おそらくキョン古

 

 告白というものは、甘酸っぱい青春の1ページである。
 実際中学くらいまではスポーツが出来る奴だとか、面白い奴だとか、そんな奴がモテる。憎いくらいモテる。そんな明らかに努力だけじゃ追いつかない神様の与えたハンデに泣く男は多い、はずだ。そうであってくれなきゃ俺は困る。
 まぁしかし諸君、安心したまえ。高校に入る頃にはまた状況は変わっている。運動神経と笑いだけではモテない時代が来るのだ。いつまでもあると思うな親と金とモテ期。
 俺も人並みに苦々しい少年時代を経て、多少なりとも期待を持って始まった高校生活の中で、ついに青春のスウィートな思い出を作る絶好のチャンスが訪れた…はずだったのだが、今俺と向かい合っている相手をよくよく見てほしい。ああ、俺は見たくないからな。つーか、なんでお前がここにいるんだっ!
「今、す、好きとか言ったか?」
 何で俺がしどろもどろしなきゃならないんだ。告白はするよりされる側が圧倒的に優位なはずだろ? どういうことだ全く。落ち着け俺、俺なんにも悪くない。
 とか何とか自分に言い聞かせているうちに、目の前の真面目な顔した超能力者は、いつもの大げさな身振り手振りもなく、回りくどい説明もなく、ましてやあの胡散臭い0円スマイルもなく(これが一番大問題なのだが!)、短く2文字で肯定しやがったのだ。お前どこか具合でも悪いのか。俺はすこぶる悪いぞ! 胸のあたりがな。
 とにかくその真面目な顔をやめろ。ここぞとばかりに真剣な顔で冗談を言うなんてお前も本当に性格が悪いな。下手すると本気にするぞ。
「本気ですよ」
 まずいまずいまずい。俺、今墓穴掘ったんじゃないのか?
 肯定の言葉を誘導尋問してどうする!
「本気っつーのは、あれか? お前が、俺を、好きだとでも?」
「ええ、僕が、あなたを、です」
 聞かなきゃ良かった。全身の力が抜けていきそうだぜ。
 えーと、朝倉さんよ、俺はやって後悔するよりやらないで後悔した方がいいです。聞こえちゃいないだろうがな。ちなみに「やって」に深い意味はないからそこんとこ勘違いしないよーに!
「それは友達としてじゃ、なくてなのか?」
 何聞いちゃってんだよ俺! そこは適当に流しておけよ! って自分に言っても仕方ないな。もうこの際だ、認めよう、俺は古泉の「好き」の質についてわりと気になっている。だがしかしあくまでも人間誰しも持っている好奇心においての話だ。べ、別に男に告白されて喜ぶ趣味はないからな。
 あー、ハルヒ、長門、朝比奈さん、誰でもいい、早く戻ってきてくれ。いや、やっぱ今はやめてくれ。ろくなことにならんと俺のシックスセンスがハザードランプを点灯させているぜ。
「…友人としてではなくて、ですね」
「そうか、で、何で今そんなことを言うんだ」
 質問の順番を間違えているな。まあいい。
 とにかく古泉が何を考えているのかさっぱり分からんのだ。それは今に始まったことじゃないがな。天体の運動はいくらでも計算できるが、人の気持ちはとても計算できないって言ったニュートン先生の言葉に重力加速度以上の速さで頷きたいぜ。
「思わず…、と言ったところでしょうか」
 あのいけ好かない笑顔が40%カット(当社比)くらいで表れる。
 俺を差し置いて勝手に少し余裕を取り戻してるとは忌々しい。笑うな。いや真面目な顔もすんな。ちょっと待て、そんな捨てられた子犬のような目で俺を見るな!
「あの、どうしたらいいんですか」
「俺にもわからん!」
 分からないことばかりだ。この世には不思議がいっぱい転がっているぞ、なぁハルヒよ。分けてやれるもんなら今すぐに全部分けてやりたいぜ。
「要するにお前は俺がす…っ、好きなんだな?」
「ええ」
「友人としてではなく、恋愛対象として好きなんだな?」
「…そうです」
「冗談じゃ、ないよな?」
 冗談であってほしいという理性と、冗談じゃなければ良いなという…、ぅおわ!という"何"なんだ! 落ち着け、お前は誰だ。悪い宇宙人に体を乗っ取られでもしているのか俺は!
 どうやらこの思春期の苦悩は顔に出ていたらしく、くすりと古泉が笑う。
「誓って冗談ではありません」
「そ、それはつまり…」
 俺だって健全な高校生男子である。よって以下の質問は何か計算があったわけではなく、ついうっかりポロリと口から転がり出てしまったものとして、すなわちちょっとした気の迷い、あるいは小さなほほえましい事故としてなんとか処理しても
らいたい。お兄さんとの約束だ。そうして貰わないと自分の失態に今にも叫びだしてしまいそうだからである。
 つまり、俺は失言をした。
「つまり…性的なことも考えているのか?」
 さすがに古泉の顔から再び笑顔が消える。すまん、忘れてくれ。いまだ、都合よく記憶を失ってくれ。お前の頭の中の消しゴムを貸してくれ。それか「禁則事項です☆」とか気色悪い朝比奈さんの物まね付きで言ってごまかしてくれよ。ほんと悪かったから! 謝る! このとおりだ!
 しかし目の前のハンサム顔はあごに手を当て少し目を泳がせている。
「そうですね…、そういうこともあるかもしれません」
 そこは否定するとこだろ! ツッコミのないボケなんて何の価値もないんだっぜ!
 とまぁ、思いつく限りの正論でも浴びせかけてやろうと思ってもう一度正面からヤツの顔を見たらだ。ああもう思い出したくもない。よくもまぁそんな顔が出来るもんだ。そんな切なげに目を伏せられたら俺があらぬところにしびれるような拍動
を感じちまうのも仕方ないわけだ。
 んで、次の瞬間。
 何が起こったのか一瞬分からなかった。動作主である俺に分からないってことは、古泉にはもっとよく分からなかっただろう。気がついたら部室の長机の上に押し倒されているわけだからな。
 俺だって、初めて見るような驚いた顔をした古泉に見上げられているこの状況をなんとかしたかったさ。何とかなるものだったらな。
「え、ちょっ…、どうして」
 沈黙に耐え切れなかったのか、少しは現状を理解したのか、古泉が抗議の声を上げる。ああもううるさい。お前のせいだぞ。責任取れ。
「ちょっとこれは…想定外です」
 ああ俺もだよ。いいからもう黙れ。舌は噛まれたくないからな。

 この日は何か悪い地磁気だか引力だかの乱れが俺をおかしくしていたんだと思う。そういうことにしておいてくれ。
 あの後のことは…思い出すだけで不整脈になりそうだ。消えてしまいたい。しかし、だんだん消えていくくらいなら、激しく燃え尽きた方がましだ。…っと、これはカート・コバーンの言葉だったっけな。


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:15:45