≪古泉×キョン キスして欲しい キョンサイド≫


古泉の様子がここ一週間おかしい。
いや、元々エスパー少年ってことからして根本がおかしな奴なのだが、ここで言うおかしいとは奴の最近の行動を示す。
奴には必要以上に俺に顔を近づけたり、俺の体を触ったりするという習性があるのだが、一週間全くそのおぞましき習性が確認されないのだ。最初は気のせいかとも思ったが、3日も経てばわざと俺に近づかない様にしているのではないかという疑いが俺の中で持ち上がり、その次の日には俺の心の中で行われた俺会議により、満場一致で疑いが確信に変わった。
古泉が意図的に俺を避けている。
だとしたら、原因はなんなんだ。何か、自分で気づかない内に奴を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。思い当たるのは、顔が近づいてくる度に「キモい」だのなんなの言っていたことぐらいだ。古泉は全く気にした風もなく、スキンシップをくり返していたが、もしかしたら積もり積もって怒りに変わったのかもしれない。考えてみると、古泉には怒る権利はあると思う。不本意なことだが、一応俺と古泉は、同性ながら世間一般で言う恋人同士だからだ。普通恋人に「キモい」なんて繰り返し言われたら、へこむだろう。
常日頃存在していたものが、例えそれが古泉との接触だとしても、なくなるという事はなんだか居心地が悪い。無駄に悩んで、3日間行われたテストのための勉強も手に付かなかった。という事にしておきたい。そうだ、奴のせいで全くできなかったのだ。あぁ、いまいましい、古泉め!俺にテストの点数を分けろってんだ!現国なんか酷かったんだぞ!!

「キョン。僕ら帰るけど、キョンはどうするの?」
国木田の声がしてはっと我に返る。
「テスト終わったし、どっか遊びに行かないか?」
谷口も鞄を持って、待っていた。
「あぁ、わりぃ。これから部活があんだよ」
「涼宮か。お前もつくづく災難な奴だな」
「残念だけど、頑張ってね」
谷口達と遊びに行きたいのは山々なのだが、そんな事はSOS団の平団員である俺に出来る筈もなく、力なく手を振って奴らと廊下で別れた。

「昼飯、どうすっかな」
今日からSOS団が活動を再開することを考え、家から持参した弁当が鞄の中に入っている。部室で食べても良いのだが、なんとなく俺の足は、古泉のクラスである9組に向かっていた。
別にしばらく見ていないあの顔を見ながら飯が食いたい訳じゃない。気になっているなら解決した方が良い。このわだかまりが、今後のSOS団の行く末に悪い影響を与えるかもしれないじゃないか!

「珍しいですね、あなたが僕のクラスに来るなんて」
クラスメートに呼ばれた古泉は驚いた顔をしていた。俺がこいつのクラスに来た事なんてあんまりないからな。当然だ。
「お前、昼飯持ってる?」
「はい。テストも終わったことですし、久しぶりにSOS団の活動があるでしょう?」
「…一緒に食べないか?」
これを言うだけで、何故だか声が上ずりそうになった。久しぶりに目があった。古泉の顔は、変わらず無駄に整っていて、いつもどおりの笑顔だ。
「部室で、ですか?」
「いや、どっか…屋上とか。二人で」
「なるほど、二人っきりで」
「変な言い方、すんな」
笑顔で対応する奴に、先日行われた俺会議での決議が揺らいだ。俺が変に意識していただけかもしれない。もしかしたら、奴はなんら態度を変えていなかったんじゃないだろうか。いや待て、そうなると、古泉のスキンシップはあるにはあったが、俺がそれを足りないと考え、欲求不満状態に陥り、挙句あの結論を導き出したことにならないだろうか。そんな、谷口が好きそうなエロビデオの団地妻じゃあるまいし!考えるのが怖くなって、俺は思考をすぐさま停止して、ふらふらと屋上へ向かった。

