●第4章-2
(会長モノローグ)
古泉は、ことゲームの対戦相手にはふさわしくない相手だ。
時々付き合わせるが、要領の悪いことこのうえない。むしろボードゲームのほうなら得意だといって、コレクションを持ってきたが、それもまた詰めが悪い。一度もやつに勝ちを与えてやれたことなど無い。
ゲーム画面をつまらなく眺めながら、コントローラーをつかむ指をせわしなく動かし、俺は心の中で少しばかり古泉の不器用さに腹をたてていた。
別にそんなことどうだっていいことではある。普段なら可愛くさえ感じる欠点だ。
腹をたてている本当の理由は、全然別だ。
中学の頃から出入りしていたあの店は、今頃どうなっているのだろう。マスターは、あいつらは? 今すぐここを飛び出して駆けつけたい思いがある一方、ケンゼンナセイカツに浸りきっていた俺はその足を踏み出すのに躊躇していた。
それに、これを好機と機関の連中は俺を見張っているんではないだろうか、という疑念もある。
約束を違えたのだからと古泉との同居を解消させられては堪らない。
だが……。
あの店はあの時の俺にとって大切な場所だった。
社会の吹き溜まりみたいなクズ達の集まり。特殊な性癖を持つというだけで灰色に見えた世界に仲間を与えてくれた。似たような場所は他にもあるが、売春やドラッグの誘惑からガキを守ってくれようと親身になってくれる人はあの店のマスターが一番だったのだ。
「…………」
今更駆けつけたところですべてがもう手遅れだ。
きっとあの人は今頃警察に取り調べを受けている。店は立ち入り禁止になっているだろう。
もうあの賑やかな世界は戻ってこない。
思い出したくない。自分が不甲斐なく思えて苛立たしい。
腹立ちをコントローラーにぶつける。しかしそれもまた虚しい限りだった。
俺はゲームをやめて立ち上がると、テーブルで予習に励む同居人を見つめた。食器を片付け終えたあと、シャワーを浴びてきたらしい。濡れた髪をぬぐったタオルを首にかけている。
相変わらず綺麗な顔をしている。極上の滑らかな肌にしゃぶりつきたくなった。
「古泉」
呼びかけながら近づいて、シャープペンシルを持つ手首を握った。
「? どうかしましたか?」
「もう寝る。付き合え」
「えっ? ……ええ、わかりました」
立ち上がった古泉の手首を握ったまま、寝室にむかった俺は、やつの体を強引にベッドに先に仰向けに倒した。
「うわっ」
腹の上にまたがりひざをたて、かぶさりながら両腕で強く抱きしめた。
「会長?」
普段なら先に寝転んで、腕枕をしてやるところだから、古泉は戸惑いの眼差しで俺を見つめてくる。
しかし返事をする気はなかった。犯して、泣かせてやりたい。そんなことしか考えられない。
強引に唇を割って舌を潜り込ませる。
「わ……っ……う……んっ」
貪るように吸い上げて、激しく付け根まで舐めていく。対応しきれないと手のひらで押し返そうとする手首を握りながら、何度も何度も舌を絡めあった。
「はふ……っ……んーー……う」
甘く誘うような吐息が唇から漏れる。本人はきっと意識もしていないだろうが、心地よくそそるその音色に酔いながら、上着の裾に掌を潜らせ、撫で回しながら少しずつめくりあげていく。
「む……う……」
いつもと違うことをされていることに気がついたのか、こらえるようにぎゅっと瞑っていた瞼を薄く開いて、古泉が俺を見上げていた。
キスをやめて、鼻先や瞼に舌を這わせながら、胸の突起をつまみあげる。
「んっ……あ、あのっ……会長……」
「なんだ?」
「……えっと……」
上半身を抱えあげて、シャツの袖を抜こうとした時、古泉は急に抱きついてきた。それでしか俺の動きを止められないことをこの数ヶ月で学習したのだ。
「あの……これって……?」
戸惑う声を発する耳元に、唇を寄せて低く囁いた。
「したい。させろ」
