≪古泉→ハルヒ→キョン→古泉≫※未完


「あれ、朝比奈さんは?」
部室を見回す彼の表情はあからさまに気まずそうだった。
「・・・遅刻よ。学年集会があるらしいわ」
そして、質問に答える涼宮さんにもそれがわずかに見え隠れしていた。
「私、帰る」
涼宮さんは頬をかすかに染めて彼に目配せしてから帰っていった。
長門さんは本当にいつもどおり、黙々と本を読みふけっている。
僕はといえばいつもどおり笑って、ひとりオセロをしていた・・・つもりだ。
「古泉、一人オセロはつまらないだろ、俺とやるか?」
「お願いします」
彼の顔を目の前にして、僕は不覚にも視線を彼の唇へと落としてしまった。
焦りを悟られないように顔を伏せ、笑顔をもう一度作り直してから彼を見上げる。
「古泉?」
彼は僕の顔を疑いの目で覗き込んだ。
「何ですか?」
「昨日の、見てたのか?」
その言葉で、僕の指先は小刻みに震えだした。
落ち着こうとすればするほど、泥沼にはまっていくようだった。
今にも彼の胸倉に掴みかかっていきそうな拳を机の下で握り締めるのがやっとだ。
「何・・・をですか」
落ち着き払ったが盤上に焦点が合わせられず、見当はずれのマスにオセロを置いてしまった。
それでも僕はなんともない、という笑顔をひっさげて腕を組んだ。
彼は僕にだけ聞こえるくらいの小声で切り出した。

「昨日、俺とハルヒが、ここで・・・あの、キス」
「キョン!・・・・・・くん」
彼のニックネームを呼び捨てにしていることに気づいて、慌てて付け足した。
僕は我を忘れ、彼の顔を悪意を持って睨み付けた。それが精一杯だった。
彼の言葉があのまま続けられていたら、僕はどうにか なっていたかも知れない。
それでなくとも、昨日の部室での光景がまぶたの裏に焼きついて離れないのに。
「どうして怒ってるんだ?俺とあいつが仲良しなほうがいいんだろ、お前は」
盤上のオセロを次々と裏返しながら尋ねる。
ここまでしてしまったからには、言うしかないのだろう。
「僕は、・・・・・・涼宮さんが好きだからです。」
「・・・は?」
考えていたより、彼の動揺は小さかった。
勘づかれていたのかもしれない。
「・・・ご安心ください、僕は特に何も期待しておりませんし、お二人の間に割って入ろうなどとは考えておりません。」
あそこまで焦った態度をとっておいて、よくこんなことが言えたものだ。
しかし、何も期待していないのは本当だ。
「勘違いしてないか?俺とハルヒは付き合ってないし、俺が好きなのはハルヒじゃない。
 ・・・昨日のは、なんと言うか、気の迷いというか」
「気の迷いでも、あのような事をされるのは少なからず好意を抱いている証拠なのでは?」
少しムキになっている僕を見て、彼は目を丸くした。
彼は少しだけ悲しそうな表情を浮かべて口を開いた。
「俺が好きなのは、お前だ」
そこで思考が停止した。
それを知ってか知らずか、彼は僕の肩に手を回し、体が壊れるかと思うくらいきつく抱き寄せられた。
彼の体は小刻みに震えていたそれと同時に異常なまでの速さで脈打っている心臓の音が流れ込んでくる。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:18:19