屋上の端に並んで座る。いつもならもう少し距離が近い気がしたが、考えないことにして、弁当を鞄から出した。ちらりと、古泉の方を見ると、コンビニの袋から飲み物とパンを出している。
「お前、いつもコンビニのパンなのか?」
つい、聞いてしまった。
「ええ。学食で食べることもありますが、まぁ、大体はこういったでモノ済ませてしまいますね」
当たり前といった様子で奴は答えたが、あんな偏りそうな飯を毎日食ってて、大丈夫なのか?まぁ、俺よりでかいから発育に心配はないようだが。そういや、こいつが家族の話するの聞いたことないな。俺もあまりしないが、機関の仕事でこの町にいる古泉は、尚更だ。所謂、家庭の味を味わうことはあるのだろうか。
「俺の弁当からひとつやるよ」
「えっと、では…このウィンナーを」
良いトコに目を付ける。これは俺の気に入りのメーカーのウィンナーだ。しかし、家庭の味とは遠いな。既製品だし。どうせなら卵焼きとか選びゃあいいのに。箸で取ったもののどう渡せば良いか分からなかったので、古泉の口に押し込んでやった。奴はやたらゆっくりと咀嚼して、
「あ〜んってやつ、ですね」
なんて恥ずかしいことを言いやがった。言っておくが、そういうつもりでやったんじゃ断じてない。
「では、お礼にどうぞ」
そう言って差し出されたパンより、それを持つ手のほうが視界に大きく写った。何故か、触れたいと思った。気づけばしばらく俺に近づくことのなかった手を掴み、古泉のパンを一口食べていた。恥ずかしくなって、古泉の顔を窺うと、奴はなにやら複雑な顔をしていた。触ったのがそんなに嫌だったんだろうか。心がざわめいた。
「お前、なんか怒ってるのか」
唐突に聞いてしまっていた。食欲はなんだかもう、なくなっている。
「それはまた、どうしてそう思われるんですか?」
「全然触ってこねぇし、あんまり目あわせねぇし、顔近づけてこねぇし…。俺、なんかしたのか?」
今だって、横に座っているのに全く触れていない。いつもなら、俺の勘違いや欲求不満なんかじゃなく、もっと奴から密着して来ている筈だ。

「なんか調子狂うんだよ、お前との距離が遠いと。いつもだったら…」
自分から古泉にそっと寄る。肩が触れて、そこから熱が伝わってくる。
「これぐらい近かったら、するだろ」
そう、している。部室でも、道端でも、人がいなくて二人きりで密着していたら、古泉は必ずといって良いほど俺にする。…なんで、しねぇんだよ。
「なにを、ですか?」
試されている、と思ったが、もう我慢できなかった。
「キス…しねぇのかよ」
返事もせずにされたキスに、身体が震えた。

条件反射のように目をつぶり、古泉のキスを受ける。ひどく荒々しく、不器用な気がする。そうか、並んで座っているからしにくいのか。
「んっ……ふぅ…」
もっと密着すれば良い、と思った。古泉の手が俺の頭を掴むのを感じ、俺も古泉の制服の襟を探り当てる。余裕がなくて、目が開けられないのだ。悔しいことに上手い。何度も何度も角度を変えられて、唾液を注ぎ込まれ、舌を絡められる。一週間ぶりの接触がいきなりこんなに激しいと、どうにかなってしまいそうだ。漏れる声で、古泉を何度も呼んでしまったように思う。身体に力が入らない。腰を抱き寄せられて、キスは激しいままなのに、ゆっくりといたわるように押し倒された。
こういう所が奴が慣れてるみたいで嫌だが、優しい気持ちを感じて嬉しくもある。
「これ以上も、ここでして構わないんですか?」
唾液で首筋が濡れているのを感じる。ぼやけた視界で見た古泉は、完全に雄の顔になっていた。普段はもっと暗いときに見る表情を目の当たりにして、俺の興奮は最高潮に達した。
「も、どこでも良い…はやく、しろ」
「かしこまりました」
いやらしく笑った古泉が俺の首に顔をうずめた。シャツを脱がしていく手にも反応してしまう。
「古泉…」
一週間感じなかった存在を確かめるように名前を呼んだ瞬間、

