●第10章~
&size(10){(古泉モノローグ)};~
~
 8階のボタンを押した後、密室は上階へと登り始めた。~
 箱の中で、雪の積もったコートを脱ぐ。すると妙に胸が高鳴り始めてきた。~
 会長とホテルで泊まるって……まるで想像もしていなかった。~
 それにこれと同じ状況が、そういえば昔無かっただろうか。~
 ……この人にまだ会ったばかりの頃。~
「うわ……」~
 デジャヴの様に、あの頃のことが脳裏に過ぎる。恐いとしか思っていなかったあの頃。~
 僕に危害を加える為に、会長は僕をホテルに連れてきたのだと、そう思っていた。~
「懐かしいな……」~
 肩で息を吐き、会長も呟いた。同じことを思っていたのだろう。~
「あの時のお前のチキンっぷりは無かった」~
「……会長も恐かったですよ」~
「だろうな」~
 エレベーターが止まる。会長の先導で歩いていく。奥の部屋でドアを開けてもらい、中に入る。~
 ……そういえば、ここで。~
 デジャヴの疑念に足を止めた時、会長の腕が僕の背中に回った。~
「!」~
「なんだよ?」~
 会長の手は僕の腰に当てられてた。悪戯っぽい眼差しがからかう様に僕を見つめている。~
「いえ……」~
「キスして欲しいって?」~
「そんなこと言っ……ん」~
 腰から背中に伸びた腕に抱きとめられて、唇を塞がれる。~
 まだ靴も脱いでないのに。~
 唇を甘く噛まれて、つつくように会長の舌が触れてくる。大きな暖かな手のひらが僕の顎を支えて、確かめるように何度も何度も会長は口付けてきた。~
 キスは嫌いじゃない。……むしろ弱いのかもしれない。~
 あっという間に身体が熱くなり、緊張が抜けていくのを感じてしまう。~
「んー……っ」~
 唾液が跳ねる音。意地悪に触れてくる舌を唇ではさみ、抜き取られ、再び合わせあう。~
 こんなにキスをするのも久しぶりに感じた。夢中になっていると、会長が耳元で囁く。~
「……部屋に……入るか……?」~
「え、ええ……」~
 そうだよね……玄関でこんなことしてる場合じゃ……たぶんない。~
 僕も何を夢中になっていたんだろう……。靴を脱いで部屋に上がりながら、顔が真っ赤になってしまった。~
 僕らの部屋は大きなダブルベッドのある、こじんまりとした部屋だった。~
 部屋の奥、窓の向こうで降り注ぐ白い雪だけが美しかった。~
 あの時の部屋に比べたら、けして広くはない。豪華でもない。~
 しかし感じるものは全然別だ。それが不思議だった。~
 あの広くて綺麗な部屋で、僕は自分に与えられた試練の恐ろしさに震えていた。~
 彼のことは、とても同じ人間と思えないくらい恐しく思っていた。~
 なのに時間とは不思議なもので、今はあの大きなベッドで、会長と一緒に眠れるのだと思うと嬉しくすら思ってしまう。彼の腕に包まれて眠ることが、いつから苦にならなくなったのか……思い出せない。~
「古泉」~
 感慨に耽っていると会長が声をかけてきた。~
 振り返ると、彼は浴室の前に立っていた。~
「こっち来てみろ。俺がこの部屋で一番気に入ってるのは、ここなんだ」~
「はい?」~
 近づくと、大きな入り口の向こうに広々としたクリーム色の浴槽が見えた。~
 ジャグジーでもついているのだろうか。まるで外国のお風呂だ。~
 豪華な設備を眺めていると、会長は浴室のドアを閉じてしまった。~
「一緒に入ろう、いいだろ?」~
「えっ」~
「……そこで驚くのか」~
「……」~
 苦虫を潰した顔の彼に、僕は愛想笑いを浮かべた。~
 一緒にお風呂に入るってことは……裸になるということで。~
 ……ああ、やっぱりそうなりますよね。~
「なんだよ、嫌そうな顔して。むかつくな」~
 会長は僕を背中から捕まえた。~
「脱がしてやる」~
「わっ、だ、大丈夫ですっ。自分で脱げますっ」~
「だーめ」~
 楽しげな声を響かせる会長。仕方なくされるがままになる。上着を脱ぎ、シャツを引き出され、ボタンを一つずつ外された。外すのはいいけれど、胸を撫で回されて困り果てる。くすぐったさに身体を折って抵抗すると、あっというまに仰向けに転がされた。~
「抵抗禁止」~
「……じゃあ触るのも禁止でお願いします」~
「却下だな」~
