古キョン 休日の過ごし方



その日俺が古泉の部屋に向かったのは断じて暇だったからであり、それ以下でもそれ以上でもない。
以上って何を指すのであろうかとか、暇だから古泉の家に行くっていうのもそれはそれで色々とどうなのかとか、俺なりに思うところあるがそれはそれこれはこれ。例えば朝比奈さんの家に「暇だから」と向かうのは大っ変失礼な話であり、つまりはそういうことである。


本日は日曜日であり、世間の学生及び一部を除いた社会人は休日のハッピーサンデーである。そもそもここしばらく俺含めた団員は不思議探索とは名ばかりの無駄に集まろうの会に団長様直々にお呼び出しがかかり、休日と呼べる休日など無かったのが現状である。がしかし。どういう風の吹き回しか、団長様は
「たまには休むのもいいわよね。不思議っていうのは、きっと探さなかった時にヒョイっと顔を出すものなのよ。使いたいときに散々探して見つからないものが、数日たって必要でなくなったときに、何故か探しまくった場所から出てくるみたいにね。あたしはそれをナイナイの神様と呼んでいるわ」
と実にどうでもいいハルヒ情報を混ぜたのち、部室をあとにした。どういう気まぐれだ?神様が可哀想な俺達カッコ主に朝比奈さんと俺カッコ閉じを哀れんでくれたのか?とも思ったが、そもそも例の胡散臭いアイツに言わせるところ神様はハルヒであり、その神様が起こした気まぐれならば、そりゃあ甘んじて受けようじゃないかと言ったところだ。
しかしだ。実際、ここのところ毎週駅前に集まっていたのである。君達にも覚えはないだろうか。毎日毎日部活、バイト、あるいは社会人なら仕事でもいい。それらに明け暮れ、休みたい帰りたい眠りたいと思っていても、いざ休みがポッカリ出来ると、何をしていいか分からない。なんとなーく漫画読んでみたり、テレビ見てみたり、まあそれはそれで立派な『休む日』なのだが、なんとなくつまらない。なんかもっと、他にやることがあるんじゃないのか。つまるところ俺は、そういった感情になってしまったわけだ。こりゃ参ったね。

その『他にやること』が、果たして古泉の家に行くことなのはどうかはこの際置いておくとして、だ。考えるといろいろとアレだから置かせておいてくれ。置かせて頂いたところで、俺は今古泉の部屋の前にいるわけなのだが。

ピンポーン。

俺なりに一応SOS団唯一の普通人として、アイツの好きそうな菓子を手土産にしたりしているわけだが――買ってる最中に、俺は何故男に甘いモンの差し入れを、などと考えたことはこの際置いておこう――、この部屋の主は一向に出てくる気配はない。もう一度押してみる。人の動く気配がしない。
これはまずい。留守という可能性を全く考えていなかった俺はどうかしている。そりゃそうだ。たまの休日だ。あいつは一人暮らしな訳だし、買出しとかそういうのもあるかもしれない。スーパーで野菜を吟味しているアイツの姿を思い浮かべたら、若干気色悪かったのだがちょっと笑えもした。誰かと予定が、という線もあるにはあるだろうが、それは正直ないな、と思った。全く持って気色の悪い話ではあるが、俺とヤツは…一応……なんだ。まあ、察してくれ。そういった関係であり、アイツのことだ、誰かと会う予定が、なんてことになれば真っ先に聞いてもいないのに『その日は誰々さんと会う都合がありましてね。ああ、安心してください、僕はあなた以外目に入りませんから』とか言ってくるのだ。気色悪い。頬の筋肉が少し上がった気がするがそれは気のせいであり断じて気のせいである。
俺は携帯を手に取ると、コ行を探し、通話ボタンを押した。すると。
『はい』
ワンコールで出やがった。なんだろうこのデジャヴ。
「お前今どこだ?」
『…家ですが、どうしたんですか?貴方からかけてくるなんて、珍しいですね』
「家?」
おいおい。今俺はその家の前でチャイムを鳴らしたわけだが。まさかまさかの誰かと予定がの線なのか?
『……もしかして、さっきのチャイムは、貴方ですか?すみません、今開けますね』
耳から聞こえる声と共に、ようやく部屋の中から物音がした。なんだ、いるんじゃないか。やっぱりその線はないんじゃないか。ビックリさせるな。……何にビックリだ俺は。チクショウ。
部屋のドアが開き、ひょこっと古泉が爽やかスマイルで顔を出した。いるなら早く開けろよ。もう目の前にいるというのに俺は電話を耳に当てたまま喋った。古泉も電話を手に持ったまま、すみません、と言った。

