Rain 会長×古泉

窓から見える雨はさっきから止む気配を見せない。傘は持ってきてない…濡れて帰るかしかないか。
 そうは思うものの、土砂降りの雨を見てると足が竦む。
 生徒会長なんてやってなけりゃ、傘置き場の傘を一本や二本くらいぱくっても構わないが、そうもいかない。
 もし、誰かに見られたならばあいつがうるさいだろう。
 あいつ。俺がやりたくもない生徒会長なんてやっている原因。
 なんてうだうだ考えてなるべく時間を引き延ばしてみるが、やっぱり雨は止まない。むしろさっきよりも酷くなっているようにも思える。
 「しょうがないな…」
 バケツをひっくり返したと形容されるような雨にならないうちに帰るとしよう。
 自分以外には誰も居ない生徒会室を後にして、職員室に向かった。
 遅くまでご苦労だな、とかなんとか話しかけてくる顧問を適当にあしらい、鍵を渡してさっさと帰ることにする。
 覚悟さえ決まれば早いことに越したことは無い。

 気休めにしかならないだろうが、鞄を傘代わりにして走る。
 「ん・・・?」
 校門の所に人影。暗くてよく見えないが、こんな時間まで残っているなんて相当の変わり者だな。しかも傘差してねぇぞ。
 自分を棚にあげてそんな事を思っていれば、およそあと10Mというところでその変わり者がこっちを見た。
 「…!?古泉…なにをしている」
 変わり者は古泉だった。髪も制服もびっしょびしょに濡れきっている。
 「遅くまでご苦労ですね。ちゃんと生徒会長を演じてくださっているようで安心しました」
 んな、顧問みてぇな台詞を口にしながらにこりと微笑む古泉は何時もの様だが、なんとも状況が異質だ。
 雨の中、傘も差さずに校門にぼーっと突っ立っているやつに言われても気味が悪い。
 「私の質問に答えろ。…何をしている」
 「嫌ですねぇ、今は僕しか居ませんよ?演技しなくても良いですよ」
 「古泉」
 のらりくらりと誤魔化そうとする古泉の肩を掴む。…死体じゃねーのかってくらい冷たい。
 このバカは何時間ここで、こうやって雨に打たれてたんだ?
 「…あなたを待っていたんですよ。どうせ、傘持って無いだろうと思いましてね」
 言われてみれば確かに古泉の手には一本の傘が握られている。ますますおかしい。傘があるなら差せば良いし、俺を待つなら学校の中で待てば良いだろう。
 まぁ、またあのにぎやかな女のことで色々悩んでたんだろう。こいつのこーいう変な行動はよくある、とまではいかないが、ごくたまにある。
 「…バカか、貴様は」
 「…そうですね。自分でもおかしいと思いますよ」
 そう言って古泉は情けない顔で笑った。
 「情けねぇツラしてんじゃねーよ」
 「すみません…」
 「でも、そっちの方が可愛いな」
 「なんですか、それ」
 軽口を叩きながら、氷の様に冷たい古泉の体を抱き寄せる。身長の割りに華奢な体は俺の腕の中にすっぽり納まった。
 「冷たい」
 「自分から抱きしめといて、それは無いんじゃないんですか?」
 「うるせー…あっためてやるよ」
 雨でびしょびしょになった額、頬、鼻を順に舐める。くすぐったそうに笑う古泉は可愛い。
 「最近の雨って体に良くないものいっぱい入ってるらしいですよ?」
 「こんだけ濡れてりゃ関係ないだろう」
 「まぁ、そうかもしれないですけど」
 最後に冷え切った唇に舌を這わせる。薄く開かれた唇にそのまま舌を進入させれば、こいつは舌までも冷えていた。マジで死ぬんじゃないのか?
 無意識に退こうとする古泉の後頭部をがっちりと引き寄せる。
 「んぅっ・・・・・・ふっ、ん」
 甘い口付け、というよりは食らいつくと言う表現が正しいくらいに古泉の口内を犯す。
 何度も角度を変えて、深い口付けを交わせば段々と息があがってくる。
 互いの唾液によって鳴り出す水音は雨の音にかき消されて聞こえない。
 背中に回された古泉の腕が終了を強請る。
 渋々開放してやると、死人のようだった古泉の白い頬がうっすらとピンク色に染まっている。
 「もう、やりすぎですよっ…ここ、どこだと思ってるんですか」
 「誰のせいだ」
 「…もう帰りましょう。いい加減僕も寒いです」
 よく言うぜ。何時間も無意味に突っ立ってたくせに。お前のせいで俺までびしょびしょじゃないか。
 「どっちにしろあなたは傘持ってなかったじゃないですか」
 気分の問題だ。にしても、俺も古泉もびしょびしょで今更傘を差したところでなんの意味も無いだろう。
 やっぱり当初の予定通り、濡れて帰るはめになった。
  早く帰るぞ、と言わんばかりに俺の腕を引く濡れた古泉の姿を見ていたら、先ほどの熱が少しばかり蘇ってくる。
 濡れた髪がうなじに張り付いていたり、鎖骨のところに水滴が溜まっていたり、シャツが張り付いて肌が透けていたりだとか色々と目の毒だ。
 って、おいおい、お前優等生面してインナー着てないのか。日頃、色んな意味でお世話になっている桃色の二つの果実がシャツ越しに主張している。
 怒るべきか、喜ぶべきか…どっちでも良いが、ここまで煽られてこのまま清く帰るなんて俺は出来んぞ。古泉。
 「会長?」
 「古泉、今日は泊まっていくんだろう?うちの方が近いからな…このままだと風邪ひくぞ」
 「…なに考えてるんですか」
 「さぁ…ナニだろうな」
 訝しげな表情を浮かべる古泉の手を握り、ようやく校門を通って帰路を歩く。
 「家着いたら、愚痴でもなんでも聞いてやろう。風呂場でな」
 「・・・お風呂は恥ずかしいから嫌です」
 掴んだ手をぎゅっと握り返してくるこいつが愛しい。ガキのくせに色々背負ってて、俺にしてやれることなんて少ししかないのかもしれない。
 でも、それが少しでもお前を楽に出来るなら道化でもなんでも演じてやるよ。それがあの女のためだって言うのは癪だが。
 「恥ずかしがってるお前見るのが良いんじゃねーか」
 「・・・変態ですね」
 よし。宣言どおり風呂場でゆっくり可愛がってやるとしようか。
 なんといっても、こいつが本当の顔で甘えられるのはSOS団でも、機関でもなくて、俺の腕の中だけなんだから。

 


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:16:42