契約愛人4(会×古)  第2章-2~

(モノローグ→ 会長になっています)

 待たせることもなく、ヤツは浴室の扉を開けて中に入ってきた。
 扉の後ろに隠れていた俺は、後ろからその体を羽交い絞めにする。
 驚きで古泉は一瞬だけ大きく目を見開いて、わっと叫んだが、すぐに体の力を緩めた。
「……驚かさないでください」
「ふん。つまらんな」
 苦笑して呟き、左腕で背後から抱きながら、右腕でズボンのベルトを抜き取り、ズボンやら下着やらを一気に脱ぎとる。緊張で強張る体が、小さく興奮させた。
 靴下まで脱がせ全裸にしてから、浴室に引っ張り込み、スポンジのマットの上で仰向けに寝転がらせて、何度もキスを繰り返す。
「……んっ……ううん……うっ……」
 古泉はセックスには慣れていないようだ。
 たどたどしくそれでも応じようとしているところがけなげで可愛いというものだが……正直、いまいちだ。
 まだ緊張に囚われているのか反応もあまりよくない。ボディソープをたっぷり手に取り、アソコをゆっくり指で包んで上下させると、さすがに「ぅぅっっ」と声をもらして、喉を逸らせた。
「……イくところ、見せてもらおーかね」
 喉を舐めながら、囁くと、古泉はかぶりを振るって、嫌がってみせる。小さく漏らす響きのよい声はなかなかそそる。より意地悪にねっとりと俺はそこを弄び、俺は悶える古泉を眺めることにした。
 だが、面白さも数分と持たなかった。
 よく思い返してみれば、今まで俺が知っている連中は、皆、自覚のあるヤツばかりだった。
 経験がなくても興味はあった。自分からいじめてください、とねだるヤツも多くて、俺はよく相手をしてやった。
 そいつらに比べると、こいつは本当に幼稚というか未熟というか……反応がよくない。
 感度は悪くない。乳首を強く噛むと、びくりと震えて、喉を鳴らす。
 しかし快感が強くなると、怖気がくるのか、急に萎えてしまうのだ。
 掌の中で僅かだが収縮していくそれを強くつまんで悲鳴をあげさせ、俺は反対の手で古泉の頬を軽く叩く。
「……それじゃいつまでたってもイかないぞ」
「す、すみません……」
 上ずった声で彼が答えた。
「謝らなくても……別にいいが」
 つまらんだけだ。
 何度か繰り返しているうちに、こちらの方が飽きてきてしまった。
 ノンケってこんなに面白くないものか?
 感じまくって、あんあん泣いて、媚びるところが見たかったのに。これじゃただのイジメじゃないか。

 はじめて古泉が俺の前に現れた時から、どこかうさんくさい笑顔を浮かべる、無駄に美形なこいつのことが気になってはいた。何を考えているのか、どんなバックを背負ってやってきているのかは知らなかったが、多少後ろ暗いことでも行えてしまう度量を持っているようで、受かるわけがないと思っていた会長選挙で、俺を当選させた裏役者のひとりが間違いなくやつだ。
 あんまり深いとも長いともいえない付き合いの中で、俺は気づけば古泉を見ていることにある時気づいた。
 ベッドに無理やり倒して、嫌だとわめくのを無理やり犯して、イくところを見てみたい。
 あの仮面のような笑顔をはいで、悶えさせ、ひきつらせて、叫ばせたい。
 それは割と面白い妄想だった。
 本気じゃない。
 俺は自分と同じ性向のやつらと、つるんでいる方が楽だということを知っている。
 古泉なんぞ、後ろに何が控えているのかわからないやつを、手に入れることなんて無理に決まっているし、するつもりも無かった。ただ想像していただけだ。
 しかし。
 俺の私生活にまで奴らが踏み込んできたとき、本気でカッとした。
 しかもあの多丸とかいうヤツは、街頭で俺を留めて、路地裏に引っ張り込んで説教をしてきた。
 あいつらの言うことはなんでも聞いてやってきたというのに、プライベートにまでどうして口出しをされねばならんのか。
 頭にきて、頭にきて。
「会長などもう下ろしてくれ!」
 と叫んでからというもの、説得交渉などが続いて、いい加減うんざりしていた時だ。
 古泉のことを思い出した。機関とやらは、俺が生徒会長でいるならば、なるべく融通を利かせてくれるといってた。
 あの美少年を犯していいか、と思いつきで問うた時も、彼らは肯定はしなかったが、否定の言葉を吐くこともなかった。
 