「えっ」
驚きのせいか古泉は急に体を強張らせた。しかし強引に上着を脱がせて裸にすると、そこに唇を押し付ける。
「あっ……あの……会長……」
「もういいだろう……俺はさんざん待った」
「待ったって……でも」
そばで寝るだけでいいって……、古泉が小さな声で呟く。
しかしマトモに答えてやる気持ちは無かった。
怯えさせれば怯えさせるほど、古泉は怖がって身を硬くするだろう。キスだけでも十分に上気している体を抱くなら早いほうがいい。
抵抗するだろうと予想して、一度身をおこすと、古泉の体を回転させてうつぶせにして背中から押し倒した。
「ふえっ……あの……っ」
情けない懇願も聞いてはやらない。数ヶ月前のあの日に比べたら、古泉は十分に感じられる筈だ。
それでもひたすら抵抗しようとバタバタし始めたので、耳元にもう一度口を寄せて、冷たく言ってやった。
「……機関の連中は、俺がお前をヤク漬けにするほど夢中にさせていると思っているんだろう? そこまで期待されているのにしない手は無いと思わないか?」
「……期待って……」
「大丈夫だ」
笑って吐息を吹きかけてから、膝をたてさせて、ズボンを引きずり下ろす。
下着の上からなぞると、熱く硬くなり始めているのがわかった。なんだ十分じゃないか。
「ほ……本当に……その……」
「うるさい。今日こそ犯す。絶対だ」
呟きながら下着にも手をかける。ねっとりと甚振りたいが、時間をかけていられない。~
直接握り締めると、古泉は悲鳴をあげてベッドから逃げだそうと腕を振り回して暴れた。左腕でその上半身を絡めとり、右腕でやわやわと触れながら擦りあげる。
「ふわっ……あっ……や、……やだっ……あああっ」
「いい顔だ」
かぶりを振って必死に耐えようとする表情はなかなかの見ものだった。
そう、お前と出会った時、こういう表情をさせたかったのだ。
「会長……も……やめ……あうっ……」
「嫌だ。絶対に止めない」
全身で反抗しようとする体を、それ以上の力で押さえつける。敏感な部分を握りこまれて、他人の手で高められる恥辱に古泉は必死にかぶりを振りながら耐えていた。
嗜虐する心に胸が高揚していく。早く古泉の中に自分のモノを突っ込んで、奥まで犯して、イきまくりたい。
何ヶ月も大事にしていた最高のスイーツを漸く口に出来るようなものだ。
あの機関の連中にも見せてやりたい。お前らの仲間の古泉は、俺が今……こうして食ってやる。
金にものをいわし、俺をあの場所から引き離した。
二度と行くなといって、監視をつけて。
今の生活が気に入らないわけじゃない。だから店が窮地と知っても戻れなかった。
だけどその虚しさを、その悔しさをぶつけるものが他にない。そのために……
「……あっ……あぁ……だ……だめっ」
古泉の頬に涙がつたう。胸に顔をうずめて震える。そして俺の手の中で、古泉のが大きく跳ね、白い精液を撒き散らした。
「はぁ……はぁ……う……ぁ」
「ふ。……イったか」
指先にのったそれを舐めてみせると、古泉は真っ赤な顔をして、俺の指を口元から離した。
「やめてくださいっ……」
「今度は俺の番だ……いいだろう?」
「……」
困ったように視線を外す古泉。観念したらしい。それならば遠慮なく頂くことにしよう。
ベッドの枕元の引き出しから久しぶりに使うゴムやらジェルやらを取り出して、手早く準備をする。こちらもズボンを脱いで下着をおろすと、俺が取り出したものをなんだろうと見つめていた古泉は目のやり場に困ったらしく、あわてて前を向くのが可愛い。
「なるべく痛くないようにする……怖がるな」
「……やっぱり最初は痛いもの……なんでしょうか……?」
「さあ知らんな」
千差万別。向かないヤツはとことん向いてないだろう。レイプされて死んだヤツもいる。それから相手のテクにもよる。
