古キョン古 芽生え

 

俺以外、誰もいない部室で俺は暇を持て余している。
宿題が出ていたがやる気にならんし、本を読む気分でもない。
ふぁ〜。眠くなってきた。寝るか。

コンコン………ガチャ
「おや、居たんですか…寝てます?」
くそ。浅い眠りが覚めちまった。どうやら古泉が来たようだ。
しかし今の状態でゲームするのはめんどくさいし古泉の長ったらしい解説なんかを聞く羽目にもなりたくなかったのでタヌキ寝入りをすることにした。
顔を上げていないが、古泉はどうやらこっちを見ているようだ。なんとなく視線を感じる。どうした?
「sleeping beauty…か」
何を言い出すんだ、お前は。俺のトラウマを思い出させるな。
「僕がキスしたら目を覚ましてくれるのでしょうか」
はぁ?さすがに体が震えた気がした。たぶんビクッと動いたことだろう。
起きてるのバレてない…よな?っていうか、冗談は人が居るところでわかりやすく言え。
「……好きです」
な、なんだってー!!!
え、ちょっと待てよ。聞き間違いじゃないよな?いやいや、落ち着け、俺。
きっとあれだ。俺がタヌキ寝入りしてるのがバレてるんだ。それでわざと言ってるんだ。そうに違いない。
しかし、顔が上げられん。きっと顔を上げればニヤニヤした顔があって「冗談ですよ」なんて言うんだろう。そうだよな?古泉。
「あ…れ?」
古泉が何かに気付いたような声を出す。どうしたんだ?
と思っていたら耳を触られた。やめろ、たぶんそこの体温は上昇中だ。
ガシャン!
椅子が倒れた音がした。
「も、もしかして…起きて…ます?」
これ以上のタヌキ寝入りは無理か。俺は顔を上げた。
すると、そこには俺が見たことも無いような顔をした古泉がいた。
困惑と脅えに支配されたような瞳をしている。
「き、聞いてたんですか?え、いつから…え、ちょっと待ってください、えっと…あの…」
考えがまとまっていない奴の喋り方の典型だな。
「お前が入ってきた時に目が覚めた」
正直に答えた。「何も聞いていない」なんて言っても無駄だろうからな。
「え、全部…聞いてたんですか?」
俺は肯く。
古泉の顔はみるみる赤くなって、そして青ざめていく。
「すいませんすいません…」
別に謝るようなことじゃないんじゃないか。それとも嘘ついてごめんなさいってことか?
「いえ、嘘ではないです。あなたが好きです」
ふーん。それにしても何で俺は嫌悪感とかが無いんだろうか。普通、男に好きだなんて言われたら気持ち悪がってもいいようなもんだが。不思議だな。
首をかしげながら古泉を見るとその目には涙が浮かんでいた。
なんで泣いてんだよ!
「あなたが好きなんです…好きです…すいません。好きなんです。すいません…好きなんです。すいません…」
古泉は壊れた機械のように「好きなんです」と「すいません」を繰り返していた。
それを見て聞いて、俺にある感情が芽生えた。
机をまわって古泉の前に行く。そこにいる、まだ「好きなんです」と「すいません」を繰り返しながら泣いている奴を抱きしめた。
「古泉、お前はいい…黙ってろ」
いつか言ったセリフと同じことを言う。
ただし今回はなるべく優しく、なるべく穏やかな声で言う。
古泉、お前の気持ちはわかった。今度は俺の番だ。
「今わかったんだが、俺もお前が好きみたいだ」
古泉は涙が止まったようだ。
「え?」
口を開けてアホ面をしている。涙は止まったようだが頬にまだ雫が残っている。それを舐めてやる。
「本当…ですか?」
本当だとも。ただし、もう2度と言わんかも知れないがな。
「ひどい人ですね。あなたは。…僕は何度でも言いますよ。あなたが好きだと」
勝手にしろ。
「はい。勝手にします。好きです。僕と…付き合ってくれませんか?」
だから、もう2度と言わないって言っただろ。
俺は返事の代わりにキスをした。
さっき俺に芽生えた感情は紛れもなく、愛しい、という感情。
あーあ。古泉のくせに俺にこんな感情を抱かせるなんてな。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:17:39