「……」~
 恨めしそうに見る僕の視線を受けつつ、会長の手は僕のズボンのベルトを外し取ると、早速ズボンにも手をかけた。~
「……えっ、えっと。抵抗禁止も却下でいいでしょうか」~
 ズボンを押さえながら言う。~
「だめだな」~
 あっという間に引き抜かれてしまった。下着姿にされた僕を勝ち誇った目で見下ろしながら、彼は悠々と自分で服を脱ぎ始める。何か仕返ししてやりたいけれど……確実に3倍返しの目に合うんだよなぁ……。~
 会長は下着も全部脱いで裸になると、床に転がった僕を放置して、浴室に向かった。中からは水音が響き出す。~
「古泉。脱いで、こっち来い」~
「……脱いでいいんですね……」~
 脱がして下さいとは言わないけど、これは余計に恥ずかしい……。~
 下着を自分で脱ぎ、僕は自分勝手な人の元に向かった。~
 なんだか今日の会長は、とても楽しそうに見える。~
 どうして僕を彼は気に入ってくれているのだろう。僕はこの人を待たせてばかりいるのに。~
 シャワーで軽く身体を流していた会長は、僕を近くに招き寄せると、背中を向けて座れと命じた。~
 言われたまんまにする。悪い予感はするけど、……悪い予感のしない選択肢がない。~
 ボディソープの泡だらけになっていた会長はまずは自分を洗い終わり、僕の肩にシャワーのお湯をかけ始めた。~
「……もしかして」~
「なんだ?」~
「洗って下さるという……」~
「正解」~
 その中でもかなり悪いほうの予感的中だっ。~
 逃げようと膝を持ち上げる僕の腕をつかむと、ボディソープの液で塗れた会長の手のひらがぎゅっと背中から胸元に回ってきた。~
「うあっ……っ」~
 にゅるっと滑るように回された右と左、十本の指が僕の扁平な胸を撫で回す。……かと思えば、胸の突起の辺りを摘みねじってくる。~
「やっ……あっ」~
 身体が跳ねて持ち上がるのを制するように、会長が抱きついてきて、首筋に唇を這わせた。~
「う……んっ」~
 隅々まで撫でられた後、右手が腹へ、下腹部へと下がってくる。~
 そして敏感な部分を指で包み、やわやわと触れられた。~
「ちょっ……やっ……やだっ」~
「何がやだだ、大きくなってる」~
 耳たぶを噛み、声が笑った。ぬるぬるの指が容赦なく上下して、先端の割れ目までをもなぞっていった。~
 僕は悲鳴を上げながら、出来る限りに身をよじる。腕で制止したいのに、左腕でがっちりとガードしているのでそうもいかない。しかもそのまま浴槽のマットの上にうつ伏せに組み伏せられた。~
「……あっ……うんっ……」~
 やがて指は、敏感な部分を過ぎて、後ろの部分へにも伸ばされた。~
 小指らしき指が一本潜り込んでくる。気持ち悪さに小さく呻くと、会長が頬に唇を寄せてきた。~
「いや? ここ」~
「……うー……」~
 答えられない。~
 会長はそこに入りたいのだ。知っている。~
 でも受け入れられるのだろうか、僕の身体は、そんな行為を。~
 僕の反応に会長はすぐに諦めてくれたようだ。指が抜かれ、変わりに暖かなシャワーがかけられた。~
 考え込む僕の身体を会長の腕が仰向けにさせる。~
「……えっ」~
 って、会長の前に裸の僕がそのまま晒されるわけで。~
 恥ずかしいことこの上ないというか、……その掌によって昂ぶったものを見せ付けるのは、いくらなんでも抵抗が……。~
 次の瞬間、僕はさらに自分の目を疑った。~
 ぬるめのシャワーでボディソープの泡を取り除くと、会長はおもむろに僕のを咥えてしまったのだ。~
「!!」~
 彼の口に食まれているという見た目のショックと、生暖かく吸い寄せてくる敏感すぎる部分への刺激で、僕は頭の中が真っ白になった。~
「ちょっと……かいちょ……やだっ……!」~
「……」~
 返事の代わりに吸い上げる音が響く。ぞぞぞぞぞぞっと鳥肌が全身に広がった。~
「いやっ……やっ……やああっ」~
 僕は足を振り上げ……ようとして、会長に阻止された。~
 くちゃくちゃと湿った音が響く。口から取り出され、隅から隅まで舐めまわされ、……自分が気絶するんじゃないかと思うくらいまで追い詰められたところで、会長はさらに強く口で僕のを吸い上げた。~
「やっ……あっ、あっ、あっ、あああっっ」~
