古泉×キョン【キョン視点】

 

「ねぇ、キョン君」
「あー…。」

片手にカップ、片手に雑誌を持ち、それを読みつつ机に座っている俺の目の前には、女の子でもなく、動物、でもない。
自称超能力者、古泉、何故こいつが俺の目の前に座っているのだ。

夕暮れ時の部室でこんな男と二人切りという王道といえば王道のシュチュエーションで、…まあどんな小説を書く時の王道シュチュエーションとはあえて言わないが…。
くそう…、一体この忌ま忌ましいシュチュエーションを作った奴は何処のどいつだこの野郎…。


…だが、こんな事を呑気に考えていられるのも後、数秒。
何故なら次の瞬間、俺はいい年して盛大に茶を吹く事になるからだ。

おっと、もうすぐだな、いいか…、3・2・1

「僕が未来の恋人…そうですね、言わば白馬に乗った王子様だったらどうしますか?」

ハイ、どん!

「!!!!」

吹いた。

ついでに鳥肌も立っている、これは…無い。
自分でも不思議なくらいあまりのショックに俺は吹いたのだ、ショックは二つ、今時そんな事を聞く奴がいたことについてと、俺が聞く対象になってしまった事について、だ。
今時!つか男に言う台詞では無いという事は確か。
例え、物凄く可愛い女の子が白馬に乗って来たとしても萌えない。
ポニーテールでも…まあ少し萌えるかも知れないが、白馬は無い。ああ…無い。うん。宣言してやろう。
そんな感じで考えていながらも、恥ずかしい事をした事はわかっていた、俺は慌てて、吹いた物を袖口で拭おうとすると、ぱっと現れ俺の今まさに拭おうとしている手を掴んだのは古泉の手そして顔。

「あらあらキョン君、ダメですよ、袖口がお茶で汚れます。ついでに手も濡れてますよ、これ何処で拭うつもりだったんですか?」
「は…、いや…。その辺…?」

あらあら?なんだそりゃ。

てゆーか、早く口のお茶を拭いたいんだが。

それより、いつの間にお前は俺の目の前に来たんだ?
ぐるりと机半数の距離だぞ、ここ。いや、ただ考える時間が長すぎたのかも知れんが。
というか…なんで疑問系なんだ!俺は!!

「…じゃあ何で拭き取れば良いんだ。見えないだろうが、シャツまで濡れて冷たいだぞ、今」

「拭き取ってあげましょうか…?」
いきなり耳元で囁く古泉にぴくりと反応する。
これきしのことで…俺も多少欲求不満なのかもしれない。
そろそろ泣いても良いですか。
「頼むからこれ以上死亡フラグを立たせないでくれ。」

目をつぶってため息、そして遠回しだがきっぱりと否定する。

「そうですか、残念です。」

にこりと笑ういつも通りの古泉、叶うことなら今が続いている内に帰りたい、なんか良くないことが起こる気がして堪らない。

「あの…古泉、手、離してくれないか?」
しつこい様だが、冷たい。
「拭き取りたいですか?」「ああ、そりゃあな。」

俺がそう返事をすると口端を吊り上げ目を細めて笑う古泉、いつもいつもこいつは一体、何がこんなに可笑しいんだ。

「まずは、口からですよね?」
「何が。」


・・・・近い、なんだかいつになく近い気がする、俺の気のせいだろうか…。

古泉の指が俺の口を薄くなぞる。「…っ」
なんだこの無駄にアダルティーな雰囲気は。
と、思ったのもつかの間。
自分のブラウスの袖を引っ張り長くしてから俺の口にぽんぽんとあてて古泉は丁寧お茶を拭き取った。
ア然、こいつの行動が冗談ではなく本当に読めない、わからない。
本格的に友達でいたくなくなって来た、それは嫌だからではなく、大体行動が読めないと、この先付き合っていくのに不安になるからだ。

「ちょ…、お茶で汚れるって言ったのはお前だろ?」
「ええ、確かに僕です、が、でもキョン君のブラウスが汚れなければそれで良いんです。」
「はあ?」

イマイチ理解が出来ん、俺が吹いたお茶を俺が拭き取るのはダメで関係の無い、お前が拭き取る事が良いという事なのか?