「最近、勧誘などが多いものですから。またその類かと思ったんです。まさか貴方が来るとは夢にも思わなかったものですから」
俺を部屋に招き入れたあと、古泉は後ろ手で鍵を閉めながら言った。なんだその閉め方は。やたらエロいぞ。
「勧誘にはいつも居留守か?」
「そういうわけではないんですが……ちょっと疲れていたものですから。今、お茶淹れますね」
ベッドの横に座りながらふと見れば、古泉の格好はいやにラフだ。いつものフォーマル紳士みたいな格好とはほど遠く、U字に襟首の開いたトレーナーにゆったりしたズボン。ベッドの近くには本が読みかけですとばかりに放ってあり、これはもしかして、もしかしなくても。
「……古泉、もしかしてお前寝てた?」
ポットを出していた古泉の動きが一瞬止まったかと思うと、ゆっくり振り向き、困ったような笑顔で、貴方にはかないませんね、と言った。
「その通りです。実は、明け方にまた閉鎖空間が発生しまして。なんのことはない小規模なものでしたから、おそらく推察するに涼宮さんの機嫌がどうこうというよりも、嫌な夢でも見た、レベルのものではあったんですがね。帰ってきたのが、ついさっきだったんですよ」
こんなだらしのない格好をお見せしてすみません、と古泉は続けた。貴方が来ると分かっていたなら前もって着替えていたんですが、とも言った。そんなことはどうでもいい。なんだって?帰ってきたのがついさっき?
「……そりゃ悪いことしたな。俺、帰るよ」
アポ無しで来るんじゃなかった。コイツはなんだかんだ言って普通人の俺とは違う使命とやらのある超能力者だったってことをすっかり忘れてたよ。いや厳密な意味では忘れてはいないんだが、そうだよな、閉鎖空間。お前は俺とは違う意味でも、ハルヒに振り回されていたんだった。
「え?あ、すみません、そういう意味で言ったんじゃないんです。気にしないでください」
「気にするさ。折角の休日だ。寝たほうがいいだろ」
立ち上がろうとすると、慌てたように俺のほうへ古泉がやってきた。通しません、とばかりに俺と玄関の間に入る。
「いや、でも、じゃあ、せめてお茶でも。折角手土産まで買って来て下さったのですし」
「いいって。それはどうせお前のために買ってきたヤツなんだし、俺は食わなくてもいいから」
って何お前のためとか言っちゃってんだ俺は。ちょっと死にたくなるな。
「僕のためだったら余計嬉しいから一緒に食べましょう!」
「いいから寝ろって!」
心配だから!