 ……最悪だった。~
 会長の口の中に出してしまっていた。……吸い上げられたのかもしれない。~
 彼はしたり笑みを浮かべると、こともあろうにそのまま飲み込んでしまった。~
「……うう……」~
 恐いよう。~
 会長は僕を抱き寄せ、耳に直接唇を触れて囁いた。~
「気持ちよかった? 古泉」~
「……うー……卑怯です……」~
「なにが卑怯だ」~
 苦笑する彼の背中に僕は腕を回し、肩に顔を押し付けながら尋ねた。~
「どうしてあなたは……そんなに僕が好きなんですか?」~
 会長が哂う。~
「理由がいるか?」~
「もし……あるのなら教えてください」~
「聞いたら、応えてくれる?」~
「……」~
 答えられなかった。~
 会長が小さく笑う。彼をまた傷つけた気がして胸が痛む。~
 だから……違う言葉を代わりに紡いだ。~
「……いいですよ、会長」~
「ん?」~
「僕の中に、入っても」~
 うまくできるかどうかわからないけど。~
 彼に僕をあげることは出来ないから。せめて、彼の望むままにしてあげたい。~
「痛いぞ?」~
「……なるべく優しく……で」~
「ふふ」~
 会長は僕の身体を手放した。そしてお湯を貯めていた浴槽へと招いた。~
「一緒に入ろう」~
「……はい」~
 彼の膝に跨るようにして、湯の中に浸かると、会長の指がすぐに僕のその部分へ近づいてきた。~
 お湯の中なので妙な気分だ。心地悪さにうろたえ、やがて会長の肩にしがみつくことに決めた。~
 会長は指にボディソープを垂らして、僕の中をごしごしと擦るように動かした。ぬるぬる濡れた指が蠢くたびに、んっとか、うっとか声が漏れて、自分でも恥ずかしくてたまらなくなる。~
「やわらかくなってきた」~
 二本の指でかなりかき回された後、会長が囁いた。~
「……入れますか?」~
「もうちょっと……指増やすぞ」~
「え、ええ……」~
 居心地の悪さはかなりのもので、僕は会長に抱きついてうーうー、唸ってばかりいた。時々、眩暈のするくらいのぞくっとする場所がある。~
 三本目の指がさらに入ってきて、かきまわし始める。~
 痛くはないけれど、会長の長い指で触れられている感触に違和感ばかり感じて、情けない声を響かせるしかなかった。~
「んっっ……んぅっ……はぁ」~
「古泉」~
 指が引き抜かれて、浴槽の隅に背中をつけるように促された。足を開かされて間に彼は座ると、僕の腰を引き寄せた。~
 熱く硬くなったそこが当てがわれたのがわかった。~
「……っ」~
 バスタブの端に腕を伸ばし、落ちないように捕まって、僕は目蓋を閉じた。~
 彼が入ってくるんだ。~
「古泉……」~
 決死の覚悟を決めた僕の形相に、会長は呆れたらしい。暖かな指が僕の顎に触れる。~
 目蓋を開くと、会長はキスをしてくれた。ついばむように何度も優しく。~
「こっちおいで」~
 抱き寄せてくれる。冷たくて硬いバスタブよりも、会長の背中に腕を回すほうが断然よかった。~
「入るよ」~
 響きよい声が告げてくる。僕は彼の背中に回した手に力を込めた。~
 グッ。~
 熱いカタマリが狭いそこをこじあけてくる。~
「ああああああっ!!」~
 強烈な違和感に僕は悲鳴をあげて身をよじる。が、逃げられない。既に追い詰められていた。~
 ボディソープでたっぷり濡らされたそこは滑らかなのだろうか。お湯で流れてしまっているはずなのに、ググググググッと押し入ってくるソレの勢いを止められない。~
「うっーーーっ、あーあああーーーーっ」~
「痛いか?」~
「……い、いえっ」~
 痛くはない。でも。……涙が溢れてきた。あまりの感触の悪さに。~
 全身がゾクゾクと鳥肌だつ。暖かなお湯の中なのに、彼の熱い体温でくるまれているのに。貧血を起こしそうだ。~
「もうちょっとだ……お前の中熱くて気持ちいい……」~
 僕の頬に唇を這わせ、零した涙を舐めとりながら、切なげに彼が呟く。~
「……うっ……あんっ……あうあああ」~
「古泉っ」~
 さらに勢いよく、ズンッと押され、意識が遠のきそうになった。~
 会長は僕をしっかり両腕で支え、抱きしめ、優しく囁く。~
「入った……」~
「……あっ」~
