔を上げて、古泉は俺の首筋にごにょごにょと囁いた。~ 「あの……そうじゃ、なくて」~ 「嫌なこと思い出したくないから、気持ちよくして欲しいって?」~ 少しだけ冷たく返すと、古泉ははっと息を飲み、押し黙る。~ 「あのさ、古泉。……ヤケになるな。こんな時にセックスして気持ちよくなれると思ってるのか?」~ 男だからね、敏感な部分に刺激を与えれば一瞬の心地よさは味わえるだろうさ。だけど余韻もへったくれもなく次の瞬間には自己嫌悪が襲ってくる。あの嫌な気分ったら無い。~ 慣れた体ならともかく……古泉相手にそういうのは忌避したいね、俺は。~ 「でも……」~ 「でも、なんだ?」~ 「……僕はあなたにも満足に応えられていない、って思ったんです」~ 「何の話だ?」~ 眉が思わず寄った。何を言いたいかさっぱりわからん。~ 俺の腕の中で息を吐き、淡々と古泉は呟き始めた。~ 「……あの場所にいたのに、僕は彼を守るどころか犯人も見つけられなかった……。そのせいで責められるのは当たり前のことなんです。なのに帰されて……、僕の仲間は今頃必死で戦っているというのにこんなところで……」~ 「……そうか」~ 柔らかな髪を軽く撫でてやる。~ 戦う、なんて物騒だな。しかし……実は世のため人のため正義の味方してます、なんてのもあいつらならやりかねん。~ 「そうだな……今から、行くか?」~ 「……連絡がありません」~ 拗ねた口調が返ってきた。~ 「ああそうか……」~ 携帯が鳴るのを待ってるわけか。飼い慣らされた犬みたいに。~ さっき途中で出て行くのを諦めたのも、俺が立ち塞がっていたからじゃない。向かった先で必要とされないかもしれないと考えたんだろう。なるほどね。~ 滲み出る苦笑を感づかれないように、より深く抱きしめて背中を撫でながら囁く。~ 「ほんとに不器用きわまりないな、お前は」~ 「……」~ さすがにむっとしたのか古泉は黙り込んだ。~ 「まあいいじゃないか、一晩くらい。よくわからんが、あいつが今日のお前は休ませたほうがいい、って判断したんだ。年上の言うことは聞いておくもんだぞ。病院には誰かいるんだろ?」~ 「……機関が手配した病院ですから何かあればすぐに連絡が入ります」~ 「ふぅん。じゃあ、連絡があったら俺が起こしてやるから、もう寝ろ」~ 「寝ろって……」~ 「それじゃさっき言ったみたいに……セックスするか?」~ 「……それは……」~ 返事に戸惑いがあった。困惑は冷静を取り戻した証だ。落ち着いてきたようだ。~ 俺は安堵して、その耳元にそっと口付ける。~ 「冗談だ。俺は別に急いじゃねぇよ。気にすんな」~ 「……はい」~ 素直な同意。そうそう、お前はそうじゃなくっちゃ。~ 抱きしめた腕の中で古泉はそれからもしばらく色々と呟いて、俺はそれに相槌を打ち続けた。~ その声も徐々に少なくなり、やがて寝息しか聞こえなくなった。~ やはり疲れていたのだろう。まあゆっくり眠るのが一番いいさね。~ ~ まったくね。~ 俺は古泉に甘すぎる。~ 眠っている古泉を寝かせなおし、いい加減腹も減っていた俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、カップラーメンで夕食を済ませることにした。食い終わったら、あとで目覚めるかもしれない古泉の為になんか作ろうとは思うが、今の俺の腹が緊急事態だ。~ 冷えたビールを、布団とあいつの体温で温もった体に流し込む。~ 妙に苦かった。~ 顔をしかめながら、ズボンのポケットに入れっぱなしだった自分の携帯を取り出す。~ 新着メールを知らせるマークが出ていた。~ 開くと、見知らぬやつからのメール。差出人は……ほう。~ 『 古泉は大丈夫かな? 』~ なんでやつが俺のメールアドレスを知っているのかはなはだ謎だ。機関に教えた記憶はないんだが。~ っていうか、あいつも古泉に甘すぎないか?~ むかつくから返信はしないでおくことにして、俺は乱暴にそれを閉じ、苦い水をまた一口飲んだ。~ ~ ~ ◆◆◆~ ~ ~ 早朝、爆睡から目覚めた古泉は、朝の6時頃にはもうバタバタと動きはじめて、俺が夜食用に作っておいたチャーハンをレンジにもかけずに冷たいまま食べ終えると、そのままアパートを出て行った。~ 機関に寄って、それから病院の規定面会時間の開始と同時に病院に駆け込むつもりらしい。~ 意識不明の彼の付き添いは他の団員と三交代制と言ってたから、夕方には戻るかと思ったんだが、結局そのままやつは夜まで戻ってこなかった。昨日の分まで機関で働いてくるつもりらしい。~ 夜の10時過ぎになり、また忌々しいやつから連絡があった。~ どこかで頑張りすぎて気絶した古泉を彼はタクシーで搬送してきて、「どうしてもこういう時、頼んでも無いのに無茶するのはなんでだと思う?」