「二人とも!!こんなところにいたのね!?」
古泉にのしかかられた俺からは直接姿は見えなかったが、声と勢いよく開けられた屋上のドアの音を聞いて、ハルヒがやって来たことがわかった。
「…って、あんた達なにしてんのよ」
古泉の動きが凍り、一瞬にして俺は冷静になった。古泉もまさかここでハルヒが来るとは思っていなかったのであろう。呆然とした様子で俺のネクタイに手をかけたままだ。今まで自分が古泉と行っていた行為が急に恥ずかしくなったことも手伝って、反射的に古泉を俺の上から殴り飛ばしていた。
「ぐっ!!」
スマン古泉。結構飛んだな。しかし、お前も閉鎖空間を発生させたくはないだろう。
「ハルヒ、ありがとな。おかげで勝てた」
「はぁ?どういうことよ」
「柔道だ、柔道。こいつに寝技かけられてたんだ」
ハルヒに気づかれないように服の乱れを直し、苦しい言い訳をする。まだ、痛みに背を丸めている古泉を尻目に、なんでもないように途中から放置していた弁当を片付ける。
「何でそんなことしてたのよ?」
更に突っ込んでくるとは思わなかったぞ。意外としつこいなハルヒ!これはお前の大好物の超常現象でもな
んでもないぞ!!ごく普通の、なんだ、えーと、普通じゃないが、とにかくお前向きじゃないんだ!
「いや、まぁ、その…男子高校生同士のスキンシップに体育で習う柔道は適してるってことだ!」
訳の分からないことを言うと、
「訳わかんないわ。いいから早く部室に来てよね!」
とハルヒは言った。ごもっともだ。俺にも訳が分からん。30秒以内にこなかったら死刑よ!とか何とか無理でご無体なことを言いつつ嵐、もといハルヒは去っていった。目線を古泉に移す。動揺のあまり割りと強く蹴ってしまったから、心配だ。大丈夫かと聞く前に、奴の方から寂しげな目をして声をかけてきた。

「キョ、キョン君」
「なんだよ」
なんだ、その捨てられた子犬のような目は。お前がしても可愛くないぞ。
「続きは…」
「しねぇよ」
「そんな!」
「いいから行くぞ。早くしねぇとハルヒが不機嫌になって閉鎖空間ができる」
手を差し伸べると、うぅ、とうめきながら立ち上がった。身支度を整えている奴を待ちながら、危うく屋上で同性と不純な交遊を致してしまうところだった事を考え、ハルヒの出現で一度下がった体温がまた上昇した。たかが一週間、奴との接触がなかっただけでこんな風になってしまう自分に驚きを隠せない。たかが一週間だぞ!いや、しかし、されど一週間…なのか?いつからこんなに古泉に対して我慢が効かなくなったというのだ、俺は。


屋上を出て、階段を下りる。部室に向かう間は恥ずかしくてまともに古泉の方も見れず、俺は沈黙を守っていた。隣で古泉がため息をついたのに気づいた。そんなに最後までしたかったんだろうか。性欲魔人め。
「お前、がっつきすぎ」
「え?」
え?じゃねぇよ。俺もどちらかといえば、今日はがっついてはいたが、お前のがっつきようといったらなかったぞ。腹ペコ狼か、お前は。じゃあ俺は羊か。あぁ…どうも今日は失言が多い。
「何考えて避けてたのか知らねぇけど。…こまめにしろよ、こういうことは」
心底そう思ったので口に出して言ってしまったが、言った後にはたと、どれだけ自分が恥ずかしい発言をしたのか気づいた。なんだそれ、おいおい。つまりは、やっぱり、欲求不満だったってことか!?
その後は古泉を残して部室に駆け込むことしか、俺にはできなかった。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:17:58