 奥まで到達した、ということなのだろうか。唇を合わせてくる彼に僕は苦しさをこらえたまま応える。~
「……ありがとう……古泉。すごく気持ちいい」~
 会長のその囁きだけが救いだった。受け止めるには彼のものは大きすぎるのかもしれないと、いっぱいいっぱいな思いを抱えて僕も会長を見つめる。~
「良かったです……、気持ちいいなら……ええ」~
「なんだよ、その言い方」~
 胸に舌を這わせて、拗ねたように会長は呟く。~
「だ、だって……」~
「まあ最初だしな。ごめんな……苦しいだろ」~
「……大丈夫……ですよ」~
 僕は笑顔を作った。~
「やっと……あなたがしたかったことを……出来たんです。……これが達成感というものなのでしょうか」~
「ばーか」~
 必死で言ったのに馬鹿にされ、困る僕を会長は笑ってから再び引き寄せた。~
「あとでうんと気持ちよくしてやるから。……もう少し頑張れ」~
「ええ……」~
 ゆっくりと会長は動き始めた。~
 緩やかに引き抜かれ、勢いよく入り込む。彼が動くたびに喉が肺が悲鳴を上げた。~
「あぐっ、あっ、うあっ、うんっ、んーーーっ」~
「もうちょっと色っぽくならんかな、古泉」~
「そっ、んっな、ことっ、……いわっ、れて、も……」~
「はいはい」~
 ぐっぐっぐっ、と揺さぶられ、彼の固いものが僕の中を犯していく。~
 頬を流れる涙は止まらなくて、快感などというものは縁遠い気がした。~
 会長を信用しているから耐えられるけれど、これを初日にされたら僕はどうしていただろう。~
 気が遠くなりながら耐えていた僕の耳に、会長の吐息が聞こえてきた。~
「……ふっ、んっ……くそっ……いいっ」~
「……いい、ですか……っ?」~
「当たり前だ。最高だ」~
 彼の動きが早くなってきた。押し上げられて僕はますます悲鳴に近い声を漏らす。~
「古泉……好きだっ」~
 会長が叫んだ。~
 ああ、僕もあなたがもしかしたら好きなのかもしれないです。~
「好きだっ……愛してる……」~
 強い言葉が囁きに変わる。~
 刹那。僕の中で彼が大きく脈動した。ドクンッ。音まで聞こえそうなくらい大きく弾け、さらに何回もびくびくと跳ねた。~
 僕の中で彼が達したのだ。~
 同時に彼の怒張も解け、はちきれんばかりだった僕の中も少しだけ楽になった。~
 肩で息をつきながら、会長は僕を抱いて、撫で回した。~
「……ありがとう、古泉」~
「いえ……よかった」~
 無事に出来て。~
 やっぱりこれも達成感なのだ。僕は安堵に包まれながら彼を見上げていた。~
 微笑して、会長は僕の頬を撫でながら問うた。~
「痛くはなかったか?」~
「それは平気です。でも……思ってたより、きつかった」~
「そのうち良くなる。良くしてみせる」~
「……ええ」~
 ここで感じることが出来るのかなぁ、と僕は会長に頷きながらも半信半疑で。~
「それより……そろそろ、抜いてもらえませんか……?」~
「ん」~
「だから……」~
 もう達した筈の会長のはまだ、僕の中にある。身体を離そうとすると、再び引き寄せられた。~
「何言ってるんだ。このままもう一度いけるぞ?」~
「はっ?」~
「ほら……わかるだろ?」~
 胸に顔を当てたまま、僕は感じざるを得ない。再び彼のものが怒張し始めてることを。~
「うあ……」~
「今度は気持ちよくするから」~
 少し意地悪な口調で笑うと、会長は僕のに手を伸ばし強く握ってきた。~
「ちょっ……やっ、何するんですか」~
「任せろ」~
 言うなり再び動き始める彼。今度は僕を握りこんで、刺激を与えながらどんどん動き出す。~
 二度目のせいか、彼が吐き出したものが滑りをさらによくしているのだろうかその部分の苦痛に近い違和感よりも、彼に握られ刺激を与えられているそっちにも気が回ってしまう。~
「やっ……あっん、あぁ~……うぁっん」~
「気持ちいいか?」~
 問われても答える余裕なんかない。~
「あっ……あっ……あんっ、あっ、やぁっ……も、もー……」~
 彼の身体を押しのける力もない僕。意地悪な指と、意地悪な唇と、そして残酷なほどに熱い彼の部分とでさんざん責められ、頭の中が白くフェイドアウトしていく。~
 追い詰められ、追い上げられるように彼の指に僕は吐き出し、同時に気を失っていた。~
