*シスプリ古泉(キョン+増殖古泉) [#kd9c1d4e]
~
「すみません、今日、これから少しおつきあいいただけますか?」~
 ああ、断れば良かったね、断るべきだった。だが俺は取り立てて放課後用事があったわけでなく、ハルヒは朝比奈さんのコスプレ衣装をまた新しく買うとやらで朝比奈さんを連れて飛び出し、SOS団は休業だったものだから、あっさり了解してしまったのだ。本当に断るべきだった。~
 だがしかし、あそこで俺が断らなかったのはきっと……<既定事項>だったのだろう。~
 連れて行かれたのは閉鎖空間でもなく、怪しげな『機関』絡みの何かとかでもなく、適度に古くて適度に新しく、そこそこ薄汚れてはいるがボロボロでもない、どこにでも転がっていそうな低層マンション…というかまあ、ワンルームマンションとかアパートとか、そういう物件である。~
「何だ、ここは」~
「僕の家です」~
「何でまた?」~
「…ちょっと聞いて頂きたいお話がありましてね」~
 どうせまた、ハルヒのことなんだろうな。別にいいけど。とか思ってたこの時の俺を、今は殴りたい。確かにハルヒのことではあるが、そんな甘いモンではなかったのだ。むしろ激辛だ。~
 しかしこの古泉の家とやらは、なんとも建物といい、立地といい、なにもかもがえらく普通だった。長門や朝倉のような高級マンションでもなく、一介の高校生が一人暮らしする物件としちゃミジンコ並みの普通さだ。部長氏のお宅に近いレベルの建物だ。~
 そういう普通なアパートなので鍵も怪しげな『機関』のエージェントっぽい指紋とか動脈とか虹彩認証式とか複雑なパスワードを入力したりとかではない。もちろんオートロックなんて気の利いたものもない。ごくごく普通の突っ込んで回す鍵で入った室内はといえば、こちらも同様にやたらめったら普通だった。~
 もっとこうエスパー的な何かとか、怪しい武器とか、怪しい機械とか、そういうものがあったりだとか…あるいは逆に長門の家のように極度に何もないとか、そういうことがあるのかと思ったが、案に相違してほどほどに片づいていて、ほどほどに雑然としている。~
 キッチンには冷蔵庫に電子レンジにトースター。分別の都合だろう、3つあるゴミ袋には適度に弁当ガラだのペットボトルだの、空き缶だの、丸めたティッシュやノートの切れっ端や卵の殻なんぞが詰まっており、脇には古雑誌が積み上がっている。流しには昨夜から今朝食ったんだろう、カップ麺のカラと箸とマグカップとインスタントコーヒーと、パンくずの乗った皿が一緒に置いてある。コンロには適度にすすけた笛付きのヤカンが鎮座ましましている。ああ、もう本当にどうしようもなく普通だ。~
 リビング兼寝室にはビデオデッキが繋がったテレビがあって、その向かいにはベッド。ベッドとテレビの間に座卓があって、それからテレビの隣に勉強机があって…本棚に並んでるのも普通のミステリだとか普通の参考書だとか雑誌だとか、せいぜいが囲碁将棋チェスなどの定石本があるぐらいで、いつぞやのコンピ研の部長氏の本棚よりもかなり普通感を醸し出している。ベッドの下を漁ったらエロ本とか出てくるんじゃなかろうか。~
 ある意味異常なのは机の側にある棚に、オセロにチェスに囲碁将棋、人生ゲームにモノポリー…とやたらとボードゲームが積み上がっていることぐらいなものであるが、これは古泉を知る俺にしてみれば至って正常だ。~
 見たわけではないが、トイレと風呂もまあたぶんものすごく普通なのだろう。適度に小汚くて、だがものすごく汚くもないとかそんな感じで。~
 まあそういうすさまじく普通な古泉宅なのだが……お邪魔して5分ばかりでとんでもなく異常な光景に出くわすことになってしまった。この普通さが余計に事態のおぞましさを際立たせる結果になったのは、まったく皮肉としか言いようがない。~
 朝比奈さん(大)が、古泉の顔してるくせに古泉よりでかくて古泉より大人っぽいニヤケハンサムを引き連れて、キッチンから続くドアを開けたのだ。~
 古泉が二人っておい。~
~
「驚いたでしょキョンくん、ごめんなさいね」~
「お久しぶりです」~
「あのー…古泉くんのお兄さんですか?」~
 なわきゃあない。朝比奈さん(大)に連れてこられている時点でもう間違いないのだが、世の中にはわかっていても信じたくないこと、というのがある。まだ夢や希望を捨てたくなかっただけだ。~
「僕は僕…古泉一樹、本人です。ただし…あなたの知ってる僕よりもっと未来から来ました。会いたかったですよ」 ~
 キタコレ。あー…やっぱなあ。そうだろうと思ったんだよ、やっぱなあ…。っていうかこの台詞どっかで聞いたぞ。これは未来で流行してる新種の嫌がらせか? っていうかお前、未来の俺とは普通に会ってんだろ、朝比奈さんとは事情が違うんだから! っつか笑顔で抱きついてくるな気色の悪い!~
「…すみません、でもやっぱり懐かしくてね。ふふ、こうやって大人になった目で見ると可愛いですね」~
 台詞まで気持ち悪いことこの上ない。~
 図体がますます巨大化していようが、大人っぽい雰囲気を漂わせていようが、こいつはちっとも変わってない。――ええい、屈んでまで顔を近づけるな!~
「まあまあ、そうお怒りにならず。子供の頃は同級生が普通に大人っぽく見えていても、今の目で見ると小学生や中学生は幼くて可愛く見えるものですから、それと同じことでしょう」~
 こら古泉(小)! お前も顔を近づけるな! 何が悲しくてニヤケ面の野郎×2に両脇から顔を近づけられて挟まれにゃあならんのだ。~
 一人でも鬱陶しいのに二人に増殖なんてタチの悪い冗談だぜまったく。~
「…いえ、実は僕は二人ではないんです」~
 な……なんだってー!!?~
 キバヤシ先生もぶったまげだぜ。~
「この時代に僕の異時間同位体は合計12人。つまり11の時代から、僕が来ています……すみませんね」~
 ちょ、何だそれはどんな冗談だ。大中小でもおっつかない、古泉くん(1)とかそういう呼び分けが必要になるのか?~
「おいおい……12人って」~
「……話がややこしくなるのですが、実は僕はこの時間に過去にも来たことがあるんですよ」~
 古泉(小)が笑顔を崩さず突拍子もないことを言い出した。~
「中1の僕から今の僕までの3年分は現状で経験済みですし、12人いるのも中1の時の経験で知っています。ただ、あなたと接触するのは中1の僕と今の僕と、この23才の僕だけですね」~
 23才! そのころ自分がどうなってるのか、今の俺には想像もつかない。だがこいつは中1で23才の自分と出くわしてて…ああこりゃヘンに老成もするわな。というか俺は中1の古泉とも接触しなきゃならんのか? 3人の古泉に囲まれるだなんて心底悪い冗談だ。~
「じゃあ、状況を把握してもらったところで私はもう帰りますね。もうすぐ中1の古泉くんを連れた私が来ますから。ここはあまり広くないですし、5人はちょっと狭すぎますしね。ああ、中1の古泉くんには私の正体とか、この時代で古泉くんが経験するいろんなこととか、SOS団に関する固有名詞とか…そういうことはあまり詳しく言わないで下さいね、すべて禁則事項です」~
 ええええええええええええ!!? 今? 今ここに来るのかよ!? 中1の古泉が? 正直…ちょっと興味はある、どんな顔してたんだとか中1のころから胡散臭かったのかとか。だがしかし、今はいい、今は二人でもうお腹いっぱいだ、暑苦しい!~
