キョン×古泉 寒い日


 寒い日でした。
 外には珍しく雪が降っていて、日も暮れかけた放課後の学校がゆっくりと橙色に染まってゆく中でちらほらと降るそれに、下校中の生徒が何人か歓声を上げていました。
 外はとても寒い筈なのにそうやって喜んでいる姿を見るとそんな事は全然感じさせなくて、あぁやって笑った記憶が僕にもあったのです。とても懐かしく感じてしまうけれど。
 今日涼宮さん達は商店街の喫茶店でパフェの割引券を貰ったとかで早々に部活を切り上げてしまったので、今部室にいるのは貴方と僕だけ。
 別段何をする訳でもなく暇潰しにオセロをしていました。
 緑色の盤上に際立つ白と黒のコントラストは、けれど白の圧倒的少数によって勝敗は既に決している様です。
 毎度の事で呆れられている感も否めませんがそれでも貴方は僕の相手をしてくれて、あぁいっその事飽きたと言う一言で振り切って突き落としてくれた方がどんなに楽な事だろうかと
僕は自分自身に溜息を送りました(勿論、貴方に聞こえない様にひっそりと)。
 最後の一手が終わって、貴方は「相変わらず弱い」と呟きながら背伸びをしました。
 僕は微苦笑を浮かべながらオセロを片付けてその間貴方は暇そうに椅子に背を凭れさせながら窓の外を見ていて、僕は棚にオセロの箱を戻してから振り返ります。

「帰りましょうか」
 いつもの笑顔しか出来ない自分を気持ち悪いと思いました。きっと貴方もそう感じている筈だ。
 長門さんの表情を汲み取る事が出来る貴方ですから、多分僕の虚構にも気付いていると思うので。
 それなのに笑う僕はとても惨めで滑稽で、何らかの方法で僕の事を知らせたいと思っても選択肢に含まれる全ての理由が僕の本意を反映しているかと問われれば首肯する事は出来ません。
 僕は何も出来ないのです。貴方に関しても、僕に関しても。それが決まりです。
「そうだな」
 短く素っ気ない返事を返した貴方は立ち上がりました。
 僕は機関を裏切る事も涼宮さんを裏切る事も出来ないししようとも思わないので貴方の手を取る事も出来ません。
(貴方に触れたのは、あの時だけ)
 コートを着て、鞄を持って、そうして部屋を出ると冷たい外気がこの体を包んで呼気が白く霧散しました。こんなにも近くに、貴方は居るのに。
(僕は馬鹿だ)
 何故僕が自分自身でも理解不能な感情に悩まされているのかは解りませんが、きっと貴方に好意を寄せる人を見ているからだと。閉鎖空間で涼宮さんの精神状態に侵されただけだと。
 そう思う事にしました。
 それ以外に僕は自分を慰めてあげる方法を思い付かなかったのです。
(僕は、 )

 寒い日でした。



 寒い日だった。
 外には珍しく雪が降っていて、下校中の生徒が何か知らんが楽しそうに騒いでいた。
 俺としては別に天気がどうであろうと何か思う所もない訳なのだが、白い駒を手に持ったままの(恐らく次の手を考えているであろう)古泉が窓の外を眺めているのを見て、
あぁこいつならこんな風景を見て綺麗だとか思うんだろうかと考えたらそれはそれで悪くないと思った。
 「割引券よ割引券!これは調査に行くべきよね!」などと散々騒ぎ散らしながら朝比奈さんと長門を連れて商店街の喫茶店に行ったハルヒのお陰で、この部室には今、俺と古泉しかいない。
 ひたすらにオセロをしていていつも思うが、古泉は弱い。何で此処まで弱いのかと疑問に思ったりもするが多分聞いても答えは返って来そうにないのでやめておこう。
 アナログゲームが趣味の古泉がちょっと可哀想だと思った俺の頭はどうにかしてるんだろうか(だって、こんな事でしか他人と触れ合えないなんて可哀想以外の形容方法があるのか?)。
 ぼんやりとそんな事を考えていたにも関わらず、気が付いたらオセロの勝負はついていた。考え事をしてても勝てるって、いいのか古泉。
「相変わらず弱い」
 思わずそう呟いてからゲーム中同じ姿勢だった背筋を伸ばす。対する古泉はいつもの様に困った様な苦笑を湛えながらオセロを片付け始めた。
 それを横目で見ながら、俺はまた窓の外に視線を移す。

 「帰りましょうか」と、古泉が言った。いつも通りのその笑顔が何だか無性にむかついて苛立ってけれどその苛立ちが何に対するものなのかを俺は知っているから態度に表そうとも思わないし
だってそんな事をして一番傷付くのは多分古泉で更に俺は苛立つだろうから。
「そうだな」
 と、俺は極力感情を表に露顕させない様な声で返事をした。
 すると古泉はまた笑顔を浮かべてから帰り支度を始めて、俺はこいつを柄にもなくかわいそうだと思った。
 いや、特に理由があった訳じゃない。でも何もなく突然それを思い至った訳でもない。
(何でお前はそうやって笑うんだ)
 コートを着て、鞄を持って、そうして部屋を出ると想像以上に廊下は冷ややかで、吐き出した息は白く染まる。隣に居る古泉は寒そうにして、ちょっとだけ肩を竦めた。
(だって俺は、)
 何故俺がそれを理解出来たのかは自分自身でも解らないし、もしかしたらそれは理解出来たと思っているだけで実際のところ見当違いな俺の思い違いであると言う可能性も無くはない。
 けれど俺がそう自覚してしまった以上、頭の中で成立した固定概念はそうそう簡単に紐を解いてはくれない様だ。だって俺は、
(気付いてるから)

 寒い日だった。


 俺は一刻も早くこの寒さから逃れたいと思って、隣をゆっくり歩く古泉の手を取った。
 それだけだ。
 それだけなのに。

 一瞬驚いた様に俺の方を見つめた後で、何処か幼く見える年相応な微笑みを浮かべた古泉の顔が、
(それはほんの一瞬だけだったけれど、)
 
 とても嬉しかったんだ。



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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:16:02