 指に滴るボディソープの泡を眺めて、俺はそれを古泉の秘所へと近づける。
 これを使えば挿入だって難しくは無いと思うが……、古泉はすっかりおとなしくなってしまっていた。
 片腕で抱きしめて支えて、両足を広げさせて、指を潜り込ませる。
「……う……うんっ……」
 眉をしかめて俺の肩に顔を押し付けてくる様子は可愛いが、肝心の男の部分がまるで反応していない。
「おいおい……俺にレイプさせる気か、古泉」
 指を入れても感じないなら挿しても同じ。
 ケツの穴に指を突っ込んで前立腺を刺激して、無理やりにたたせることは可能だし、それも嫌いじゃないが、あまり無茶はしたくないのだ。昼間に驚かせすぎて過呼吸を起こさせてしまったことは忘れていない。
「……すみません……」
 古泉は申し訳なさそうに上目遣いで俺を見上げた。
「だめだな、全然駄目だ」
 俺は溜息をついた。相手が全く感じてないのに、一方的に犯しても面白くもなんともない。
 昼間の生徒会室のノリなら、それでも悪くなかったかもしれないが、こいつは今、俺と一夜を共にすることを了承してこの場所にいるのだ。ダッチワイフじゃあるまいし、なんで同意している生身の人間相手にオナニーをしなくちゃならんのだ、と激しく苛立ってくる。
 少し乱暴に体を離し、立ち上がった俺はシャワーを軽く浴びてから、バスローブをはおって部屋におりた。
 スポンジのマットの上で放り捨てられた古泉は、そんな俺の様子を傷ついたように見つめていた。そして俺が出てから四、五分して続けて出てくる。ホテルに常備されている浴衣を纏っていた。
 俺は夜景の見える窓の近くのソファに腰掛けて、冷蔵庫から取り出した缶ビールをあおっていた。
 情けない表情を見せながら近づいてくる古泉が、ガラスに映っている。
「ここに座れ、古泉」
「はい」
 放置プレイでもよかったのだが、あまりにしょんぼりとしていたので、俺は奴をそばに呼び寄せた。
 古泉は素直に俺の隣に腰掛けて、軽く俯く。
「すみませんでした……」
「全くだ。何のためにここまでさせたんだか」
 俺は大きく息を吐いた。古泉は唇を軽くかんで、自分の不甲斐なさを責めているように俺には思えた。
 多分気概だけは抱いてきたんだろう。タクシーの中で、悲壮な覚悟を必死で固めている様子は伝わってきたし。
 その割に俺を楽しませることができなかったことを、複雑な思いで受け止めているんだろう。
 そのしょんぼりしている風情が、なんとなく情をそそる。俺は古泉の肩を抱き寄せると、俺のひざを枕に横にさせた。
「まあいい。……昼間みたいな発作を起こさなかっただけでも、許してやる。少し休め」
「会長?」
「お前も酒が飲めるか?」
「少しなら……でも、やめておきます」
「なんでだ?」
「すぐ寝てしまうかもしれません……以前そうでした」
「飲んで少しは大胆になる可能性を探るのも……ありだったかな」
 俺は苦笑した。そういう手もあったか。
 しかし今更だった。古泉は精神的にも疲れきってしまっている。そして俺もだ。興ざめしきって、こいつを今更犯す気分にはなれなかった。
 ノンケっていうのはめんどくさいものだね。
 代わりに膝の上で命じたままに横になっている古泉の髪を撫で、肩から脇腹までのラインを撫でる。
「……会長?」
「緊張しすぎだ。肩も強張っているし、……そんなに俺が怖いか」
「……」
 古泉は黙った。
 怖いのだろう。こいつは早熟でもなさそうだし。
 俺の経験からすると、素直に自分を表現できるやつ程、セックスの快感にも目覚めやすい。
 そして自分をひた殺しにしているやつほど、一度目覚めると、その快感に溺れやすいものだ。古泉は後者なのだろう。目覚めさせるまでは時間がかかるものだ。
 古泉の髪をくしゃくしゃに撫で回しながら、俺は苦笑した。
「……今夜はもうしないから安心しろ」
「えっ」
 古泉は驚いたような顔で俺を見上げる。
「……そんな……いいんですか?」
「ああ。俺をそこまでケダモノにするな。一応、理性はある」
「……」
 暫し固まり、何度か瞬きをしてから、古泉は突然ぷっと吹き出した。
「何がおかしい」
「……いえ……すみません」
「お前をもう抱かないと言ったわけじゃないぞ。……少し時間をかけると言ってるんだ」
「時間……ですか?」
「可能な限りでいい。なるべく毎日、生徒会室に顔を出せ。俺が生徒会長でいる間は、絶対だ」
「……はぁ……」
 わかっているのか、わかっていないのか、吐息のような返事がかえってきた。
 それからはしばらく無言で、俺は夜景を見ながらビールをひとりでぐびぐびと飲み続けた。古泉は俺が体を撫でるのに何の反応もせずにおとなしくしている。つまらんやつだと内心悪態をつきながら、ビールを飲み終えて、次にブランデーでも飲もうかと思いついた時、俺の膝に寝そべる古泉がいつの間にか眠ってしまっていたことに気がついた。

「ったく……なんなんだ」

 時計を見る。
 まだ十時にもならん。早寝早起きか?
 ……それとも、そんなにショックなことだったとでもいうのだろうか。初夜の記憶なんて、俺にはもう思い出せないけどな。

→→つづき(契約愛人5)


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Last-modified: 2008-03-19 (水) 17:10:26