 だがそんな俺の心の叫びを無視して朝比奈さん(大)が退場した5分後、また朝比奈さん(大)が、目眩でフラフラになった迷子のキツネリスのような古泉を置き去りにして去って行ったのだ。心底うんざりだ。~
~
~
「すみませんね、ちょっとした都合でね…。未来人の皆さんとの共同戦線を張る必要がありましてこんなことに」~
「いやあ、おかしなことにおつきあい頂きまして申し訳ない」~
 未来と今の古泉が揃ってニヤニヤ頭を下げ…横で細くてちっちゃな古泉が毛を逆立てそうな勢いで二人を睨んでいる。異常すぎる。この場合古泉(大)(中)(小)という呼称が適当なんだろうかね。~
 古泉(小)はまだニヤニヤ顔を習得しておらず、胡散臭い身振りもせず、俺に必要以上にへばりつきもしない。まだ声変わりもしてないし、顔もまだ男っぽくなってなくてちょっとすると女の子のようにさえ見えるし、身長もハルヒぐらいなもので至って可愛らしい。その代わりというかなんというか、やけに攻撃的な目で未来の自分たちと俺をギロギロ睨んでいるのはどうかと思うが。~
「で? 俺に何しろってんだ?」~
 また面倒ごとが増えたってことなんだろうねえ、今度はどんな騒動が持ち上がるんだ? やれやれだ。~
「……いえ、あなたには特別なことをしていただく必要はないのですが。それより、主に大変なのはこの時代の僕です」~
 古泉(大)が相変わらずうさんくさい笑顔満開で言う。~
 じゃあ何で俺が連れてこられなきゃならなかったんだ? そのハンサム面さげて12人でニコニコしてりゃ良かったろうに。ああ最低一人はニコニコしてないんだろうけどな。~
「えー…それは既定事項なんですよ。それから、高1の僕の手助けをしてあげて欲しいということで。よろしくお願いします」~
 わざわざ手を握るな! ああ鬱陶しい。 ~
 ますます男前に、しかも身長までモリモリ伸び続けやがって。明らかに180超えてるよなあ…。忌々しい。50年後の古泉、とかに出くわしても相変わらずニヤケロマンスグレーなんだろうなと想像がついちまう。うんざりだ。~
「で、それは何なんだよ? 古泉は…ややこしいな、今の古泉は中1の経験があるから言わなくていいんだろうが、俺は知っておきたいぞ」~
 そう言ったとたんに古泉(中)がものすごい勢いで俺の近くへ顔を寄せて話し始めた。だから顔近いって! 息がかかる!~
「それはですね……ちょっとこちらへ。先程もお聞きになった通り、中1の僕には知る権限のない話をしなくてはならないので。……あ、ちょっとごめん、僕ら出てくるから。23才、勝手はわかってるよね?冷蔵庫の中身とか勝手に食べてていいから、中1をよろしく」~
「はいよ了解、行ってらー」~
 うおっ! 古泉が普通に喋っている。…当たり前か、年上だろうが年下だろうが相手は自分だからな。敬語を使うって気にもならないだろう。年の離れた兄貴を相手にしてるような気分にも近いのかもしれん。つーか年齢とか学年で呼ぶのかよ。確かにわかりやすいかもしれんが。~
 家を出て、公園のベンチに落ち着いたところで、古泉(中)は話し始めた。公園には走り回るがきんちょ共がいるにはいるが、そいつらは遊びに夢中で他人のことなんざどうでもいい状態だし、何より本人たちがやたらやかましいので話を聞かれる心配がない。~
「実はですね…今後一週間に渡って、異常な規模の閉鎖空間が発生する予定なんですよ。とてもではありませんが、現在この時間平面上に本来存在する数の能力者だけでは対処不能な、それは膨大な数の神人が次々と生まれ続けるんです。結果、それを座視すれば世界は崩壊してしまう…ということなんですよ。それに対処する方法はすでに既定事項らしく、朝比奈さんたちの組織からこの方法で対処できると協力依頼が来まして。…まあ、この話は中1の僕も聞かされてはいるんですけどね、固有名詞なんかは彼には秘密なので念のためご足労頂きました」~
 古泉(中)が笑顔のまま眉を寄せて解説してくれた。なるほど、それで古泉を大量に。嫌な光景だなおい。だが古泉を大量にってことは…~
「おい、ひょっとして、お前以外の能力者も……」~
「ええ。今我々の同志は12倍の人数でこの時間平面上にいますよ。もちろん同一人物の12年分が一同に会したりすれば異常に目立ちますから適度に分散して、『機関』お抱えの施設などに分宿してね」~
 うわ。ちょっとしたホラーだなそれは。で、俺が古泉(中)の手助けってのは何だ?~
「僕は今後やたらと忙しくなりますから、そのフォローとか…そういう方面ですね。明日から当分学校に行くことはできなくなりますし…うまく朝比奈さんと涼宮さんを誤魔化していただきたいんです。今の時代の朝比奈さんはこの件を知る権限を持ちませんので、あなただけが頼りです」~
「…長門は」~
「長門さんは情報操作がお得意ですが、情報操作するほどのことではないでしょう? 朝比奈さん涼宮さんをうまく誤魔化す、というだけの能力であれば、あなたの方がずっと上です。もちろん、長門さんにこの件を話すのは問題ありません」~
 なるほど、確かに無口宇宙人に口先でハルヒを誤魔化せというのは、俺に今度の期末で全教科100点を取れというのに近いであろう。俺だってそういうのが得意なわけではないが、古泉を除いたSOS団メンバーを考えるに、俺に頼るのは確かにベターな選択だ。~
「……というより、いずれ必ず彼女の力を借りることになります。その連絡なども、あなたにお願いすることになります…僕らは手が離せないので」~
 古泉(中)はなぜか沈痛な面持ちでそうつけたした。何が起きるのかは知らないが、余り良い展開にはならない、ということなんだろうか。~
「具体的に何がどうなるか、聞いてもいいか?」~
「それは、禁則事項です。ま、彼女のお力をお借りすれば八方丸く収まるのは間違いないのでご安心を」~
 さっきまでの悲壮な面持ちを隠して、古泉(中)はきゃるん☆とか音のしそうな軽薄な笑顔を満開にした。もうちょっと控えめな笑顔にしておいてくれないか。どうにもその落差が激しすぎて、それだけ嫌な展開が待ち受けているような気がしてならない。~
「…既定事項か」~
「ええ、何しろ…あなたとこの時間平面上で接触するのは2度目とはいえ、この件に関わるのは4度目ですから間違いありませんよ」~
 ああ、一番嫌なのはこの古泉自身なんだろうな、もし俺が漠然とだが想像しているような、嫌な展開が待っているならそれを全部知った上で、でも全部それを忠実にたどらなくちゃならんのだから。どんなに明るい笑顔を見せていてもたぶん。そういう時ほどこいつはことさら笑ってみせる。そしてそんな時には、口を割らせようって努力は徒労に終わる。だから俺はもう突っつかん。~
「ところでな、どんな理由で閉鎖空間が発生するんだ? 今日のハルヒを見てる限りじゃえらく上機嫌だったし…俺もそんな話を聞かされたんじゃ、ハルヒを怒らせたり落ち込ませたりなんて恐ろしくてできんぞ」~
