古泉×キョン キョンが嫌いな古泉


いつもの放課後いつもの部室でいつもとは違う二人っきり。
三人娘は特別会議とか何とかいって早々に帰り、じゃあ俺も帰ろうかと思ったら古泉にオセロに誘われた。
特に断る理由も無く盤面の黒と白をひっくり返し続けている。しかも教室の隅で。割りと至近距離で。
せっかくスペースがあるのだからもっと有効活用するべきだろう、とかこれが朝比奈さんだったらとか考えるだけ不毛だな。
盤面のコマはほぼ俺の黒一色となり角も3つも取った今勝ちは確定だ。
にも関わらず楽しそうに考えている古泉は何を考えているやら。
「ずいぶん楽しそうだな、お前」
そこのコマをひっくり返しても俺がすぐにまた返してしまうぞ。
「いえ、こうしてあなたとゲーム出来ることが嬉しくて」
癖なのかちょっと顔を近づける。これ以上近づくな気持ち悪い。
恐らく女性となら特上の笑みとでも称する笑顔も俺にとっては胡散臭いとしかいいようがない。
「お前はずいぶん変わっているな…俺は朝比奈さんの方が絶対嬉しいぞ?」
「人はそれぞれですからね」
最後のコマを置き俺の圧勝でゲームは終わった。日も沈みかけそろそろ頃合もいいだろう。
どちらかともなくオセロをしまい始める。
手は動かしながらちらっと目の前の古泉を見上げる。向こうは下を向いたままだ。
俺よりでかくて睫も長くて手も綺麗だな……って俺は何を恥ずかしい感想を述べている!?
「あ」
つい動揺してコマを一つ落としてしまった。手を出すより先に古泉が拾う。
「はい、これ」
「ありがとよ…」
何で手が触れるだけでドキドキするんだ俺は!!少女漫画でも最近はめったにお目にかかれないぞ!?
俺の動揺をよそに古泉はにっこり笑みを作る。俺にだけ向ける笑顔で。
お前はどうして本当に……
「俺がそんなに好きなのかよ…俺もそんなに嫌いじゃないけどよ…」
「え?」
「っ!!」
心の中だけで呟くだけのはずが不覚にも声に出てしまった。しかもこんな反応しちゃ冗談とかで流せないじゃないか。
「俺はもう帰る。じゃあな!!」
古泉の返事を聞く前に急いで教室を出た。もう少し冷静になればよかったと気づいたのは校門で冷たい空気を改めて吸ってからだ。

窓から見下ろすと彼の後姿が見える。帰るのはもう少し後からの方がいいだろうか。
中途半端に片付けられたオセロを触って先ほどの彼の言葉を思い出す。
涼宮ハルヒの鍵と思われる彼に過剰に笑顔を振舞っていたのは機関の命令だ。
彼は特別だから必ず監視しておけ、仲良くなって内に取り込むんだと。
笑顔でいるのはさして特別難しいことではない。超能力や未来人よりも特別なのに自覚もしない彼を思うとイラつきを通り越し自然と笑みが出てしまうのだから。心であざ笑いながら仲良くすることは思っているより簡単だ。
それにしてもさっきの言葉は。自信過剰すぎであまりにも可笑しい。
誰にも見せることのない笑みを浮かべているだろうと窓ガラスを改めて見て。驚愕した。
だけどそんなこと今更気づくわけにはいかない。あってはならないことだ。
だからうっすら赤くなっている頬は夕焼けのせいにした。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:17:59