ノンケ古泉×ガチホモキョン襲い受け †
「お前のそれは癖なのか?」
指先で黒のオセロを白へとひっくり返しながら彼が聞いた。
「それとは?」
差し向かいの定位置に座った僕はボードから目を上げる。
「会話するとき、顔近いんだよお前。」
「あぁ、まぁ特定の誰かに聞かれてはまずいような会話をする機会が多いですからね、あなたとは。」
「ふぅん。」
眉根を寄せて呟く。
僕はまたボードへと目を戻し、顎に手を当ててしばし思考した後、石をつまみ上げボードの枡の中へ置いた。
・・・・熱心な視線を感じる。
さっきから彼は一時も目を離さず僕の顔を凝視している。
今までにもこのような事はたまにあったが、こちらが目を向けると彼はフイと視線を逸らす。
人の顔を凝視してしまう癖でもあるのだろうか。
気づいていないふりをしてきたが、流石になんとなく気になって声を掛ける。
「あの、何ですか?僕の顔に何か?」
「それだけかよ。」
「はい?」
「本当にそれだけなのか?」
さっきの続きか。
しかしなんだってこんなことにそこまで追尋するのか。
一体どんな返答を望んでいたのか。
「以後気をつけます。」
「違う。そうじゃなくて、あそこまで至近距離に顔近づけてくる男子高校生普通いないぞ。
気持ち悪いって思うだろ普通。なのにお前は妙に身体すり寄せてきたりするし・・・。」
そこで僕は指を組んで顎を乗せ、ニッコリ微笑みながらこういった。
「それは、あなたのことが好きだからですよ。」
気持ち悪い。
思いっきり顔を歪めて彼が心底嫌そうにそう言うのを予想して。
しかし彼は言った。
「そうか。俺もお前のことは嫌いじゃない。」
予想GUYな返答に思わず口ポカン状態だ。
しかもやけに真摯な眼差しでこちらを見つめながらそれを言う。
と、突然彼は椅子から立ち上がり
「まぁお前のことはなんとなく分かってたさ。」
言いながらゆっくりと机を回りこちらに近づいてくる。
なんなんだ雰囲気は、この展開は。
秘密の花園、風と木の詩———・・・
そんな単語が意味もなく頭に思い浮かんでくるくる旋回する。
どうも彼の中に僕に対する小さな誤解があったようで、それは先ほど自ら踏んだ地雷によって確信へと変わってしまったらしい。
「えっ、ちょ、あの・・・?」
目の前まできた彼は、引きつった笑みを浮かべる僕の両肩を突然ガッ!と掴むと、熱情的な視線で目を覗き込んできた。
思わず身を引く。
僕のシックスセンスは大音量で警告を鳴らしていたが何故か身動きが取れない。
あぁ父さん母さん、僕は今日あらゆる外聞や常識を宇宙の彼方へ投げ捨てて、大人の階段を一段飛ばしで
駆け上ってしまうかもしれません・・・・。
彼の薄い唇が動く。そして真剣な顔つきそのままでこう言った。
「お前が言うんだったら、付き合ってやってもいいぞ。」
そのときの僕の表情はどんなだっただろう。
鏡で確認してないので残念ながらそれを知ることはできないが、キャラの路線から
激しく逸脱したものであっただろうことは確かだ。
スレの住人には見せられない。
ナンダッテーー!!(゚Д゚)な心境のまま3秒ほどフリーズした後、呪縛がとけたように僕は慌てて両肩から彼の手を押し退けた。
そして釈明した。
いや実際彼のことはとても好きだ。
3年前、能力に目覚めて以来あまりまともとは言えない生活を送ってきた僕は友好関係においても円満とはいえなかった。
だから普通の友達のように接することができ、それでいて同じ気苦労を共有できる彼には仲間意識のようなものを感じていたし、
親しみやある種の愛着も確かにあった。
だがそれはあくまでも友愛であって、お耽美的な意味合いのものでは断じてない!!
すると彼は気落ちしたような様子もなく、はっきりきっぱりとこう宣った。
「友愛と恋情の境界線なんて限りなく曖昧なもんだろ?どこからどこまでが友情で、どこからが恋だなんて判別は本人が
自分で下すもんなんだよ。実際付き合ってみてなんかいろいろやってるうちに本当に好きになるってこともあるかもしれないだろうが。」
古泉一樹16歳。新世界への扉をノックした瞬間だった。