「……今夜、彼女をとても可愛がってくれていた祖父が亡くなります。まあ天寿を全うするだけなんですけどね、大往生です。でも身内の死は悲しいものです。たとえ顔を合わせるのが年に1~2回でもね。それにその事件は、彼女にとって初めての身近な人の死の経験です。彼女は落ち込み、精神的に不安定になります。誰にもどうにも仕方のないことですから表面上はさほど不機嫌になったりはしませんが…、その分その気持ちは抑圧されます。そして向こう一週間ばかりはその抑圧された具体的な死への不安や恐怖や寂しさ、お爺さんに生き返ってほしい、でもそんなことはあり得ない…といった感情の渦で、これまでにない規模の閉鎖空間を発生させてしまうんです。しかも、ものすごい数の神人が次々と湧いて出てきりがないっていうそれをね。…これは誰にもどうすることもできません、阻止することも、彼女の気持ちを逸らすことも」~
 俺は暗澹たる気持ちになった。爺さんが死んで悲しむハルヒの気持ちも、知らずに世界を破滅の危機に陥れてしまうハルヒの力も、そのために何度も同じ事を繰り返す羽目になる古泉の気持ちも、どれもが重すぎていたたまれない。~
「そんな顔をなさらないでください、大丈夫、我々がちゃんと対処します」~
 にっこり笑って力こぶを作ってみせる、お前のその態度が俺にこんな顔させてんだよ、まったく。対処ったってあれだろ、あの辛気くさいモノクロ空間で一週間ひたすら戦い続けるってことなんだろ。~
 …まったくたまらない。やりきれない。~
「では、帰りましょうか」~
「……おう」~
 で――…玄関開けたら2秒でウホッ!~
「やだ、もうこんなのやだ…!」~
「……大丈夫、僕らが守るよ、だから安心して、それに今帰る手段はないんだよ」~
 男でも一瞬ぐらっと来そうな優しい微笑みで、古泉(大)が半泣きで暴れる古泉(小)を抱きしめ頭を撫でてやっている。何だこの光景はアッー!~
 まあ、長男が不安がる末っ子をなだめるの図、と見えなくもないというか実際ほぼそんな感じなんだろうが、そんな光景を見せられた俺の気持ちを想像してくれ。事情を知らなきゃピュアなちびっ子を騙して手込めにしようとする変質者の図にしか見えん! 事情を知ってても自分で自分を慰めてる古泉ってえらくシュールな光景だぜこりゃあ。~
「あ、お帰りなさい」~
「あ…………」~
 半ベソの古泉(小)が慌てて古泉(大)から離れて真っ赤になった。うんまあ恥ずかしいだろうね。男としてあんまり泣き顔ってのは見られたくないもんだしな。一番背伸びしたいお年頃としちゃ切腹モノの恥ずかしさだろう。~
「事情は説明しといたから。あとは…。……あ、あなたはもう今日は結構ですよ、お帰りになって頂いて構いません。明日明後日は彼女は忌引きでしょうから、その間も普通に生活して頂いて結構です。あとは、さっき言った通りです。ご迷惑でしょうがお願いします、すみません」~
「すみませんね、本当に」~
 おいこら、年長組古泉ども。お前らは悪いと思ってるならちょっとは殊勝にしてみたらどうなんだ。なんだそのインチキスマイルは。どうしてあんな感情表現のわかりやすいちびっ子がこうもふてぶてしく胡散臭い物体になり果ててしまうのだろう。一体3年間に何があった!?~
 しかしだ。帰れと言われてもこの状況で素直に帰るってのも何だか座りが悪い。早く言えばピリピリしているチビの様子が気になってしかたがない。大丈夫なのか、あれで。あんなのでちゃんと戦えるのか?~
「おい、ちょっとお前、顔貸せ」~
「なんであんたみたいのと…!」~
「はいはい行ってらっしゃい、…くれぐれも禁則事項には気をつけて」~
 特に年長組が文句を言わんどころか笑顔で半ば無理矢理古泉(小)を送り出すところを見るに、たぶんこれも既定事項なんだろうなあ…やれやれだ。~
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 んでまあ、俺達はまたさっきの公園のベンチに並んで座ってるわけだ。隣の古泉はさっきの古泉ではなく、むっつり黙って地面を睨み続ける古泉(小)だが。~
 俺は仏頂面の古泉はこういう顔になるんだなあ、なかなか可愛いもんじゃないか、いや今以降の古泉がやったら鋭すぎて怖いかな、とかしょうもないことを考えつつ古泉(小)の横顔を眺め、それからこう切り出してみた。~
「お前さ、戦いたくないんだろ」~
「……当たり前だろ。あんたこんなワケのわかんないトコでワケわかんないまま戦いたいとか思うか?」~
 おーおー、いきなりけんか腰だ。口調の荒さといい、俺を睨みつけるでっかい目といい、これじゃ全然古泉に見えない。やたらと整った顔してるってのは共通だがな。~
「んー…いや、まあお前が普通なんだろうな。でも俺の知ってる古泉は滅茶苦茶不条理な目に遭ってもニコニコしてるからな、気色悪いが」~
「気色悪いんだろ。じゃあ別に俺ぐらいニコニコしてなくてもいいだろ」~
 とりつく島もないねこりゃ。ガチガチに体中こわばらせて、うかつに触ったら噛みつかれそうだな。ほら、怖くない。怯えているだけなんだよね?~
「別にニコニコしてろってワケじゃない。だが、ある程度話は聞いてきてるんだろ? たぶん俺より知ってることは少ないんだろうが」~
「……まあ、ある程度は。だから納得もしてる、ただちょっと嫌なだけだよ。それでいいだろ」~
 どっからどう見たって納得してる奴のする顔じゃないぜ、古泉(小)よ。~
「うっさいなあ、あんたに関係ないだろ! ちゃんとやれって言われたことはやるよ、それが俺の仕事だからな。それでも文句があるって何様のつもりだあんたは!」~
 古泉(小)は勢いよく立ち上がり、伸ばしかけた俺の手を思いっきり振り払ってキャンキャンわめきまくった。あー…、さっきまでちょっとはこの性格のまま育ってくれれば、なんてことを考えもしたが、古泉がそんな育ち方をした古泉じゃなくて良かった。たしかにこの古泉はわかりやすい、とってもわかりやすい。だが俺の手に余る。このサイズだからこそまだ可愛いねなんて思ってられるが、今かそれ以降の年齢の古泉の図体でこうキリキリピリピリされたらマジで怖い。~
「いや…文句があるわけじゃない。ただなあ…ちょっと大丈夫なのかって不安でな。愚痴ぐらい聞いてやろうかと思ったんだ」~
「余計なお世話だよ。あんたに愚痴ってどうなるってんだ、あんた超能力者でも未来人でも宇宙人でもないんだろ? のほほんと生きてるただの役立たずに言う愚痴なんてねぇよ、俺はちゃんとやれる!」~
「てめぇ…!」~
 のほほんと生きてるただの役立たず、これは痛かった。もし心の傷が肉体の傷になって現れるとしたら、今すぐ黒いコートの無免許医を呼ばなきゃ死ぬなってぐらい痛かった。~
 確かに少なくとも閉鎖空間の処理に関しちゃ間違いなくそうで、協力依頼を受けはしたものの、実質神人を倒す役に立つわけじゃなし、せいぜいハルヒを誤魔化すとかそんな割とどうでもいいような地味な役回りだ。古泉たちがどれほど危険な目に遭おうとも、俺には力を貸すことはできない。そんな力はない。それはこういう状況になると結構悔しくて歯がゆくてやりきれないことだ。~
 朝倉の襲撃を受けた時、目の前で串刺しになった長門を見たときにもひしひしとそれを感じたもんだ。~
 だから俺はそれを正面から指摘されて激しく傷つきもし、頭に来もした。~
「……殴るのかよ」~
 だが、襟首ひっ掴んで拳を振りかぶったところで、俺はその気力をなくした。古泉(小)が、あんまり自暴自棄な目をしてたから。~
 殴られても、どうなってもいいって目だ。こんな顔されて殴れるかよ。こんな暗い目は、中1そこらのガキンチョのしていい目じゃない。~
