古キョン 痴漢ネタ?

 

人生と言うのはなんだかんだで結構長い、だから色々あるもんだ。なんてドラマなどでもよく聞く言葉だ。
特に俺の人生、いや高校に入ってからの人生と言ったほうが正しいな。は、本当に色々あった。全部思い出す事を拒否る程に。
いやいい思い出だってあるんだがな。誤解の無いように言っておく。
だから驚きの連続の連続とかもあったりしたわけで、何が起こっても耐えられるようにと結構色々予測してその衝撃に備えたりもしているわけだ。
それが役立った事があるかは…まぁ別として。

前置きが長くなってしまったな。つまりあれだ、予測範囲を大きく外れる事が起こっているので対処法が思いつかないというわけだ。
俺の脳は現在進行形のこの状況を把握したくないようで、情報から弾き出される答えを認めたがってくれない。
ので、すまない。ちょっと待ってくれ。

………言葉にするのに非常に抵抗があるんだが、…痴漢に合っているんだ…

 

俺の隣にはいつものニコニコスマイルの古泉。そしてここは混雑率90%と言ったところか。の電車内である。
帰宅時間という事もあり、学生やサラリーマンたちで車内は騒がしい。
座れなかったため吊り革につかまり並んでいる古泉は、いつものように面白くもない事を楽しそうに無駄に長ったらしく理論的っぽく喋っていやがる。
絶対もっと短く、わかりやすくまとめられるはずだ。と言うか生返事しかしてない俺相手によくもまぁそう熱心に語れるものだ。
…いかん、どうしても違う事に意識を飛ばしてしまうな。

とりあえず何故俺たちが並んで電車に乗っているか、というところから説明したほうがいいだろうか。古泉が放課後出掛けようと言ってきたからだ。
『機関』絡みなら断ってやろうと思ったが、関係無いと言うので付き合ってやってもいいかと思ってしまったわけだ。明日は祝日な事だし。
なのでいつもの怪しげな黒タクシーではなく、電車移動しているというわけだ。
そもそもこれがもう間違いの始まりだったな、と心中で忌々しく思う。あの時の俺よ、何故気まぐれを起こしたんだ。

そんなわけで、俺はこの一件(単語を言いたくない)も古泉の仕込みによるものではないのかと疑っている。
こんな事して『機関』にもこいつにもなんのメリットがあるかとか聞かれたらそんなもん知らんが、とりあえず今の俺は明確な理由さえ提示されたら許してしまえそうなんだ。
そう期待と猜疑心と恨みを込めた目で古泉を見ると、何を勘違いしたのか少し頬を染めて恥ずかしそうにしやがった。気色悪い。
残念ながらこいつは関係無さそうだな、と電車内の路線ポップを見やる。
目的地の駅までもう少しだ。最高に不本意で嫌だが、ケツ触られるくらい我慢してやるさ。
よくテレビとかで痴漢に合ってる人たちが「怖いし恥ずかしくて、何も言えなかった」と言ってるのを見てさっさと駅員に突き出せばいいじゃねえか、とか思っていたが、いざ合うとそう簡単にはいかないもんなんだな。あの時のお姉さんたちごめんなさい。
まぁ、俺の場合男だからまわりに「男の子なのに痴漢に合ったのね」みたいな目で見られたくないからだが。決して、この後ろのオッサンに遠慮してではない。
古泉に知られたくない、というのもある。からかうネタとして引っ張りそうだからな、こいつは。
そうだなんで俺なんだ、横に古泉みたいな逸材が居るというのに。
悔しいが、そりゃもう見た目はいい。普通触るならこっちじゃないのか? そっち系の方々の好みなんぞ知らんから詳しくはわからんが。
そう別にどうでもいい事をつらつらと考えて時間の経過を早めようと頑張っていると、調子に乗ったのかオッサンが動いた。手を前のほうに移動させてきやがったのだ。
「ちょ…っ!」
突然の事にさすがに焦ってしまい、声が出、体をずらそうと動いてしまった。
その瞬間、古泉の表情が変わるのが見えた。しまったバレた、せっかく今まで我慢していたというのに!
と言うか古泉、なんだその目は。神人なんて居ないのになんでそんな戦闘モードなんだ。
思わずオッサンの身をちょっと心配してしまったが、予想に反して古泉は思いっきり俺を引き寄せた。
声は出なかった。と言うか出せなかった。古泉の胸元に顔をうずめるような体勢になったからだ。
いきなりの事に抵抗もできず、タイミング良く停車したためそのまま抱えられるようにして一緒に降りる事となった。
幸いな事に降車する人が少ない駅だったようで、ホームに居るのは俺たちと数人だった。
横目に、電車内で楽しそうにこちらに携帯を向けている女子高生たちが見えた。頼む、撮影失敗しててくれ。

「「……………」」
沈黙。
いや、俺のほうはまだ顔が胸元に密着させられている状態なので喋れないだけなんだが。
とりあえず離して欲しいわけだが、一向に腕の力が緩まないので古泉の腕を叩いて合図を送るしかない。
完全にホームに誰も居なくなったであろう時間が経ってから、やっと古泉は俺を解放してくれた。あぁ苦しかった。
「なんで黙ってたんですか」
なんでお前が怒るんだよ。
「そんなに痴漢されたかったんですか? それなら僕に言ってくだされば良かったのに!」
線路にブン投げていいかな、これ。
「…いえ、そうではなく……気付けなくてすみませんでした」
怒ったり落ち込んだり変態だったり忙しい奴だな、お前も。
「…男が痴漢されてる、なんて言いたくねえだろうが」
気恥ずかしさもあり、古泉から目を外しながら呟くように言う。
「口に出さなくとも、なにかしら伝えてくだされば対処しましたのに…」
そうだな、なんかお前はそういうの慣れてそうだもんな。もう無いとは思うが、今後の参考にどうすればいいのか教えてくれないか?
「黙らせます」
喋ってる相手じゃないのにその表現はおかしくないか? と思ったが、えらいいい笑顔で言ってるからそうか、とだけ返しておいた。
あのオッサンは運が良かったんだな、こいつを選ばなくて。
「あぁ、顔は覚えてますので大丈夫ですよ」
どちらでも変わりは無いみたいだよ、オッサン。
「あなたにしでかした事を反省させないといけませんからね」
どちらかと言うと運が悪いみたいだよ、オッサン。最上級に機嫌がいい時の顔してるもん、こいつ。同情するぜ。
なんで自分に痴漢したような奴さえ心配しちまうんだろうね、俺は。