~
~
 目覚めた時にはベッドの上で。~
 僕を心配げに見守る、その人の腕の中だった。~
「……起きたな?」~
 見上げた僕の瞼にキスをして、会長は微笑した。~
「ちょっと調子に乗りすぎた。すまん」~
「……いえ、大丈夫です」~
 僕らは裸のままダブルベッドに横たわっていた。~
「水でも飲むか?」~
「……そうですね、いただけますか?」~
「うん」~
 会長がベッドから出て行く。僕も身体を起こして、そこから見える窓の向こうに視線を向けた。~
 涼宮さんの奇跡が、まだ降り積もっていた。もしかすると明日は一面真っ白になっているかもしれない。~
 戻ってきた会長から水を受け取り、喉を潤し、それから僕らは口付けあった。~
「……なぁ古泉」~
 キスの後、会長は僕を優しく見つめて囁くように言った。~
「どうしようかね、俺はお前が好きでしょうがないよ」~
「……」~
 その声と切ない響きに、僕はなんと返したらいいんだろう。~
 うまく言えなくて、代わりに涙が頬を零れた。~
 会長の指が僕のその涙をすくい、その腕で包んでくれた。~
「いいよ、お前は別に俺を好きにならなくていいんだ。ただ、知っておいてくれたらそれだけで……」~
「僕も……」~
 涙が止まらない。泣きじゃくりながら僕も彼の背に手を回す。~
「……僕はあなたが言うとおり、不器用なんです、会長……」~
「ん、わかってる」~
「だから……、あなたにどう応えたらいいかわからなくて……」~
 機関員の僕がいて、SOS団の僕がいて、その後ろに少しだけいるただの古泉一樹をあなたが愛してくれていることを僕は分かっている。~
 そして僕もあなたの腕の中にいる時に、どんな瞬間よりも一番ほっとする。~
 抱きしめられるのも、裸の身体に触れられるのも、あなたになら全部許せる。あなたにだけなら許してあげられる。~
 でもそれを、僕もあなたが好きです、に置き換えていいものなのか、僕には分からなかった。~
 素直にそう言えたなら、彼は喜ぶんだろう。~
 けれど……。~
「大丈夫だ、分かってるから……古泉」~
 泣き伏す僕を抱きしめ、背を撫でてくれる暖かな人。~
 ちゃんと告げなくても全てを受け止めてくれる彼を、僕は尊敬して、悲しく思った。~
~
~
◆◆◆~
~
~
 翌朝。予想とおり、真っ白な雪が降り積もる美しい街が僕らの前に広がっていた。~
 なんとなく……明日、始末書を書かされないといいなぁと少々不安になりもするが、今日はお休みなのだ。機関のことなど忘れて過ごさねば。うん。~
 ホテルのチェックアウトを済ませて、タクシーで自宅に戻った僕達はしばらく部屋でゲームをしてのんびり過ごし、それから一緒に買い物に出かけた。~
 夕飯はカレーライスだ。これなら僕も一緒に手伝える。~
 記念日だから肉は一番豪華なやつがいいと会長はサーロインステーキ用の肉なんて選んだので、何の記念日ですか、と笑いながら僕も最高級じゃがいもを手に入れた。1個150円。超豪華だ。~
 帰宅して一緒に夕飯を作った。~
 お肉もじゃがいもも残さず全部使った超豪華カレーが出来上がり、僕達はお互いの材料をほめあいながら頂く。~
 その後もくだらないお喋りに花を咲かせて、会長の話術に笑わされながら、いつもより少し早めにお風呂に入り、狭いベッドに入った。~
 抱きしめられて、キスされて、からかわれながら服を脱がされて。~
 また会長のものを身体で受け止めた。潤滑ゼリーで慣らされたそこが昨日よりも何故か心地よく感じたといったら、「絶対お前は慣れたら淫乱になる体質だ」と予言され、言わなきゃ良かったと口惜しく思ってみたりする。~
「お前を手放すまでに、俺なしじゃいられない体質にしておかんといけないからな」~
「……それは困りますね。でも」~
 あなたとのセックス以上に、あなたといるこの空間が愛しくて、あなたと過ごすこの時間が嬉しくて、一人になったら寂しいんだろうなぁと想像した。~
 いつか僕が、機関員でなくなる日が来たら、その時もあなたが僕を待っていてくれたら。~
 そうしたら……。~
~
 目覚めたらまたいつもの日々が戻ってくる。~
 クリスマスを終えた街は、祭りの後の余韻も残さず、年の瀬の忙しさに流れて行く。~