「…いや、いい。悪かったよ。正直お前の言ってることは図星だ。俺はのほほんと生きてるただの役立たずだ。お前とは違う。でも…お前より年上で、ちょっとは大人だ。だから心配だったんだ」~
「ふん、黙ってろ役立たずのチキン野郎」~
 吐き捨てると、古泉(小)は俺を置き去りに、古泉(中)宅に向けてさっさと歩き出してしまった。~
 おいおいどこまで口が悪いんだよ。もう怒る気にもなれないけどな……だって見ちまったからな。俺をチキン呼ばわりしながら、握った手がブルブル震えてるのを。図らずも迷子のキツネリスに例えたのはまさに正解だったわけだ。
 ……そうだよな、一番怖がってるのはお前なんだよな。なんたって謎のダイナマイトボディお姉様に3年後の未来に拉致られて、禁則事項だらけでさっぱり意味もわからんまま、とにかく大量発生した神人とひたすら戦えってんだから、そりゃあ怖いだろう。まだガキなんだしな。~
 でも、今お前はそれを俺には言えない。お前にとったら俺は初対面の怪しい男なんだろうし、それに何より、そうやってやせ我慢しちまうのは古泉(中)との共通点でもある。悪い癖だと思うけどな……まあ古泉(中)の場合、立場上言えないとかいうのが多いってこともあるが。~
「……済みません、お気を悪くなさらないで下さいね」~
 古泉(小)とまるで計ったように入れ替わりでベンチに腰掛けたのは古泉(大)だ。まあ計ったっていうか、古泉(小)がキレて逃げ出すタイミングをこいつは知ってるはずだからな、わかっててやってるんだろう。~
 だが正直ホントにこいつとは関わりたくない! うさんくささと気色悪さが古泉(中)の5倍のエネルギーゲインだ。~
「いや…怖がってるんだろ…いや、怖がってるんでしょう、仕方ないです」~
 まあ、いくら気色悪かろうが古泉であろうが、一応年上だしな、ちょいとタメ口ははばかられる。~
「お気づき頂けていたみたいで安心しました。…後で謝った後も本当に気を悪くなさってないかと反省しきりだったんですよ。……ああ、この時代の僕に話す調子でいいですよ、あなたに敬語を使われることは、少なくとも僕の時代までまったくないことなので、調子が狂ってしまいます」~
「…じゃ、遠慮なく。ところであんたは将来もずっとその口調なのか?」~
「禁則事項です☆」~
「それじゃ質問を変える。そんな先までハルヒは…」~
「禁則事項です☆」~
 鬱陶しい、いちいち朝比奈さん(大)風にポーズまで決めて言うな。ちっとも可愛くない!~
「ああそうかい、ならどっちも別にいいけどな。……で、中1の古泉だが…あれで大丈夫なのか? あんな状態じゃまともに戦えるのか心配なんだが」~
「……心配して下さってるんですね、うれしいですよ」~
 近い近い近い! 顔近いってバカ! 何で俺の腰を抱くんだよ。そんなこと古泉(中)でもやらんぞ!? それとも今後の古泉はそこまでエスカレートしてくるのか? 冗談じゃない! だいたいここは公園だぞ、お子様たちはこっちなんぞ見ちゃいないかも知れんが、うっかり目に入ってしまったらとてつもなく情操教育に悪いこと間違いなしだ。~
 まったくホントに危ないなこいつは。腹立たしいことに無駄に男っぷりが上がってるぶんいちいちエロくさい。イタリア人並みのフェロモン垂れ流し状態だ。いやイタリア人のフェロモンなんて香水の通販の広告でしか知らないわけで、事と次第によってはイタリアの方角に土下座せにゃならん不適切な例えではあったかもしれんが。~
「どうなさったんです?」~
 耳元で囁くな! 背筋がぞくっとするだろ!~
 ああもう、いちいちどうしてこう卑猥なんだ? もう貞操の不安すら感じる勢いだ。童貞より先に処女が奪われたらどうすりゃいいんだ。こいつやピリピリしっぱなしの古泉(小)と比べると、古泉(中)がえらくまともに思えてくるから恐ろしい。~
 腕を振り払いドン引きしている俺を見て、古泉(大)はめちゃくちゃ楽しそうに笑い出した。この野郎、からかいやがったな。…と、この様子じゃ若干古泉(中)より開けっぴろげになっているようだ。人を食った性格は悪化しているようでもあるが。ああこりゃ将来の俺は相変わらず無駄にくっつかれてるんだろうな。がんばれ俺。~
「……すみません、悪ふざけがすぎました。…で、まあ実際の所、彼は当然まともな戦力にはなりませんよ。まだ閉鎖空間にも、その中での動き方戦い方にも慣れていませんし、年齢的にも幼いですし…何よりあなたのおっしゃるとおり、精神的に不安定ですし。でも、ここで戦うのは必要なことなんです。僕らの戦いを見てその方法を学ぶことにもなりますしね」~
 なるほどね。ただそれだけでもないんだろうね、既定事項ってやつか。~
「そうです。……ああそうだ、今回の件とは関係ないんですけどね…、高1の僕のことです。あいつはまああなたもご存知の通り、大変うさんくさくて気色の悪い男だと思いますが、中1の僕同様、意地っ張りで何でも一人で背負い込むタイプでもあります。そしてそれを指摘されても素直になれない。色々腹立たしいことも多いでしょうけど、我慢してやって下さい。そういう性格なんです。悪い癖ですけど、今の時点では自分ではどうすることもできないので」~
 大変うさんくさくて気色の悪い男だって自覚してんなら、もうちょっと自重しろってんだ。お前の方があの古泉(中)の5倍は気色悪い。~
 だが俺のそんな言葉を古泉(大)はさらっと笑って流しやがった。そしていきなり真剣な顔になると、~
「見捨てないでやって下さいね、あれでも寂しがり屋なんですよ。お願いします」~
 俺の両手を大きくて暖かくて乾いたその手でぎゅっと包み込んだ。~
 おいおい、そんなのありか? 拒否できないだろ、それじゃ。~
「このまま帰って頂いて結構ですよ、中1と高1には僕から伝えておきますから」~
「…高1はともかく、中1は俺が帰ろうが死のうが気にしないんじゃないか?」~
「…ふふ、そうですね…今は」~
 今は? 今じゃなかったらどうだってんだ。だが古泉(大)はただニコニコしているばかりで返事をせず、結局俺は諦めて帰ることにした。どう考えたって古泉(中)の口を割らせることもできない俺には太刀打ちできっこないもんな。~
~
~
 で、まあ翌日から俺の生活は特に変化なく、SOS団は団長の忌引きにより休みになり、古泉欠席を心配する朝比奈さんを遠縁のおじさんが病気で倒れて看病に男手が必要だとか我ながらなんかウソくさい説明でかわし(正直心が痛む、今回は朝比奈さんが仲間はずれというか完全にカヤの外なんだから。だが何しろ朝比奈さん(大)の指示であり、禁則事項なのだからどうにもならん)、長門を捕まえ今回のことを相談し、それから忌引きが明けて戻ってきたハルヒをなんとか煙に巻く……はずだったのだが。~
 表面上はさほど不機嫌にはならん、と言う古泉の言葉は半分正しいが半分は間違っていた。~
 学校に戻ってきたハルヒは、イライラしたり激しく落ち込んでいるという感じではなかったが、いつものハイテンションがごっそりなくなっていたのだ。話しかければ普通に返事はするものの、その返事が普通すぎる。突拍子もないことを言い出すでもなく、つっけんどんになるわけでもなく、当たり障りのない返事をしてぼんやり窓の外を眺めるだけ。古泉のことも、一応心配はしたようだが俺の説明であっさり「ああそう。…おじさん、早く元気になるといいわね」で終了だ。こりゃあ異常だぜ。~
