国木田の憂鬱~


 どうしても手に入れたいものがある。
 それは、君。

「……はい?」

 いつもの微笑が顔から完全に消え去り、残るのは驚愕だけ。

「えーと、なにを言っているのでしょうか?」
「言ったままさ。僕は君が好き。僕のモノになって」
「……僕はあなたが彼のことを好きなのだとばかり思っていましたが」
「そういう時もあったかなあ」

 最初はキョンが好きだった。
 でも、キョンに惹かれる君がとてつもなく綺麗に見えて、いつのまにか愛しく感じていた。

「古泉くん」

 ああ、誰もいない放課後の教室はなんだか幻想的な雰囲気だ。
 少しだけハメを外しても許される気がするのは……自分勝手?

「僕じゃ、だめ?」

 古泉くんの目がさらに見開かれた。

「キョンよりも、きっと君を幸せにできる。だから僕を選んでよ」
「……ぼく、は」
「ねえ、一樹」

 君がキョンを好きで好きで仕方がないのは知ってるよ。
 でもキョンが見てるなは君じゃない。涼宮ハルヒだ。
 君だって、分かっているんだろう?

「流されちゃいなよ、僕に」

 そう言って、強く引き寄せる。

「は、離してくださっ…」
「嫌だ」

 背が高いから抱き締めているというよりかは、僕がしがみついているみたいになってるけど。
 でも僕は包んであげられるはずだよ。君の悲しみも、憤りも。

「こんなとこ彼に見られたら……勘違いされてしまいます」
「したらいい」
「駄目です、お願いですから。離してください……!」

 僕ははっと身体を離す。
 古泉くんは泣いていた。全身を震わせて、自分の体を掻き抱いていた。

「どうして、どうしてそんなキョンのことを……!」
「僕にだって分かるわけないでしょう! 報われないって理解し切っているというのに、止められない」
「僕が忘れさせてあげる。止めてあげる」

 そう言うと古泉くんは目尻の涙を拭って、微苦笑を浮かべた。

「残念ながら……忘れたくもないのです」

 辛いと分かっていてもこの気持ちを否定したくはないのだと、古泉くんは自嘲気味に呟いた。

 僕はなにも言えなかった。正直侮っていたからだ。
 彼の想いがここまで大きかったなんて。

「ごめんなさい」

 分かったから、なかないで。

「本当に、ごめんなさい」

 泣かないでよ……。

 二人きりの教室。夕焼けに染まる。

 一人残された今、僕が出来ることは泣くことだけだった。

 


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