「つーかここ降りる予定だった駅じゃねえぞ。どうすんだよ」
お前がなんかよくわからん展示会を見に行きたいとか言うからこっちは付き合ってやってるんじゃねえか。
「今のあなたを一人にはしておけません」
意味がわからん。俺としてはどっと疲れたから正直今すぐ家に帰って寝たい。
「電車は危険ですからタクシーで僕の部屋に行きましょう。今、手配しますのでお待ちを」
そう言うと携帯を取り出し、どこかにかけ短く用件だけ言い、切った。
いやいや待て待て、何勝手に決めてやがる。て言うか何がどうなってそうなったんだ。
「全く、僕が一緒だったから良かったようなものの居なかったらどうなっていたか…魅力的過ぎるというのも困りものですね。無防備すぎる彼にも問題があると言うか…やはり今後は電車通学をさせない方向で…」
なにやらぶつぶつ言ってるとこ悪いが、それ長引きそうだし先帰っていいか?
「駄目です! 聞いてなかったんですか? 電車は危険です」
俺にはお前の思考回路のほうが、よっぽど危険に思えるんだが。
「怖かったでしょう。でも、もう大丈夫ですよ、僕がすぐに忘れさせてあげますからね」
柔らかく俺の手を握りこむな、気持ち悪い。だからお前のほうが怖えよ。
「一体何を忘れさせるってんだよ、てかそれとお前の部屋とどう関係があるんだ」
言いながら手を解こうとさり気に力を入れてみるが外れない。くそっ、ほんと馬鹿力だな、こいつ。
「望まざる相手に触れられるというのは酷く辛かったでしょう。その感触が残り、あなたを苦しめていると思うと耐えられません。僕がすぐ上書きして差し上げますからね。それにその汚い手が触れた制服を早く脱がして差し上げたいし、シャワーも浴びて頂きたいですから」
そう言うと優しそうに、そして少し淫猥そうに笑った。

おい、お前はただ単に痴漢されている俺を見て興奮しただけちゃうんかと。そしてそれを口実にヤりたいだけちゃうんかと。
俺は綺麗に凍結させられてしまい、何も言えなかった。何を言ってもこれから起こるであろう事に変わりは無い事がわかっていたからというのもあるが。
とりあえず誰か、程よく痛みを与えられる物を持って来てくれないか? 今すぐ。
何も言わない俺をどう受け取ったのかは知らないが、古泉はそれはもう艶やかに微笑んだ。

ここにきて、俺は初めて痴漢のオッサンを心から呪った。

 

古泉に腕をつかまれ、率先されて見えてきたタクシーはいつもの怪しげな黒タクシーではなく一般会社所属のだった。
さすがにこんな事で古泉も『機関』は使わないんだな、とよくわからんが感心する。
それにほとんど抱えられるようにして乗り込まされると、奴の部屋に向かって発進した。
思いっきり抵抗して足を踏ん張ってやろうとも思ったが、そんな事したら俺を抱きかかえて持って行きそうな勢いのこいつを見てやめた。
最後の抵抗として酷くゆっくりと歩いてやったが。俺にできるのはそれくらいだった。そこ、情けないとか言うな。

タクシー内でもう何も言う気力も無く無言で居ると、古泉が顔を近づけてきた。
一体何を言うつもりなんだ、と嫌な予感がしながらも避けずに聞いてやる事にする。
「今度は僕が痴漢役をやりますから痴漢プレイしましょうね」
そう艶っぽく掠れた声で囁いてきた。
…てめぇ、全ッ然俺の事なんぞ労る気ねえじゃねえか! 何が「心配」だ、この生粋の変態野郎が!
「僕が触るんならいいんですよ」
可愛らしく首を傾げつつ、頭の中とは真逆の爽やかな笑顔で言い放ちやがった。
感情に任せて思いっきり殴ってやろうかと思ったがやめた。
別にこの後の事を思ってやめたんじゃないぞ。殴った事に対して何か加算されるんじゃ、とか考えて少し怖くなったわけじゃない。断じて違うからな!

タクシーはそんな俺の気持ちとは正反対に、渋滞に巻き込まれるという事も起こってはくれず軽快に走り続ける。
俺は今の状況とさっきの電車の中に戻るのとではどちらがマシか、というあほらしい事を考えていた。

「明日が休日で本当に良かったですよね」
この言葉で俺はさっきの電車の中にものすごい勢いで駆け戻りたくなった。

 
  • こういうネタ大好き。おっさんになりたい(´д`*)GJでした! -- 2007-07-18 (水) 18:09:35
  • 次は是非古泉にキョンを痴漢してもらいたいです! -- 2007-07-24 (火) 22:05:18
  • …萌えっ(*´艸`)? -- ? 2008-12-28 (日) 21:23:37


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Last-modified: 2008-12-28 (日) 21:23:37