 だがこういう時、下手な慰めは何の役にも立たないことを俺は知っている。何しろ気持ちの問題なのだし、自分で折り合いをつけられるまでは他の誰に何を言われたって、どうにもなりゃあしないのだ。ただ俺にできることと言えば、ハルヒの側にいつもいて、ハルヒがぽつぽつ語る爺さんの思い出話をうんうんと聞いてやるだけだ。~
 つらいことがあった時は人に話すといいって言うしな。これでちょっとは…たぶんものすごくちょっとなんだろうが、ハルヒだけでなく古泉たちの力にもなれていると思う、思いたい。思わせてくれ。~
 何せ初体験の俺としては不安で不安でたまらないのだが、とにかく経験者の古泉(中)の談によれば俺は特別何をするでもなく、ピンチになったら長門に連絡、それだけで八方丸く収まるらしい。ならそのお言葉を信じて祈るほかないってもんだ。今この瞬間も古泉たちが死闘を繰り広げているであろうに、のほほんと生きてるただの役立たずとして何もできんというのは歯がゆくてしかたがないのだが。~
~
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 しかしそんな歯がゆいまったりスクールライフは、ある日唐突に終了した!~
 ちょうど古泉×2の来襲に頭をかかえた一週間後、予定では古泉大忙し期間の最終日、さて寝るかなーなんてパジャマに着替えて部屋でダラダラしてた午後11時。目の前にいきなり血まみれの古泉(小)が湧いて出たのである!~
 まさか、というかそれしかありえないんだが、どうやらただいま閉鎖空間は、俺の部屋をぶった切る格好で拡大中であるらしい。~
「ちょ……お前、お前どうしたんだ!」~
「…ごめ…あんた…たすけ…くれる、って……あんな…いって…ごめ…」~
 こんな時なのに謝りながら、古泉(小)は俺の腕の中に倒れ込んだ。咳き込むたびに口から赤い泡があふれ出す。その身体はずっしり重くて湿って嫌な感じに冷たくて、左腕が絶対曲がっちゃいけない場所で曲がっていて…俺はぞっと総毛立った。~
「……おい、おいしっかりしろ、大丈夫だから! 助けてやるからな! 古泉!」~
 いやちっとも大丈夫じゃない。~
 体中に深い切り傷、額もぱっくり裂けている。俺に医学の心得はさっぱりないが、この状況は相当ヤバいんじゃなかろうか。死ぬかもしれない、というかほっといたらマジで死ぬ! 死んだら…たぶん、いや確実にそれ以降の古泉は消滅する。ということは、俺は古泉に会わなかったことになり……あのインチキくさい安売り笑顔も、外人みたいな身振り手振りも、やたらと俺にすり寄ってくる気色悪さも、一緒にやった色んなことも、ゲームの連敗記録も、全部俺の中から消えるんだろう。……冗談じゃない!!~
 とにかく救急車…いや、そうかこれがあの俺の助けが必要な時か。だから俺に面通ししてあるんだ、こいつは。いやそれも既定事項だから…ワケがわからんがとにかく俺が長門を呼べばいいんだ、それだけがこいつを助ける手段で、そしてこいつはそれで助かるんだ。よし、俺はこいつを助けられる。~
 どんどん体温が下がってゆく古泉(小)を抱きしめ手を握り、声をかけ続けながら、俺は古泉(小)の血と、俺の汗でずるずる滑る携帯を握った。手が震えるし力は入らないし指は滑るしでうまくボタンが押せない。~
「畜生…なんでだよ、いつもやってることだろ…!」~
 半泣きになりながら、それでもどうにか長門に電話をかけることに成功するのにかかった時間はたぶんものの30秒ってとこだったんだろうが、俺には30分以上にも思えたものだった。~
「……はい」~
 さすが長門、ワンコールで即応答だ。~
「来てくれ長門……今すぐだ! 古泉が死んじまう!」~
 …と言ったつもりだったがはたしてこれがちゃんとそう聞こえたかどうかは自信がない。ロレツも回ってなかったと思うし、声も裏返ってたしな。それだけ俺はパニックを起していた。~
「了解した。今すぐそちらへ向かう。同時にあなたの家をわたしの情報制御下に置いた。家族にはバレない」~
 間に合うのか、間に合うんだろう、既定事項なんだから…、そうは思うが待っている間は体中がガタガタ震え、鳩尾から胸のあたりにかけてとてつもなく重たくてでかい脈動するカタマリが入っているような気持ち悪さを感じ続け、体中が冷えて力が抜けていくという感覚を体験した。もう一生味わいたくない感覚だ。~
「古泉死ぬな! いいか、もうすぐ助けが来る、大丈夫だから…! ……畜生、俺はのほほんと生きてるただの役立たずじゃねえぞ、お前ぐらい助けてやれるんだからな! 実際助けるのは俺じゃないが、俺がここにいなくちゃ誰もお前を救えない。どうだ、俺は役に立つだろ! わかったか! わかったら死ぬなよ! 目を覚ませ、3年後にはあの0円スマイルを俺に見せなきゃいけないんだぞお前は!」~
 半狂乱で俺はわめきまくり、血まみれなのに、というか血まみれだから血の気の引いた真っ青な顔に、ぼたぼた涙とかを落としまくった。~
 こんな小さなガキンチョがこんなにボロボロになって、それでも守らなきゃいけない世界って何だってんだ。~
 なあ、こいつはあんなに怖がってたじゃないか。なのにどうして戦わなきゃいけなかったんだ? 全部わかってたのか、わかってたからあんな顔したんだな古泉(中)! 何でだ、何でこんなことになるってわかってて、いくら助かるってわかってたとしても、こいつを戦わせなきゃならん? 既定事項? クソ食らえだろそんなもん! 中1でこんな目にあって、それでも古泉は今も……未来も戦ってるとか、どうかしてるだろ!? どうしてそんなことができるんだよ! ふざけんな!~
「……大丈夫、すべて再構成した。もう心配ない」~
 長門が古泉(小)の傷を治してそう言った時、俺は今度こそ言葉にならない声を上げてわんわん泣き出した。長門に泣き顔を見られるのは恥ずかしくもあったが、だがもうそれもどうでもいいってほど安心して、一気に気が緩んだとでもいえばいいだろうか。それと同時に急激に怖くなった。~
 なんせこの古泉(小)は、というかすべての時代の古泉は、閉鎖空間外ではただの生身の人間で、何の力もない。~
 しかもたぶん、閉鎖空間内では普通の人間よりダメージを食らいにくいとかいうことはあるかもしれないにせよ、ここまで深手を負えばまあ確実に、普通の人間同様死にかける。一歩間違えば死ぬ。~
 そしてこういう危険を背負って、古泉は戦い続けているんだと思うとたまらなくなった。少なくとも23までは絶対死んだりしないとわかっていてもだ。~
「……もう大丈夫、すべての傷は治癒している。心拍、血圧、体温、呼吸数、すべて正常。生命の危機は去った。安心して」~
 何度も同じ内容を長門は繰り返してくれていたと思う。俺の丸まって震える背中を撫でて、何度も何度も。そして俺は、それにずいぶん救われた。もし俺に長門みたいに人の命を救える力があったとしても、一人きりでこいつを治して見守らなくちゃならなかったとしたら、俺はそれに耐えきれなかったことだろう。~
「ん……、ごめんな、…情けねぇな俺」~
「……いい。わたしと違ってあなたは彼の身体状況を正確にモニターできない。だから不安になる。それは正常」~
