キョン古??

 

谷「そんなに古泉好きかよ」
キ「す、好きな訳ねーだろ、あんなヤツっ!」
国「あ・・・」(戸口を指差す)

古「・・・お話し中、お邪魔してしまったようですね。すみません」(ニッコリと笑って立ち去る)

キ「ちょ、ちょっ、古泉・・・っ!!」(あわてて追いかける)


谷「あいつ、マジだったのかよ・・・」
国「青春だね」


というありがちな妄想。
−−−
授業が終わった直後の廊下にはそれなりの障害物(というか、生徒)があって
割と歩きづらいのだけれど、古泉は一流のサッカー選手のようにそれをすり抜け、
階段の方へと向かっていった。

「待てよ、古泉……古泉っ!」

呼びかけても、ちっとも振り返らない。
聞こえてるはずなのに。何なんだよ、一体。
なんでこんな「第4コーナーを回った競歩競技」みたいになってんだよ。


古泉をつかまえたのは、階段に差しかかってからだった。
律儀に一段ずつ降りていく古泉を追い抜くため、
やや無謀ながらも2段抜かしで駆け降りる。
勢いがつきすぎて、そのまま踊り場と正面衝突しそうで
かなり怖かった。でも、それを顔に出したらこっちの負け――と
ばかりに憮然とした表情を作り、古泉の前にでんと立ちはだかる。

こっちは軽く息が切れてるのに、涼しい顔をしている古泉に少し腹が立った。
そもそも、こいつが逃げたりしなければ、こんな運動しなくて済んだのに。

「…………古泉」

仁王立ちになっている俺を無視してすり抜けていこうとするから、
そうはさせじと身体を移動させ阻止した。逆側に動く。俺も動く。

「……通してください」
「イヤだ」

ふぅと息を吐き出してから、古泉は端正な顔に苦み成分99パーセントの笑みを浮かべた。

「ここはあなたの占有階段ですか?」

そりゃまぁ、違うけど。

「じゃあ、通してください。僕は下に行きたいんです」

そう言って、無理やり俺を押しのける。
F1のヘアピンカーブみたいな軌跡を描いて踊り場を通過し、
次の階段を1段下りた古泉の腕を、むんずと掴んだ。

「…………っ! 何するんですか!」

キツイ語調とともに振りかえれば、明るい色をした長めの髪がサラリと揺れる。
俺の方が一段高い場所にいて、いつも見上げる視線が、今は
対等か――いや、俺の方が見下ろすぐらいになっていた。

「なんで逃げるんだよ」
「別に逃げた訳じゃありません」
「用があったから、あそこにいたんだろ? 
それがいきなりこんなんじゃ、逃げたも同然だろ」
「違いますよ…………そう、たまたま入る教室を間違えただけで」

 おまえは酔っぱらったサラリーマンかっつーの。
俺と谷口たちの会話を聞いて逃げ出したのは明白だった。
「古泉を好きなのか」と問われ、「好きじゃない」と叫んだあの会話を。

気を抜けばあっという間に逃げられそうで、ブレザーが
シワになってしまうくらいに強く古泉の腕を掴んでいた。
「痛いです」と言われ、もっと力を込める。ここまで逃がすかよ。


逃がせる訳、ないだろ。こいつの、こんな顔を見せられて。


「それ」を口にしようかどうか、かなり迷った。
廊下からはザワザワとした気配が伝わってくる。
今は誰の影もないけれど、いつ、誰が現れるか分からない。
特にハルヒあたりに見つかれば、面倒になる事間違いなし、だった。

ああもういいや――と、思考グルグルを放棄する。
古泉は、アニメに出てくる美形敵キャラみたいな鋭い目で俺を見ていた。真っ直ぐに。

「……お前、さ」
「…………何ですか」
「そんな泣きそうな顔で俺の事、見るなよ」
「…………っっ」

瞬間湯沸かし器――というたとえもたいがい古いけれど、
言葉にするならまさにそんな感じで古泉の頬に朱がさす。
そうして、子供みたいな無茶苦茶な仕草で俺の手を振り解くと、
「僕がそんな顔するはずないでしょう!」と叫んだ。
いや、その、ホントに泣きそうな顔してんだよ、お前。

俺のせい…なんだよな、やっぱり。いつもの薄ら笑いを浮かべる
余裕が無くなってるのは、俺のあの言葉を聞いたからなんだよな?

さて、こういう時、どうリアクションすべきなんだろう。
俺の迷いを察したかのように、古泉が再び階段を降り始める。

「……って、おい、古泉!」

早回しの映像みたいに階段を駆け降りる古泉は、途中、一回だけ振り返って
「僕の事を好きじゃないなら、追いかけたりしないでください」とよく通る声で言った。

ひとり取り残された階段。手すりにもたれ掛かりながら、
古泉の捨てゼリフを反すうする。
好きじゃないなら追いかけてくるな――ってことは、裏返せば、
「好きなら追いかけてこい」って事か? そうだよな、つまり、そういう事だよな?

「…………ええと」

基本的に、俺も古泉も男なので、谷口あたりに
「お前ら、いつも一緒にいるけれど、もしかしてお前、
古泉の事が好きなのか?(恋愛的な意味で)」と問われた場合は、
「はい、そうです」と素直に答えてはいけない。
うっかり口を滑らそうものなら、「こいつらおホモだちです」という噂が
光の速さで校内を駆けめぐるだろう。
俺はともかく、あいつは割と女子生徒の注目を集める存在だし。

その手の質問をされた場合は、必ず否定しなければならない。
大抵の場合、そういう質問ってのは、本気で人の恋愛事情に興味が
ある訳ではなくて、ただ単に面白いネタを見つけてからかって
騒ぎたいってのが根底にあるから、
「んな訳ねぇだろ」と否定し続ければ、いつかは鎮火する(のだと思う)

だから、さっきも「好きな訳ねぇだろ」と否定したのだけれど、

「……まさか、本人に聞かれるなんて、な」

一昔前のラブコメ漫画じゃないんだから。乾いた笑みしか浮かんでこない。
古泉の姿はとっくに視界から消え去っていて、
残るは俺の選択のみ、だった。行くか、放っておくか。好きか、好きじゃないか。



好きか、好きじゃないか。そんなの決まってるだろ?

軽く息を吐き出して、手すりから身体を離す。
教室には置いてけぼりにされた谷口と国木田がいるだろうけれど、
俺が選んだのはそっちじゃなかった。
今度は安全策をとり、一段ずつ階段を降りて。


泣きそうな顔をされるのは困る。痛そうな顔をされるのはとても困る。俺が困る。

ひょこんと現れた俺を見て、あいつはどんな顔をするだろう。
いつもの営業スマイルでも構わないけれど、出来れば、
そこに少し「本物」の笑顔が混じっていればいいな――と思いながら、
最後は2段抜かしで軽くジャンプした。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-04-21 (火) 12:42:34