俺だってガタイが小さかった頃は突っ込まれる方だったから、怖がる気分はわからんでもない。
しかし好んで抱いてもらったあの頃の俺と比べて、古泉はその趣向を期待できん。この数ヶ月、男に触れられることに慣れさせようとさんざんセクハラはしてきたが……目覚めさせたとまでは思ってないのさ、残念なことにね。
まずは十分に湿した指を一本ゆっくり含ませた。
「……うー……」
違和感を感じて、呻き声のような声が戻ってくる。欠片も色気なし。
「緊張するな……まだ一本だ」
「ええ…………んっ」
奥までゆっくりと進めていく。古泉は余程居心地が悪いのか、途方にくれたようにも聞こえる吐息を零しながら、枕に顔をうずめてしまった。
抵抗しない分だけマシだが、まるでこれじゃお医者さんごっこだ。俺は尻だけ突き出して蹲まる古泉の、背中や胸を撫で回してリラックスを促しながら、進めた指をゆっくり前後にゆすり始めた。
顔を埋めた枕を両腕で抱えて、古泉はびくっびくっと指の動きにあわせて喉をひきつらせる。
「んっ……ああっ……わっ……」
いいのか悪いのかよくわからん。
指を二本に増やしつつ、前にも手を伸ばして握り締めてみる。
「……!! わあああっ」
悲鳴が上がって、バタバタとまた腕を振ってベッドから逃げ出そうとし始めた。当然逃がさない。
がっちりと捕まえて、両手で刺激を与え続けたが、さっきよりもやはり反応はよくなかった。
くそ。またか。
小さく苛立ちがよぎる。よほど男同士の差し入れが怖いらしい。
責めの手を少し緩めると、背中を上下させて古泉は呼吸を繰り返していた。感じているのではない。緊張からきているのだろう。このままではまた……以前と同じになるだけか。
「古泉」
俺は両手を離すと、背中にかぶさるように抱きつき、頬を寄せて覗き込んだ。
「……俺がそんなに怖いか?」
「すみません……」
情けない声。情けない顔。もっと容赦なく押さえつけて、嫌だと叫んでもぶちこんで、絶叫させてやりたいと思った。
抵抗する腕を縛り上げ、懇願する口元には猿轡をはめて、意識が飛ぶギリギリまで犯し続けたい。
そうでなきゃ割りがあわんと思わんか?
俺は申し訳なさそうにする古泉を見つめながらそんなことを暫く考え続けた。
「……ったく」
結論。
もうどうでもいい。
俺は自分のに装着したゴムを取り外すとゴミ箱に捨て、古泉の横に寝転んだ。
そしてうつぶせにしょげている裸の古泉を横抱きにして抱きしめ、今世紀最大の溜息をこぼす。
「……会長……?」
「あーーーーもーーーーー。最低だ」
悔し紛れにやけくそなキスを古泉の顔面にお見舞いしてやった。瞼も鼻も口も耳も頬も眉間も関係なく、どんどんちゅっちゅする。頭がおかしくなりそうなくらいキスしてやる。
「わわわわわわわわわっ」
「これくらい我慢しろ……くそ。くそ、くそ、くそーっ」
「わーっっーーーちょ、ちょっと」
古泉の顔は塩気が効いていた。泣かせた涙のあとだったのだろう。もうなんだっていい。俺も泣きたい。
「……好きだ、古泉」
胸に抱きこんで耳元で囁いた。
「……」
古泉は答えない。ああそうだろうさ、お前にとっては1年間預けられているだけの相手なんだろう。
その割には要求にこたえないつまんないやつだが、もうどうでもいい。俺はお前が好きだ。好きなんだ。
お前を失いたくないから、店も見捨てられたんだ。機関のやつらだってムカつくが、そんなのどうだっていいんだ。
「好きだ……」
呟いて耳朶を甘噛みする。うー、と小さく声が聞こえて、古泉は顔をあげた。
そしておずおずと伺うような表情で呟く。
「僕も……あなたのことは嫌いではありません……。でも……その……あなたのを受け入れるのは……その……」
「なんだ」
どんな言い訳をするつもりだ? 最後まで聞いてみたくて、顔を覗き込む。
その時だった。