 たぶんそういう問題じゃない。だが、おそらく長門に理解できるようには説明できない。古泉が死ぬかも知れない大怪我を負ったということよりも、古泉が死ぬかも知れない危険性を背負ったまま、今も戦ってるってことが怖いのは確かだが、それがどうしてなのか、どういうことなのかの説明は無理だ。しっかりした大地だと思っていた足元が、実はいつ割れてもおかしくない薄氷の上だったことに気付いてしまったような気持ち、とか言っても絶対通じないだろうからな。だから俺は礼を言うに留めておいた。~
「ありがとな、もう、俺もたぶん大丈夫だ…」~
「……そう。あなたが落ち着いたのであれば私は帰る。この古泉一樹の異時間同位体は、まだ私を知るべきではない。彼はもうすぐ意識を取り戻す」~
「お、そっか…そうだな。しかし悪かったな、変な時間に呼び出したりして」~
「……それもいい。これは緊急事態。そしてわたしも古泉一樹の異時間同位体の死亡と、それにより引き起こされる、それ以降の時間平面における古泉一樹の消滅は望まない。……ともだちだから」~
 友達だから。そうだな、大事な友達だもんな。いなくなったら、いなくなったこともわからないんだろうがそんなのは嫌だもんな。普段はこんな奴友達じゃねえとか思ってるけど、でもやっぱり、俺の中でこいつはもうどうしようもなく大事な友達になっちまってるんだろうな。~
 こいつがもしここで死んでたら、こいつ以外の超能力者とか『機関』の協力者が代わりに送り込まれて来たことになるのかもしれないが、そいつは古泉じゃない、そんなのはゴメンだ。~
 SOS団の副団長は、古泉一樹だ。そうじゃなきゃいけない。他の誰でもダメなんだ。~
~
「……あれ、絶対死んだと思ったのに…」~
 長門が俺の家から帰った直後、古泉(小)はぱちっと目を開けて不思議そうにそう呟いた。~
「死んでたら、未来のお前はいないだろ。だから死ななかったんだよ」~
 起きあがろうとするのを押しとどめて抱きしめて、元気に生きてる古泉(小)を堪能する。うん、元気だ、身体も暖かい。良かったと思ったらまた涙が出そうになって、古泉(小)の頭に顔を突っ込んで誤魔化した。つっても顔を見られた時点でバレバレだとは思うんだが。~
「ちょっと、なんだよもう…」~
「正直、お前が死ぬかと思って滅茶苦茶怖かったんだ…」~
「……俺も…すげー怖かった…怖かったよぉ…!」~
 言うなり古泉(小)は公園での虚勢はどこへやら、わんわんと泣き出した。~
 そのあんまり悲痛な声を聞いてたら俺までまた泣けてきて、結局しばらく俺達はお互いの身体にすがりついてわあわあ泣いていた。ありがとう長門。お前のデタラメマジックがなかったら今頃親が起きて来て、見知らぬ中学生と抱き合って泣きじゃくる息子、という意味不明かつ不気味な構図に驚愕しているところだったはずだ。それ以前に、血まみれの見知らぬ中学生を抱いて泣きわめく息子を見て卒倒していたかもしれんわけだが。~
「ちくしょう、ホント心配したんだぞ、俺は役立たずのチキン野郎だからな…滅茶苦茶心配したんだ、怖かったんだぞ」~
「……そんなこと言って悪かったよ、撤回する。…でさあ、なんであんたが怖がるんだよ…? あんた神人に殴られたりしてないじゃん」~
 ようやく涙もひっこんできたので、俺達はようやく立ち直りまともな会話をスタートさせた。~
 差し向かいであぐらをかいたその間に、ゴミ箱とティッシュをひと箱でんと据え、鼻をかみながら、というなんとも情けない構図ではあったがな。~
「決まってんだろ。お前は友達だからな。……いや正確に言うと、過去の時代の友達だから…なんか変だが意味はわかるよな?」~
「泣くほど大事な?」~
「……ああ、泣くほど大事な。つーかな、大事な友達が血まみれで死にかかってたら滅茶苦茶怖いぞ、お前にそんな経験はまだないかも知れんがな。俺も生まれて初めて経験した。絶対泣くな、あれは。今の古泉がああなってたってたぶん泣く」~
 そもそも現代日本の普通の高校生はたぶんほとんどが経験せんだろうがね。~
「そっか…」~
 古泉は黙り込み、また鼻をかんでから、ニッと笑った。それは俺の知ってる古泉の笑顔とは全然違う悪童の笑顔ではあったんだが、なんだか妙に懐かしくて嬉しかった。そういやあの日以来古泉(中)は学校に来てないわけで、とにかくどの古泉であろうがどんな笑顔であろうが、とにかく古泉の笑顔というものは久しぶりなので、懐かしいのも道理というものだ。それだけじゃなく、初めて見たこの古泉の笑顔が嬉しかったってのもあるんだろうな。ああも四六時中ニヤニヤニタニタされてちゃ気持ち悪いが、半泣きとか仏頂面とかよりはやっぱり笑顔はいいもんだ。~
「何だ?」~
「俺の将来、案外悪くなさそうだな」~
「……ああ、悪くないぞ。お前らの『機関』とやらはよく知らんが、でも、これだけは言えるぜ。お前を待ってる未来の高校生活は、とてつもなく奇妙で奇天烈で無茶苦茶で突拍子もないが、楽しくて面白い。美少女に囲まれるときめきスクールライフが待ってるぞ」~
「そっか。……なんかさ、俺、23の俺に会うって聞かされた時、絶望したんだよな…。今後12年も戦い続けなのかよって。どんな暗い青春だよって。でも、そうでもなさそうだな、泣くほど心配してくれるような友達ができるんだったらさ」~
 すまんなあ、古泉(小)。正直ここまで大事な友達だとは今まで自覚がなかったんだ。今後ちょっとは態度を改めるかも知れんが…いや、たぶん改めようにもやっぱり気色悪くて無理だろう、だからお前は俺に邪険にされます。くじけるなよ。その代わり見捨てることはしないから。もしピンチに陥ったりしたら、全力で助けるぜ、どうせ俺には大したことはできんだろうが。~
「まあ、お前が期待してるほどいい友達かどうかはちょっと疑問だけどな、でも悪くはないと思うぜ。みんなで遊んだり、笑ったり、バカやったりしてさ。毎日俺と部室でオセロとか将棋とかモノポリーとかやるんだ」~
「……涼宮ハルヒと一緒に?」~
 その名前も、もう知ってるわけだね。わかってしまうから仕方ないんだっけか。でも本人のキャラは知らないんだろうね、そんな吐き捨てるような言い方するところを見ると。なんか化けもんみたいな女を想像しちまってんだろうなあ…。~
「おう。涼宮ハルヒはな、とびっきり滅茶苦茶で、とびっきりの暴君だが……根は優しいいい奴だし、何よりとびっきりの美人だぞ。引っ張り回されて疲れはするが、それは嫌なもんじゃない。怒らせたりすると閉鎖空間が発生しちまうのが難点だけどな」~
 ちょっと褒めすぎだろうか。だがハルヒの暗黒面をあんまり言うと、今のこいつは拡大解釈して恐ろしい女だと思い込みそうだからな。~
「…じゃ、悪い人じゃないんだ」~
「ああ、それだけは確かだ。請け合うぜ。ハルヒは楽しくて面白くてワクワクするようないい女だ。だからさ、3年後、ハルヒに会うためにがんばろうぜ、俺も待ってる。未来は明るいぞ」~
 背中をぱんぱん叩いてやる。本当のところちょっと騙してるなっていう罪悪感がなくもないが、でも大筋でウソはついてない。確かに古泉(中)はハルヒが好きだし、SOS団が好きだし、SOS団の活動をちゃんと楽しんでいる。~
「そっか……じゃ、俺がんばるよ。それまでに世界崩壊したらあんたと会えなくなるかもしれないんだろ? ならがんばる…怖いけど」~
