≪古泉×キョン 誘導恋愛≫


「貴方はこれから三分以内に僕を好きになります」
……突然何を言い出すんだと頭の中では叫んでいたはずなのに、実際は呆気に取られすぎて何の音一つ発することさえ出来なかったようだ。むしろ、この空間そのものの全ての動きが止まったかのようにも思える。
ただ、その中でひとり変わらず笑みを浮かべるそいつ以外に。
「…………」
相変わらず言葉は出ない。何か言おうとしても、金魚やら鯉やらみたいに口をパクパクと動かすだけに留まり決して叫びたい感情は声として外に出ることはなかった。
「それとも、もうお気づきですか?」

何をだよ。
呆気に取られすぎて最早指一つ動かすことさえ出来ないらしく、笑みを貼付けたまま迫ってくる古泉をただ視線で追うことしか出来ない。やがて俺のすぐ目の前まで歩いてくると、真っ直ぐに目を見て来て何だか無性に気恥ずかしくなった。
…ちょっと待て、何で気恥ずかしくなる必要がある?
けどそのまま視線を合わせたままなのも何か嫌で、俯いたのだが。
「ちゃんと僕を見てください」

なんて言って、顔の両脇手で押さえられそのまま顔持ち上げられてほぼ無理矢理視線を合わされる。いつの間にか、胡散臭い笑みは何処かヘ消え滅多に見れない真面目な顔。……おいおいおい、今何だ、何か変な効果音が聞こえたぞ!
あぁもうどうしてこう心臓が煩いんだ。相手は男だ、同性だ!そんな相手にときめくなんて馬鹿げてる!落ち着け、落ち着くんだ。だから煩いって俺の心臓。
「……顔が真っ赤ですよ?熱でもあるんですか?」
くすくすと笑いながらどっかで見たような聞いたような台詞吐きつつ更に距離を縮められる。いや、それ以上近づかないでくれ。何となくヤバイ気がするんだ、だから頼むからそんなに顔近づけるな!
普段ならただ気色悪い、で済んでることなのに何で今に限ってこんな───こんな、何だよ。
「は?」
ようやく出た言葉は我ながら何て情けない間の抜けた音。さすがの古泉も首を傾げている。ああそうだろうな、今まで一言も発しなかった俺が突然声を出したかと思ったら『は?』だもんな。

…よし。ここまでの脳内を一度整理しようじゃないか。
そもそもなにが始まりだったか。…そう、古泉が変な事を言い出したことから始まったんだ。で、俺は呆気に取られて呆然として、こいつが迫って来て視線合わせられてそれで。
──考えてみたら意識してるの俺だけか?いやいやどうして、何故。相当な時間悶絶していたんだろう。沈黙に耐え兼ねたのか何なのか、小さな溜息を吐くとまた奴は胡散臭い笑みを浮かべて。
「貴方は、今誰の事を考えていますか?」
そりゃお前の事しかないだろ。お前がこの悩みの元凶なんだから。
「では、その人の事を考えるとどんな気持ちになりました?」
…?妙に心臓が煩くなって、頭が働かなくなった。だからどうした。こっちは至上最強…かどうかはしらないが激しく混乱中なんだ。
「それを、何と言うか知ってます?」
そいつは心底楽しげに、そう尋ねて。訳が分からない。そう目だけで訴えた、ら。

「──まるで、初恋に戸惑う少女の様でしょう?」
はつこい。初恋?
ああそう言われればそうだな、うん。俺も確か初恋…何時だったかな、そもそもそんなのあったか?いやきっとあったな、相当小さい頃に多分。
……思考が、止まる。
つまりなんだ、俺は、こいつに。
「…………ッ?!」
かち、と音がしてタイムリミットを告げるタイマーのベルの音。きっとそれが三分をきちんと正確に計っていたのだろう。俺からすれば、それは世界を粉々に粉砕した時限爆弾の音にしか聞こえなかったわけだが。
完全に思考を止めた俺に、またこれ以上無いくらい満面の胡散臭さ満点な笑みを向け、そいつは心底嬉しそうに囁いた。



──ね?貴方は三分以内に僕を好きになったでしょう?


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Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:18:13