古泉×キョン 成分解析


※以下を受けて
>恋愛分析機による古泉一樹の解析結果
>古泉一樹の96%はもう恋なんてしないなんて言わないよ絶対で出来ています
>古泉一樹の4%は体育館裏で出来ています


よりによってもう一本の無印の割り箸を引いたのは、胡散臭い笑顔を浮かべたこいつだった。
マイスウィートAngel、朝比奈さんとなら、この無益な探索もあまーい砂糖菓子のような至福のひと時となったことだろう。ああそうなっただろう。
なんでよりによって野郎2人で肩を並べて校内を徘徊せにゃならんのだ。ああ忌々しい。忌々しい!
学校には七不思議が付き物だという我らが団長のいつもの実に迷惑な主張のせいで、俺たちはまたしてもハルヒの結果の知れた探索につき合わされている。
人知れずピアノの音の鳴る音楽室に、夜になると一段増えている魔の十三階段?
そんなのは全国各地の小学生だけが信じてい ればいい戯言なのであって、俺たち青春まっさかりの高校生が真面目に信じるべきことではない。
ハルヒも分かっているはずなのに、往生際 が悪いというかなんというか・・・・・・。
結果、いつも通りに団長の我侭に付き合わされて、貴重な青春の1ページとなるはずの放課後を古泉と共に過ごす羽目となったわけだ。
折りしも季節は春。桜が咲き始めている。六分咲きというところだな。そして風が強い。
校門近くのの桜の木に首吊り自殺した生徒の霊が出ないことを確かめた俺たちは、体育館裏の壁にもたれかかって缶ジュースで一息入れていた。
体育館裏は日陰になっていて、少し肌寒い。

「涼宮さんたちは、何か収穫があったのでしょうか」
「答えの分かったことを聞くなよ。音楽室のピアノをいくら調べたところで、
自殺した生徒の弾く悲しい調べは聞こえんだろうな」
「ふふ、ごもっともですね」
古泉は手に持った紅茶を一啜りして、小さく息を吐いた。
あれはいつのことだったろうか、二週間程前だろうか。夕日の差し込む部室で、
珍しくこいつと俺だけが残されていた。
特にすることもなく、ひたすらオセロに興じていたがそれにも飽きてしまい、
雑談をしながら帰り支度を始めたころ、
唐突にこいつは「ところで、僕はあなたに恋しているのですよ。好きです」とさらっと言った。
何の脈絡も無く、突拍子もない文脈で。そしていつもの胡散臭い笑顔のままで。
あまりに突拍子もないことだったので、「ああ、そうか」とだけしか答えることができなかった。
いきなり同姓に訳の分からないことを言われて、混乱せずに冷静に答えられるやつがいたら俺の前に出て来い。
そしてこいつもこいつだ。特に表情も変えず、そのまま自然に他の話を始めてしまうものだから、
その話は自然に打ち切られてしまった。俺も混乱したまま、そのまま話を続けた。
そうしてそのままいつもどおりにくだらない話をしながら帰宅の途に着いたのであった。

その後も特に俺たちの関係に進展はなく・・・、って待てよ。進展って何だ、進展って。
俺はこいつと進展なんかしたくないぞ!大体進展するとどうなるんだ?
男同士で禁断の愛に突入か?いや俺にはそんな趣味は無いぞ。断じて無い!気色悪い。
わざわざ自分から掘り返したい話じゃないので、そのまま自然にそんな話をすることもなく、日々は過ぎたのだ。
しかし、こいつがどういうつもりであんなことを言ったのか分からないが、からかわれたのだろうか。
そうだとしても、オチがついてないぞ、オチが!そんなこんなで俺はこいつと二人きりでいるのが、非常に気まずい。しかしこいつにそう悟られるのもしゃくなので、できるだけ自然に装っているのだが。
しかしいい加減限界だ。ここ最近、こいつの気になってしょうがない。
こいつがあくまで自分からオチをつける気がないのなら、
こちらからアクションを起こさなければなるまい。非常に気が重いが。

「なあ、あのなあ古泉。この前部室で言ってたことだが・・・・・・」
「ああ、僕があなたにした告白、ですね?」
あまりにさらりと言うので、俺は何となく出鼻を挫かれてしまい、言葉が出なくなってしまった。
「気にしないでください。ただ言っておきたかっただけですので、返事はいりません。
それに、返事はどうせもう分かっていますし。もうとっくに諦めはついていますよ。忘れてください」

「・・・・・・忘れろと言われてもだな」
「忘れてください」
こいつはある意味長門に似ている。
こいつの笑顔は長門の鉄壁の無表情と全く同じ性質の物だろう。
そんな笑顔を浮かべながら、また古泉は紅茶を一啜りした。
「もういいんです。僕はもう恋はしないことにしました。
なんだか、僕は器用じゃないみたいで、いちいち疲れてしまいます。
ある意味、自己防衛と言ってもいいのかもしれませんね」
「古泉、それじゃ俺のせいでお前が今後恋ができなくなったみたいじゃないか」
「いえ、あなたに責任は少しもありませんよ。失言でした、謝ります」
そう言って古泉は乾いた笑い声を小さく立てた。
何もかもに失望しているような、そんな笑い声。
「それだけ、僕はあなたが好きだということです」
何と言っていいのか分からず、俺は黙り込んだ。冗談にしては、たちが悪すぎる。
こいつは、本気だったのか?こいつは俺が、好きなのか?
もう中身の入っていないコーラの缶を無意味にいじりながら、
俺はやはりあの時と同じように混乱しっぱなしだった。

正直なところ、前も今も、嫌悪感は無かった。
ああ、そりゃそうだ、こいつと俺は認めたくはないが一応友人関係だ。
俺はこいつが基本的にはむかつくのだが、それでも色んなことを一緒に経験してきたんだ。
そりゃあ友情もわくってものだ。しかし、こいつに恋愛感情を抱いた記憶などない。
当たり前だ、俺にそういう趣味は無い。
だから正直俺がこいつに返事を求めなくてほっとしている。
無下に断ることもできないし、だからといって受け入れることもできないしだろう。
じゃあ俺はこいつをどう思ってる?いやそれは友人として・・・。
ああ、なんだか混乱してきた。しかし何だこの甘酸っぱい空気は!
ああ、顔が熱いのは頭が混乱しているせいだろう。

「あ、あのな、古泉・・・・・・」
「ああ、迷惑ですよね、分かっていますよ。それ以上言わないでください」
「いやそうじゃなくてだな・・・・・・」
古泉は少し眉間に皺を寄せて顔を逸らした。
「いやな、その・・・・・・、俺にはそういう趣味はないがな、とりあえず、嫌ではなかったぞ」
古泉は相変わらず顔を逸らしたままで、表情は見えない。
「いや・・・まあそんだけだ。
お前が好きかって言われると、よく分からんが、とりあえず、それだけだ」
ああ、耐え切れない、なんだこの空気は!
付き合い始めの高校生カップルみたいなこの雰囲気に俺はこれ以上耐えられない。
それだけ言うと、俺はいそいそとその場を去った。
七不思議は結局見つかっていない。ハルヒにはどやされるだろうが、一刻も早く部室へ帰りたい。
背中から、小さな声で「もう、恋なんてしないだなんて、言いません」と聞こえたような気がしたが、
春風が強かったことを言い訳に、聞こえなかったことにした。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2008-01-30 (水) 23:18:11