「でも無理はすんなよ、なんせ死にかけたんだしな」~
 あんな大怪我させられて、怖かったって大泣きするような思いをしたんだ。トラウマになっちまうんじゃないかと思う。PTなんとかってやつ、あれみたくならんことを祈る。~
「あの数とやりあったんじゃなかったらいくら俺でも死にかけないって。だからもう普段のヘボい数の神人なんか怖くねえし」~
 いったいどんな数の神人がいたのか想像するだけでも怖いね。普段の神人がヘボく見えるってどんだけだよ。~
「すんごいんだぜ、倒しても倒しても倒しても、全然減らないの。なんていうのかなあ…もうさ、一面真っ青。びっちり神人。見た時ちびりそうになってマジで帰るってわめいたもん。あれに比べたら一匹や二匹どってことないって。瞬殺だな」~
 やたら強気だ。これがどこまで本気なのか虚勢なのかは俺には区別できない。わりとこいつはわかりやすい奴だとは思うが、なんせ3年後にはあの笑顔仮面ですべてうやむやにするような奴に育つんだ。今からその片鱗があってもおかしくはない。~
「ホント無理すんなよ、この時代のお前は涼しい顔してえらい重たい荷物しょってたりするようなことがあるからさ、俺としちゃ心配なわけよ。無理だと思ったらちゃんと周りの人に言うんだぞ」~
「あんた心配性だな。大丈夫だって。それに『機関』には仲間もいるしさ、カウンセラーとかもいるんだぜ」~
 えー、つまりそれは君がお世話になったと解釈していいのかな? ……もうなんていうかつくづく不憫な奴だ。そりゃちょっとぐらい性格もおかしくなるよな。~
「……あのさ、ところでちょっと聞いていい?」~
「ああ、禁則事項にひっかからない範囲で答えるぜ」~
「俺、どうやって助かったの? あれ普通死ぬだろ、死ななくても病院送りで全治何ヶ月とかだろ?」~
「あー…、お前は未来人とか宇宙人とか知ってたし、これはたぶん禁則事項じゃない、と思う。たぶん大丈夫だろ。かいつまんで言うと、俺の友達は涼宮ハルヒと超能力者だけじゃないってことだ。死にかけのお前を救えるような力を持ってるような奴もいるんだよ」~
「すっげ…。なんかどうせ超能力ってんならそういうのが良かったな。せめてスプーンとか曲げたいよ」~
「少なくとも3年後、確実に曲げられるようになるから心配するな。……力ずくでだけどな」~
 曲げるところを見たことがあるわけじゃないが、まあ曲げられるだろう、俺より力は強いみたいだし。ウソは言ってない。~
「なんだよそれ超能力じゃないじゃん! まあ…強くなるのは嬉しいけどさあ。背も伸びるみたいだし、悪くないけどさ」~
 けらけら笑う古泉(小)は悪くない。うん、悪くないぞ。ああ、このまま育ってくれないもんかね? しつこいようだがなんでこれがああなるんだ。~
 …と思っていたら、その「ああ」がいきなり目の前に現れた。もちろん複数形で。~
 消滅の危機に瀕していた大事なお友達である、飛びついて「良かった!」とか言ってやりたいところではあるが、彼らは悲しいかなそういう気分を粉砕してくれる素敵な個性の持ち主なのである。それでこそ古泉一樹だが。~
「どうも、夜分遅くお邪魔します」~
「どうもお世話になりました。もう閉鎖空間は消滅しましたよ。僕も明日から復帰できます」~
 ああああ暑苦しい! だから二人揃って俺に顔を近づけるな手を握るな! 特に古泉(大)! 腰に手を回すなって!~
「ああ、これはすみません、ずいぶんご無沙汰だったのでつい懐かしくなってしまいました」~
「…すみませんね、高校生のあなたは初々しくてつい」~
 つい、じゃねえ! 古泉(大)! ほおずりすんな! そんなこと古泉(中)でもやらん!~
「というかだな、お前ら何なんだ! 無事助かることをわかってたとはいえ、過去の自分とはいえ、中1のガキがお前らのせいで死にかけたんだぞ!? ちょっとは心配してやれよ!」~
 気持ち悪いとかなんとかって以前の問題だ。腹が立つといったらない。既定事項だかなんだか知らんが、こんな小さな子供を戦いに連れ出して半殺しの目に遭わせて、それでよくけろっとしてられるもんだ。~
 俺はカッとなって、とりあえず掴みやすい古泉(中)の襟首をひっつかみ、思い切りぶん殴…ろうとして古泉(大)に腕を捕まれ止められた。~
「…放せよ!」~
 ふりほどこうと腕を振り回そうとしてみても、俺の腕は微動だにしなかった。俺はフルパワーで暴れてるってのに古泉(大)ときたら笑顔のまま顔色ひとつ変えやがらねえ。畜生、このバカ力め!~
「放しません。明日彼…というか高1の僕の顔に、痣ができているという予定はありませんからね」~
 諦めて俺が手を放すと、古泉(大)の手も離れた。そして古泉(中)が俺の肩に手を置いて、いつもの手振りもなしに、静かな微笑みを浮かべて話し始めた。~
「……落ち着いて聞いて下さい。僕らは中1が死にかけたことをどうでもいいと思っているわけではないんです。何度…まだ傍観者としての経験は3回目ですけど…経験しても、あの瞬間には血の気が引きます。僕より年上の僕たちも、本気で悲鳴を上げるんです。どれだけ怖いか、どれだけ痛いか思い出してしまいますし、小さな仲間が傷つくという意味でもつらいですから。……ですが今は彼がもう身体のどこにも痛みを感じていないことも、今この体験をどう感じているのかも、この後どうそれを消化していくのかも…すべて知っているから、だから僕らはもう心配はしていないし、心配のしようもないんです。むしろどちらかといえば嬉しい。そういうことなんです」~
 俺は恥ずかしくなった。そういやそうだ、俺なんかより、本人であるこいつらの方が古泉(小)の気持ちは理解できる。俺が怒る義理はないよな。~
「…すまん」~
 深く頭を下げると、古泉(大)がそれを押しとどめた。~
「いいんです、お手を上げてください。……実のところ、ここであなたが怒って高1を殴ろうとするのも…言ってみれば既定事項なんですよ。2度もそれを見ている僕はあなたが殴ろうとする言動をやめることはしませんし、タイミングがわかっているから簡単に止めることもできる。ここであなたが僕らを殴りたくなるほど怒ってくれたということも、中1の僕には嬉しいことなんですよ。僕は…すべての時代の僕らは、そういうあなたが大好きなんです」~
 ああなるほどね。全部仕込みか。それにマジギレしたり本気で頭下げたりした俺はいい面の皮だ。これを古泉(小)にはあと2回、(中)にもあと1回見られちまうわけか。~
 しかもさっき古泉(小)に話した、(中)には死んでも言えないような台詞の数々も、この年長組にはがっつり記憶されちまってるんだろう…やれやれ。~
 それにしても面と向かって野郎に大好きとか言われる日が来ようとはな。なんともこそばゆい気分で振り返ると、古泉(小)が気恥ずかしそうに目をそらしていた。そうか、お前も俺が大好きか。役立たずのチキン野郎から大出世だな俺。~
「では、そろそろおいとましますね。…この時代からも。もう僕にはこの時代のあなたに会うチャンスも、遠くから見るチャンスもありませんが…12年間の最初と最後にお会いできて良かったと思います。色々とご迷惑をおかけしまして、本当にすみませんでした」~