 あの綺麗な雪たちもいつの間にか全部解けて流れていた。~
 だから、名残おしげに僕らはキスを繰り返す。~
 東の空が白むまで。いつまでも。~
~
~
 『おわり』~
~
&size(10){( 完結です。かなり長くなってしまって本当に申し訳ありませんでした。ここまで読んで下さった皆さん、心から謝辞申し上げます。コメントを下さった皆様のおかげで最後まで書き上げられました。本当にありがとうございました。)};~
~
- 涙が(´;ω;`)会長と古泉、何より作者様本当にありがとう! --  &new{2007-12-25 (火) 20:30:21};
- 作者様お疲れさまでした!感動しつつ読ませていただきました。 --  &new{2007-12-25 (火) 20:34:11};
- お疲れ様でした…!毎週楽しみで仕方なかった!凄く良かったです。このまま古泉と会長が一緒にいられたらいいなーと思いつつ。ほんと乙でした! --  &new{2007-12-25 (火) 21:13:09};
- 完結が嬉しいけど寂しい・・・すっかりこの二人に夢中です。素敵な作品をありがとうございました。またお会いできる日を心よりお待ちしております! --  &new{2007-12-25 (火) 21:21:47};
- お疲れ様でした!二人の関係性が徐々に変化していく過程をいつも萌え萌えしながら見守らせていただきました。面白かったです! --  &new{2007-12-26 (水) 02:24:29};
- 長編本当にお疲れ様でした!古泉と会長の関係が切ないやら萌えるやら…この話のおかげで会古に夢中です…!もっとこの二人を見たいので、続編または新作楽しみにしています。 --  &new{2007-12-26 (水) 17:17:59};
- お疲れ様でした!弱い古泉がすごく好きなので、このお話は萌え要素が詰まりまくってて毎回悶えさせてもらいました!これからまた1から読み返してきます!!作者様の新作や続編の投下楽しみに待ってます。 --  &new{2007-12-27 (木) 02:00:02};
- お疲れ様でした!弱い古泉がすごく好きなので、このお話は萌え要素が詰まりまくってて毎回悶えさせてもらいました!これからまた1から読み返してきます!!作者様の新作や続編の投下楽しみに待ってます。 --  &new{2007-12-27 (木) 18:26:16};
- おつかれさまでした!このお話で古泉受けに開眼しました。すごくすてきでした。ありがとうございました。 --  &new{2008-01-08 (火) 16:03:49};
- ああ…会古っていいなぁ…。しみじみ思いました。素敵な小説と作者様に、心からの謝辞を。 --  &new{2009-01-11 (日) 02:36:28};
- miyMRTpNaFItUWDAK -- [[rbhwwpeur]] &new{2009-03-17 (火) 07:33:44};
- もうおととしの作品なのか…。この作者の会古がまた読みたい。 --  &new{2009-04-19 (日) 01:40:45};
- やべぇ萌えた。会長いいよ会長。 --  &new{2009-04-19 (日) 16:46:59};
- 本当におつかれさまでした!リアルタイムで見ていました。だんだんと近づいていく二人の距離にどきどきでしたっ 良い作品をありがとうございます! --  &new{2009-07-30 (木) 01:31:43};
- nahjAukk -- [[YRXEqjQQ]] &new{2009-11-17 (火) 03:40:04};
- gPNnoRCZLbBwLirQUPl -- [[Vqltexav]] &new{2009-11-17 (火) 23:22:51};
- yGDIHJczplAUHYzf -- [[Ukgrvvvh]] &new{2009-11-23 (月) 23:35:42};

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