≪キョン×古泉≫


「だいすきです」

今このタイミングで何故この言葉が出てしまったのか、自分でも不思議でならない。
突如、それが自分のものではないかのように、勝手に唇が動いた。
彼を目の前にし、オセロ盤を挟んで向かい合っている、今この瞬間に。

「………あ、…」

何を言おうと遅いことはわかっている。
言ってしまったものは、しかもああまではっきり言葉を声に乗せてしまっては、もう取り消せない。
“大好きです…………オセロが。”
なんて、そんな風に無理矢理取り消すにも、間が空きすぎてしまった。
どうしようどうしよう。数ヶ月間の葛藤が、こんな中途半端なもので終わってしまうなんて。
僕はすっかり癖になってしまった笑顔を、しっかりと顔に貼りつけたまま、何もできなくなってしまった。

告白しても、無理だろう。
告白したら、今のこの彼の友人というポジションすら危うくなるだろう、と思っていた。
そうは思っていたけれど、こうも彼の反応がないと、もう途方に暮れた目で彼を見つめるほかなかった。
(さすがに好きだと言った瞬間は、ぴくんと肩を揺らしていたのが見えたけれど、その後は黙ったまま、ただただオセロ盤を睨んでいる。)

しばらくして、カタ、と音を立てて、彼はオセロ盤にオセロを一つ置いた。
そして器用に、何枚かのオセロを裏返していく。ああ、これはまた負けたな。

そして彼の視線が、盤から僕に、ゆっくり向けられる。

「たぶん」

彼がめんどくさそうに口を開く。
キスしたいな、なんて考えてしまって、心の中で苦笑した。

「俺の方が、ずっとずっと、好きだと思う」

「…………………え……」

なんだか情けない声が出て、笑顔が崩れてしまった。
平然と、言い放つ彼。

「…お前は知らなかっただろうけど」

しかし指先が微かに震えているのを見つけて、彼の言葉の真実味を知った。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:15:57