 ニヤケ面を引っ込めて、急に真面目な顔をした古泉(大)は俺をぎゅっと抱きしめた。その態度にいつもの気色悪さはなくて、さっき意識を取り戻した直後の古泉(小)を抱きしめた時みたいな安心感とか嬉しさがあった。普通に、男同士友情を確かめ合うようなハグだ。やりゃできるんじゃないか。~
 ああ古泉、お前いい男になるんだな。惚れそうだぜ。~
「……23の俺によろしく言ってくれ。元気でな」~
「ええ、ちゃんとお伝えします。どうか今後とも僕をよろしく」~
「ああ、任せてく…うわあああああ!!」~
 前言撤回だ! 何故お前は離れ際に頬にキスしなきゃならんのだ! 俺のしんみりした気分を返せ! 気色悪い!~
「……うわあ…俺、こうなっちゃうんだ…」~
 古泉(小)がうめいた。いやいやならなくていいからな、今から固く心に決めていれば、きっとこんな気持ち悪い大人にはならんはずだ…たぶん…やっぱなっちまうのかなあ……勘弁してくれよ。~
「お前なあ、自分の教育に悪いだろうが! 古泉(小)が変態に育ったらお前のせい…あれ? どっちだ?」~
 鶏が先か卵が先か、激しく悩む俺を置き去りに、キラキラと鬱陶しいまでに輝く笑顔を振りまいて古泉(大)は(中)と(小)を連れて俺の部屋から出て行った。~
 ……うわあ…古泉、ああなっちゃうんだ…。~
~
~
 翌日、結論から言って、古泉の「明日から復帰できます」はウソになった。古泉は学校に来ず、おかげで俺は、爺さんの死とどう折り合いをつけたものか知らないが何故かすっかり復活したハルヒによって「古泉くんはまだなのかしら? おじさんの病気ってどんな病気なのかしらねえ。キョン知らない? 知らないですって、使えないわね!」とかなんとかやたらめったら尋問&罵倒される羽目になった。やれやれ。~
 だがハルヒの梅雨明けの夏空的満開笑顔は久しぶりで、それはちょっと嬉しかったけどな。ああそうさ、やっぱり笑顔はいいもんだ。~
 でまあ、一応様子を見てみるかと家に帰ってからチャリで古泉の家に寄ってみると、完全に寝ぼけ面でパジャマのまま、寝癖のついた古泉がのっそり出て来たって寸法だ。~
 よくよく考えてみれば無理もない。俺だって今日は授業中寝まくった。夜中から明け方まで、泣いたり笑ったり大忙しだったから仕方がない。ましてや飛んだり化けたりやっつけたりを一週間続けてたんじゃ、丸一日寝こけるのもしょうがないってもんだ。ちょっと考えればわかる話だったのにな、起こしちまって悪い事をした。~
「…いいんですよ、さすがに12時間も寝たら目も覚めました。あなたが来るちょっと前に起きたんですよ、本当です」~
「そっか。……もう、閉鎖空間は発生してないのか?」~
「ええ、していません。というよりも、少なくとも向こう一週間は発生しないということを、僕たちは知らされています。……涼宮さんのご様子はいかがですか?」~
「ああ、バカがつくほど元気になってるよ。おかげで今日は朝から質問責めだ。…たまったもんじゃない。明日は寝過ごさずに来てくれよ。でないとお前の携帯がハルヒからの着信で埋め尽くされるぞ」~
「ご心配なく」~
 古泉はにこっと…ああ、ニヤニヤとかニタニタとかそういうんじゃなくて本当に素直ににこっと笑い、そして急に俺に抱きついた。~
「うわっ、何すんだ……」~
 それでも突き飛ばさなかったのは、ひとえにその笑顔が子供みたいに無邪気だったから、古泉(小)の顔がダブって見えたからだ。~
「明日は必ず行きますよ、…大好きな命の恩人の顔を見られないのは、寂しいですからね」~
「はいはい、そうかいそうかい。長門にも礼言っとけよ、あいつだって命の恩人だし…お前が死ぬのは、消えるのは嫌だって言ってたぞ……ともだちだから、って」~
 ひくんと肩が震えたきり返事がないので背中をとんとんしてやると、しばらくして古泉が顔を突っ込んでる肩口に、じわっと熱く濡れた感触があった。返事をしないんじゃなく、できないってわけだ。~
 なるほど、あれがそれでこうなって、だからこれがああなるわけか。ようやく繋がった。~
 それじゃあ仕方ないよな。……って俺、ひょっとして騙されてんのかもな。まあそれでも一向に構わないがね。~
「……俺もまあ、お前のことは大好きだぞ、友達だからな」~
 猛烈に恥ずかしいが、ここで言わなかったらたぶん一生言えない。だから俺はそう言って、ついに声出してしゃくり上げ始めた古泉をじっと抱きしめていた。

[[シスプリ古泉 古泉編(キョン+古泉)]]
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- 勝手にコメント欄つけてしまいましたが、ぜひ感想を書かせてください。本当に感動しました。古泉視点と合わせて最高にお気に入りです。 --  &new{2007-07-16 (月) 17:20:44};
- タイトルからしてギャグかと思ってたら・・・まんまと泣かされました。これはGJ過ぎる。 -- [[ ]] &new{2007-07-16 (月) 23:04:39};
- 改めて読んで、やっぱり名作だと思いました。古泉(小)かわいすぎる --  &new{2007-07-17 (火) 19:34:38};
- ギャグかと思ってたら名作でした…GJ!!!! --  &new{2007-07-17 (火) 20:21:13};
- ギャグだと思って読み始めたのに!なんか久々に号泣してしまった。ありがとうございました。 --  &new{2007-07-18 (水) 01:17:38};
- 物凄い良作をありがとう!!一気に読みました。 --  &new{2007-07-18 (水) 01:43:11};
- ある日突然、あなたに12人もの古泉ができたらどうしますか?それも……とびっきりかわいくて --  &new{2007-07-18 (水) 07:49:20};
- しかも、そのうえ……彼達はみんなみんな、とびっきり!キョン君のコトが大好きなんです……!!  --  &new{2007-07-18 (水) 07:49:59};
- 良かった・・・!心がほっとした名作! --  &new{2007-07-19 (木) 01:49:18};
- upされた当時から、もう何度読んだか分からない程繰り返し読んでいます。何度読んでも号泣してしまいます。キョン編も古泉編もDAISUKIです!! --  &new{2007-07-19 (木) 08:53:30};
- あと、コメント欄作ってくれた人もGJ! --  &new{2007-07-19 (木) 08:56:39};
- これほんと素晴らしいです。泣けました。大好きなお話です。 --  &new{2008-03-02 (日) 04:28:26};
- なんでこんなに素晴らしいんですか…。泣きすぎて目が見えません。お疲れ様でした。 --  &new{2008-07-16 (水) 21:13:03};
- なんという名作。涙だらだらです。皆いい子だよ。古泉が更に愛しくなりキョンの優しさに惚れた。 --  &new{2008-08-25 (月) 04:35:47};
- JsMXooOFyBpNp -- [[xyarldzi]] &new{2009-07-03 (金) 10:48:10};

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