なんて聞きやがったので、俺は「お前らの教育が悪い」とだけ返してやった。~ 下手をすれば死んでたかもしれない、なんて薄気味悪いことを言うやつから古泉を受け取り、またベッドで寝かせる。~ で、翌日はまた同じことの繰り返し。~ まだマシだったのは、夜中の二時に自分の足で帰ってきたことぐらいだ。~ 「……まだ彼が目覚めないんです……」~ と、古泉は蒼白な表情でフラフラ足を心配して出迎えた俺に訴え、少し眠ったあと、また携帯電話に呼ばれて飛び出して行きやがった。~ 朝になっても戻らず、メールで、直接病院へ行きます、と送ってきた古泉が、俺は相当気になって、はじめてその日の放課後、彼が入院しているという病院へと向かうことにした。~ ~ 北高から運ばれたにしては、少々遠い区画の私立病院。~ 差し入れを持ってきたから降りてこい、と病院の門の外からメールを打つ。~ 病院の中ではメールチェックなど出来ないだろうと時間潰しの喫茶店を探し始めた俺だが、すぐに返事がきた。~ 『今、行きます』~ 門へと再び戻ってきた俺の視界に、病院の玄関から出てくる古泉が映った。~ 久しぶりに見る笑顔を浮かべた古泉は駆け寄って近づいてくると、少々躊躇ったあと、突然俺の胸に軽く顔を当てた。~ 「……目を覚ましたんです、彼が」~ 小さな声で告げられた報告。お前の顔を見た時から分かっていたけどね。~ 「よかったな」~ 俺は古泉の肩に手を置き、顔を起こさせる。こんな往来で抱き寄せるわけにはいかんしな。~ 笑顔を浮かべたやつの目元には、涙がじんわりと浮いてきていた。~ 苦笑してその涙を指で拭い、俺は持参した土産を押し付ける。~ 「……こんなところで泣くな。これ、ケーキだ。何人分かわからんから適当に買ってきたぞ」~ 「え、ええ。……ありがとうございます。まさか会長これ……」~ 「手作りじゃねぇよ、勘違いすんな。途中で買ってきたんだ。ほら、行って来い」~ 懸案事項が片付いたならそれでよし。俺はめそめそしそうな古泉の背中を押して、病院に追い返した。~ 甘やかすのは俺と二人でいる時間だけで十分だろ?~ ~ 名残り惜しそうに数度振り返り、古泉は病院に戻っていった。~ そして、その後姿を見送ってから、もう少し話したかったな、なんて思ったりするわけで。~ ~ 久しぶりに心がほかほかに温まる日だった。~ どうせあいつはすぐには帰宅しないだろうから、わざと遠回りして帰った。~ すっかり街のどこかしこもクリスマス仕様と変化していて。~ 愛を奏でるクリスマスソングに、鈴の音。赤と白のサンタクロース。緑に赤の色彩で彩られ賑わう町並みを眺めて歩くうちに、今もし隣に古泉がいたらなんて考えたりしてね。~ どうしようもなく安定している俺の日々。去年じゃ考えられなかった。~ ……古泉がいてくれたおかげだ。~ ~ 上機嫌が過ぎて、花屋になんぞ立ち寄ってしまった。ポインセチアの鉢植えをひとつ買ったら、まるで花束みたいに綺麗に包装してくれて、持って帰るのが恥ずかしいくらいだがまあいいさ。~ 男同士の飾りっけのない部屋には、この鉢植えだけでも十分華やかだ、きっとよく目立つ。~ 来年の冬には古泉はもういない。~ だから。~ 二人で過ごした季節を忘れぬようにね。~ 俺にだけわかれば十分な、記念の品になりそうだと、ひとり満足しながら、帰宅の途についたのだった。~ ~ ~ [[ →→つづき(契約愛人18)>http://haruhi.kazeki.net/?%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%84%9B%E4%BA%BA%EF%BC%91%EF%BC%98%EF%BC%88%E4%BC%9A%C3%97%E5%8F%A4%EF%BC%89]]~ ~ &size(10){(消失話終了です。こんなに古泉は弱く無いと思うんですが; でも古泉を甘やかすSSなので、見逃してやってください!)};~ - 今か今かとお待ちしておりました!!続きも楽しみにしています!!! -- &new{2007-12-24 (月) 09:27:31}; - 待ってました!消失話も素敵でした・・・これからも楽しみにしてます -- &new{2007-12-24 (月) 14:52:57}; - 会長、会長ありがとう。貴方がいてくれてよかった…!「来年の冬には古泉はもういない」というのが哀し過ぎますが。この二人には是非とも幸せになって欲しいです。 -- &new{2007-12-24 (月) 18:15:53}; - 待ってましたー!今回も楽しませて頂きました! -- &new{2007-12-24 (月) 21:21:18}; #comment
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