古泉×キョン 古泉一樹の消滅

 

「この世界も、じきに消滅するでしょう」
 非難の声ではなかった。呆れた声でもない。
 感情を感じない、淡々とした声。
「あなたとも、これでおしまいです」
 どうやら俺はハルヒの力を悪い方向へ導いてしまったようなのだ。結果、世界の崩壊をもたらしてしまった。
「あはははははははッ!」
 どこからか聞こえるハルヒの笑い声。泣き声にも感じ取れるそれは、聞いていて悲しくなる。
「……今なら間に合うかもしれませんよ」
 古泉がいつもの微笑みを浮かべながら言う。
「……俺は」
 確かに今、ハルヒのもとへ行って何やってるんだやめろと抱き締めれば━━世界は救われるかもしれない。
 だけど。
「俺は……お前…、お前から離れたくないんだ……」
「……おやおや」
 古泉は困ったように笑った。
「もしこの崩壊がなかったことになって……またいつもの日常が戻ってきたとして…だけど今度の日常に、『お前』はいるのか……?」
 ハルヒに関係が知られてこうなったんだ。
 古泉は間違いなく
「存在ごとなかったことにされるでしょうね」
「古泉がいない世界なんて、生きてる意味がない……!」
 俺は笑えるだろうか。古泉のいない部室で。古泉のいない世界で。
 きっと、無理だ。
「それは、大変なわがままです。あなたのために世界は無くなってしまうのですよ?」
「構わん」
「今までの僕たちの努力も、ぜんぶ無駄になります」
「構わん……、俺は」
 今まで決して自分から求めなかった古泉の胸板。
 それを自分から引き寄せて、顔をうずめた。
 どうせ終わる世界なんだ。最後くらい素直になって良いだろう?

「俺はお前といたいんだ」

 瞬間、あちこちから破裂音が響き渡った。
「……消滅が始まります」
「……ああ」
 無頓着な俺の返事に古泉は少し息を飲んで、そして笑った。
「……もう、どうしようもないのですね」
 同時に強く抱き締められる。
「最初から決まっていたんだ。好きになったその日から……こうなるって」
「ええ、そうでしょうね」
 頬に唇を寄せられ、俺はまぶたを閉じる。
「でも━━」
 軽く口づけを落とされ、顔が上気するのが分かる。
 唐突に強く重なる視線。

 古泉の真摯な言葉。

「後悔は、していません」

「俺も、だ」

 世界の崩壊の中、俺と古泉は最後まで抱き合っていた。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:18:08