古泉の動きが止まった。あれ?もしかして今のも言った?言っちまったのか俺?古泉の顔が、目を見開いた顔から、少しづつ、笑顔に変わった。それはいつもの胡散臭い涼宮ハルヒ用イエスマン笑顔ではなく、擬音をつけるのならば、ふにゃり、あるいはくしゃり、そんな感じの、――コイツが、本当に嬉しいとき、見せる笑顔。……ああ、これは、言ってしまったようだ。
「……うれしいです。僕のこと、心配、なんて」
やっぱり言ってしまったのか。モノローグと台詞の区別がつかない主人公はこれだから困るぜ。
「でも、本当に大丈夫なんです。というより、僕は貴方がこうして来てくれたことが本当に嬉しくて、だから寝るよりも、貴方と過ごしたいんです」
そう言われてもなあ。間近で見ると、お前やっぱり疲れてるよ。今度は言葉には出してはいなかったようだが、腑に落ちない顔でもしていたのか、古泉は続けた。
「……やっぱり、帰っちゃいますか?」
その捨てられた子犬のような目はやめろ。世の女子の五人に一人くらいはその顔に騙されてくれるだろうが俺は騙されん。可愛いとはそういうことは断じて思わんぞ。思わない。思わないんだっつーの。
俺が黙っていると、古泉は叱られた子供のような顔から、急に新しい研究法を思いついた学者のような顔になり、いつもの胡散臭い笑顔に戻って、俺を見た。なんだ、百面相なら俺は付き合わんぞ。
「分かりました。どうしても僕に寝て欲しいというのなら、寝ることにします」
なんだその言い方は。俺は別にお前に寝て欲しいなどと懇願しているわけでは、そこまで考えたところで、腕を引かれて思考が停止した。

いつぞやの言葉を借りるなら、やぶからぼうになんだこれは、と言ったところであろうか。説明させて頂くと、ベッドの近くにいた俺は古泉に手を引かれベッド側に転倒、古泉も転倒――というよりヤツは望んでダイブのようであったが――、そのまま古泉に抱きかかえられベッドに横になっている。
つまるところ、説明したくもないのだが、俺は、古泉に、腕枕をされている。
「やぶからぼうになんだこれは」
もう一度、今度は口に出してみた。古泉は満面の笑顔で、腕枕ですが、と言った。顔が近いんだよ息が顔にかかってくすぐったい離せ。
「僕に寝て欲しいなら、一緒に寝て下さい」
なんということだ。寝て欲しいなどとは俺は言っていない。心配だ、とは確かに言った。ああ言ったし思ったさそれは認めよう。しかしその一言でこうなるとは誰が予想し得るであろうか否出来ない。俺の心情をどこから説明しましょうか、と思ったところで古泉は続けた。
「何分一人暮らしなものですから。一人で寝るのは、寂しいと思うときもあるんですよ。そんなとき、貴方が傍にいてくれたらな、と思うんです。ですから、今日だけ。……いけませんか?」
だから、息が顔にかかるんだよくすぐったい。そのキラキラした目をやめろ。
そしたら、そしたら、今日だけ、横にいてやらんこともない。




  • 二人とも可愛い!キョンのデレ具合もナイスです・・・! -- 2007-07-28 (土) 01:48:12
  • うわはぁ…古泉もキョンも超可愛い…!胸キョンした!GJ! -- 2007-07-28 (土) 01:57:37
  • 二人とも可愛くて読んでる間中ニヤニヤが止まらないほど萌えたwwGJ! -- 2007-07-28 (土) 02:44:28
  • 最高の可愛さ!二人のやりとりが微笑ましいですw -- 2007-07-28 (土) 03:21:11
  • ないないの神様www -- 2007-07-28 (土) 03:25:32
  • 超GJ!言い回しがいちいちツボに入ったwハァハァが止まりません(*´Д`*) -- 2007-07-28 (土) 07:41:52
  • なんだこの二人の可愛さは…!GJGJ!朝から和ませてもらいました。 -- 2007-07-28 (土) 08:28:07
  • ちっくしょうかわいいじゃねぇか! -- 2007-07-28 (土) 11:58:39
  • 二人とも可愛いすぐるwwwGJ! -- 2007-07-28 (土) 12:31:47
  • かわええええ!なにこのめんこい二人!あなたが神か!つーかないないの神様懐かしすぎるwwwwwwww -- 2007-07-28 (土) 12:46:43
  • ないないの神様懐かしすぐるw 始終ニヤニヤさせてもらいました、GJです! -- 2007-07-28 (土) 13:39:32
  • なんだこの愛らしさは…!GJ!にまにまさせてもらいましたw -- 2007-07-31 (火) 18:54:52


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:17:17