テーブルに残してあった古泉の携帯が電子音を響かせながら、のたうちまわりだした。
「あっ」
迷いなく俺を押しのけ、ベッドから起き上がると、電話機に飛びついていく古泉。
こんな遅い時間にかけてくるやつなど、1箇所しか思い当たらん。あいつらめ。呪ってやる。末代まで祟ってやる。
携帯をきると古泉は、俺を振り返った。
「すみません……呼び出しが」
「……はいはい」
苦笑して右手を持ち上げひらひらと動かす。少しだけ笑みを浮かべ、古泉は着替えのある部屋に入ってゆき、五分もしないうちにアパートを飛び出していった。
戻ってくるのは……二時間後か三時間後か……明け方近くなることもある。
待つ気にもなれないね。寝ちまおう。
ベッドの上に散らばったお互いの服やら下着やらを、やけくそにベッドの下に叩きつけ、俺はそのまま毛布をかぶって眠りについたのだった。
◆◆◆
よりよい同居生活のために、俺はやつがどんな悩みを他に抱えているか気にしないでいた。
やつは、俺がどんな人間なのか、自分のいいように解釈しようとしていた。
それは俺たちが仲良くなるために必要な行為だった。赤の他人が結びあうときってそんなもんだろう?
すべてをわかりあわなくちゃ誰とも一緒にいられないなんて、そんなわけないっつーの。
でもね。根本的な部分が違いすぎることもわかってた。
俺がいくら愛しく思っても、古泉が俺を愛することは無いだろう。
そもそも俺の我がままから始まった無理やりな関係。やつを見初めたのは俺だが、古泉は巻き込まれただけだ。
だから本音では嫌だと思っていても、俺の要求には従順に答えようと努力はしてくれる。
……それだけのことだ。期待なんてしてはいけない。
そんなことわかっていてもやっぱり奴が好きだった。愛しくて堪らなかった。
馬鹿だね、……本当に俺は馬鹿だ……。
◆◆◆
朝方目覚めると、古泉は俺の腕の中で丸くなっていた。
いつ戻ったかも気づかなかった。すやすやと気持ちよさそうに眠っている寝顔を見下ろして、俺は安堵の息をおろす。
無茶をしなくてよかったと、そのとき初めて実感した。
もしも嫌がる古泉を無理に犯していたら、この寝顔は見られなかっただろう。
綺麗で愛しい同居人。この人形みたいなやつの心が手に入るのなら、俺は何を失ってもいい。そう思うよ。
でも同時に、体を繋ぐ心地よさも欲しいわけだが。
なんだ、このじれったさ。
しかし少しだけ心地よい。妙な気分。
そういうわけで俺は、許可なく人の腕を枕にしてくーくー眠っているそいつが目覚めるまで、見守り続けたのだった。ああもう、むしろ苛められているのは俺だろ? なぁ??
→→つづき(契約愛人10)
(いつも長々とすみませんm(__)m あと2回くらいうpすると、ようやく一段落つくらしいです。クリスマスの話なので、クリスマスまでに完結を目指します。コメントを下さる方いつも本当にありがとうございます(涙))
- 待ってました!会古可愛いよ会古(*′Д`) --
- 待ってましたー!今回も楽しませて頂きました! --
- これはいい会古ですね 続きは見たいが完結してしまうのは寂しいなあ… --
- これはいい会古ですね 続きは見たいが完結してしまうのは寂しいなあ… --
- いつも楽しみにさせて頂いています!すっかりこのふたりが好きになってしまいました…! --
- 超待ってた…!これのお陰で会古好きになりました。続き正座して待ってます --
- ちゅっちゅ!ちゅっちゅ!何この可愛い二人!大好きです。 --
- うおぉぉー!ヾ(´ω`=´ω`)ノ続き楽しみにしてます! --
- うわーーーーー会長カワユスカワユス!! --
- 待ってました!ちゅっちゅ会長可愛すぎる!続き待ってます --
- た ま ら ん(*´Д`)ラブコメいいよラブコメ --