「勿体ないですし、本当は全て舐めたい気分です。」



 ふ ざ け る な 。


何かに気付いて、怪しげに古泉が一瞬微笑んだ気がした。

「…勿体ない…。」
…勿体ない?なんのことだ。
「おい、にっこり笑いながら言う台詞じゃ無いだろ…。人の吹いたもん舐めて何が…っ!」

ぺろ、くちゅ

俺が古泉の顔を見た瞬間、そんな音が部室に響いた。
…?、なんだ。

「ん…ふぅ…」

ベロ…?
考える事とは裏腹に吐息が俺の口から漏れる。
掴んだ手はそのままで、もう片手は俺の顎、あろうことか俺は古泉にキスをされているらしい。
話の筋が通っていない、なんで、そんな前フリあったか?いやない。

舌を甘く噛まれて咥内くちゃくちゃにされて唾液は俺の頬を伝いだす始末。

それにしても、随分と長い…、目を開ける余裕すらない。
たまに開けれたとしても、飛び込んでくるのは、古泉の楽しんでいるとも取れる余裕そうな一瞬の顔。
ああ、忌ま忌ましい…。

「んん…こ…は、いず」
「…?」

息が出来なくて、限界だった。
今思えば鼻で息すればよかったのだが、そんなこと考えている余裕は、無かった。


ちゅっと小さい音がして俺の口から古泉の唇がやっと離れ、舌を嘗めずり。首を傾げれば、にこりと笑む。
「どうしました?」
「どうしたも、こ…したもないだろ、何してんだ、何を。」
「あれ、吹いたお茶が勿体ないなあと思っていたら、つい…。」
つい…だと?くそう…、この前の俺の勇気とハルヒとのキスはどうしてくれる。

「緑茶、ですか?」
終わった時の味を確かめるように古泉はいう。
「それしか無いだろ。」
質問をする奴にクールに答える俺はすごい。神だ。
…実際心臓はバクバク言ってたがな。
女の子ともあんなキスはしたことがない、初めてがこいつとは……くそ。
そんな俺を不思議そうに覗き込む。
「驚かないんですね。」
「まあな。」

それでもけして驚かずにいつものゆったりとした、古泉独特ののほほんとした口調で笑い、そして何事も無かったかのように、くるりと後ろを向き、チェス盤を持ってきて、机を挟んで俺の目の前に座った。


「賭けをしましょうか?」
「え、ああ、いきなり、なんだ、何賭ける?」

チェスかよ…、こいつが自分の得意な物をわざわざ選ぶって…、余程なんかあるんだな。
でもまあ、いつものこいつに少しホッとした俺はお茶をまた一杯、口に含む。その間に古泉は考えていたらしく、俺が口に含んだのと保々同時にそれを言ったのだ。

3・2・1…

「貴方の体。」
「ぶほっ!!!」

吹いた。
本日二回目、おめでとう、俺、ありがとう、皆。

キャラ壊しもさておき、一日で二回も同じパターンで吹くベタな野郎は俺くらいだろうか。
つ…、冷たいぞ、身も心も。
男にここまで露骨な求愛(?)をされたのは始めてだ、正直とても、リアクションに困る。

「何やってるんですか?もー」
「おま…、誰のせいだと…。」

嬉しそうに言うな、胸糞悪い。
肘を付きクスクスと無邪気に笑う古泉だった。
…が、そのうち、あれ…目がマジに…。

「…勿体な『もう良いから。』

これなら、いっそ何も言わずに舐めてくれたほうが有り難い。
もう、これ以上吹いてたまるか。


おしまい。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:18:14