キョン不調

 

その日の俺は憂鬱だった
電池の切れた目覚ましの代わりに妹の容赦ないダイビングで起こされ(いつもは布団剥ぐだけなんだがな)
登校中谷口の彼女自慢を延々聞かされ(断じて羨ましくはない)
教室でのハルヒはまた嫌な笑みを浮かべて嬉しそうだったし(ろくなことを考えていない顔だ)
授業では面倒な課題が出る(その際後ろの席の女は余裕そうだった)
早く部室へ行こう
今日の俺は何か憑いてるとしか思えないからな
行って朝比奈さんのあのエンジェルスマイルを拝み素敵なメイド服姿で淹れてくれたお茶を飲むんだ
朝比奈さんの可憐な姿に心を洗われたい
ついでに憑き物も流れ落ちてくれ

だがそういう時に限って不運は重なるものらしい
文芸部の扉の先にはいつもと変わらぬ姿の長門とパソコンを睨みつけているハルヒしか見当たらない
朝比奈さんはどうしたんだ
「みくるちゃんなら校外美化活動で遅くなるって言ってたじゃない。」
そうだ、確かに昨日朝比奈さんはそんなことを言っていた
そんでハルヒがメイド服姿で校外掃除をしてくれとせがんで大変だった
…やはり今日の俺はどうにもついていないらしい
朝比奈さんの笑顔が見れない今、これ以上の不幸を呼ばないために何とかする方法はないのだろうか

そう考えたその時、
「失礼します。すみません、遅くなりました。」
ともう一人の男子部員が入ってきた
相変わらずのニヤケ面だ
朝比奈さんの笑顔とは雲泥の差だな
こいつの顔を見てもなんら癒されない
だが今の俺は少し違った
気分が滅入っているときは何かに勝つと気分が向上するのではないだろうかと思ったのだ
「…良いところに来たな、古泉。オセロでもやらないか。」
すると古泉は一瞬びっくりしたような顔を浮かべ、すぐにいつもの顔に戻った
「…それは光栄ですが。珍しいですね、まさかあなたから誘っていただけるとは思ってもみませんでした。」
いや、さっきまでの気味の悪い薄笑いとは少し様子が違った
胡散臭い笑みではなく、本当に嬉しそうに見えた
その後のコイツはオセロを棚から出そうとして床に落としてしまったり、椅子に座ろうとして足にひっかけて倒してしまったり、と散々だった
間抜けな古泉は大変貴重だった…嬉しくないが
俺の不運がコイツにうつっちまったんじゃないのか

結局やはりというか俺は圧勝し、そこで帰ってきた朝比奈さんの笑顔で不調は吹き飛んだかに思えたのだが

朝比奈さんの着替えのために男子二人廊下に追い出された時、
「また誘ってくださいね。」
とやたらと近づいて妙に低音で耳に囁いてきた古泉を見て
…なんだかこの不調はまだ続くような気がして一気に憂鬱になった
あぁ、忌々しい


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:16:16